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【PM実践】ピックアップレビューで品質保証する方法

このnoteでは、ピックアップレビューというレビュー手法について使い方や実施のポイントを説明します。


◆変更履歴◆
2024.04.02 初版公開
2024.04.08 トップ画像、誤字修正


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ピックアップレビューとは

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ピックアップレビューとは、成果物の一部のみをピックアップしてレビューすることです。ピックアップとは多くの中からいくつかを選び出すことで、すべての成果物をレビューするのではなく、その中の一部だけをレビューして品質保証をするという手法になります。

こんなレビュー手法は聞いたことがないという人もいれば、サンプリング検証という名前でなら類似の手法を知っているという人もいるかもしれません。Web検索してみてもピックアップレビューについて言及しているページはなかなか見つからないので、一般的に広く普及している手法ではないと思われます。しかし、ポイントをおさえてうまく活用することで、効率的かつ効果的に成果物の品質保証ができる手法ですので、ぜひ実践方法をマスターしてプロジェクトで使ってみてください。

ピックアップレビューを使うタイミング

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ピックアップレビューを効果的に使うことができるタイミングというのは、ある程度限られます。

プロジェクトで作成した成果物を、ピックアップレビューだけして顧客に納品することはありません。ピックアップレビューとは成果物の一部だけをレビューする手法なので、当然レビューしない成果物もでてきます。たとえ一部とはいえ、成果物を一切レビューすることなく顧客に納品することは成果物の完成責任を果たしていないことになります。ピックアップレビューの使うタイミングは他にあります。

【使うタイミング①】パートナー企業による成果物の受入確認

ピックアップレビューが使えるのは、プロジェクト内で1次レビュー、2次レビューと段階的にレビューをしている場合の、2次レビューになります。パートナー企業と協業している場合で言うと、
 成果物作成 :パートナー担当者が作成
 1次レビュー:パートナーリーダーが実施
 2次レビュー:自社リーダーが実施 ★ここでピックアップレビュー★
となります。これはパートナー企業が作成した成果物の受入確認(検収)の位置づけとなります。

【使うタイミング②】PMによる品質確認

PMによる品質確認でもピックアップレビューは有用です。

プロジェクトの規模がある一定を超えると、PMはマネジメントに専念し、自分で設計書を書いたりレビューしたりすることはなくなります。品質マネジメント計画を定め、定めたプロセスで作業が進捗していること確認し、評価指標として集めた情報を分析して品質評価をします。

しかし、評価指標だけで判断をしていると「机上の品質保証」となってしまい、「実感としての品質」「肌感覚としての品質」がわからず、自分がマネジメントしているプロジェクトの品質を自信をもって語れません。顧客や上司に対して自信をもって品質を語るためには、成果物の一部を自分の眼で確認して、その出来や問題点を確認しておく必要があります。そのようなケースにもピックアップレビューは使うことができます。

ピックアップレビューのよくある誤解

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プロジェクトでピックアップレビューを実施した後に、レビューしたリーダーに「品質どうだった?」と聞いて、「レビューしたものは大丈夫ですがレビューしてないものはわかりません」という回答が返ってくることがあります。これはピックアップレビューを誤解している人の回答です。

ピックアップレビューでは成果物の一部しかレビューしませんが、レビューした成果物しか品質保証ができない手法なら、これはレビュー手法として意味をなしません。成果物の一部しかレビューしないのに、成果物全量の品質保証をするための手法がピックアップレビューだからです。

また実践方法を理解すると、「あれ?一部のレビューで全体の品質保証ができるなら常にピックアップレビューでよくない?」と思う人がいるかもしれません。これはプロジェクトの方針次第とはなりますが、多くのプロジェクトは全量レビューとピックアップレビューを組合わせて品質計画を作成しています。

求められる品質基準が高いプロジェクトの場合、1つの成果物を1次レビュー、2次レビュー、場合によっては3次レビューと段階的にレビューし品質確認をしますが、ピックアップレビューになりうるのは2次レビュー以降です。1次レビューをピックアップにしてしまうと「納品対象なのにレビューをしていない成果物がある」ということになり、請負契約における成果物の完成責任を果たせなくなります。2次レビュー、3次レビューも全量レビューとするプロジェクト・工程もありますが、工数や期間の制約で一部しかレビューできない場合、ピックアップレビューを知っていればそこをピックアップレビューに置き換えることが可能となります。

効果的に実施するためのポイントはただ1つ

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ピックアップレビューのポイントはだた1つ、成果物レビューをとおして「人」をレビューすることです。

自身の周囲に目をやると、人により作業や成果物の品質に差が出ることは明白です。要件や開発ルールに対する理解が自分と同等であれば、その人の成果物をレビューしてもほとんど指摘がありません。この状態を意図的に作り出し品質保証に利用するのがピックアップレビューです。考え方としては以下となります。

  1. この人は要件や開発ルールに対する理解も十分だし設計スキルもある

  2. この人が担当した成果物、全量レビューした成果物なら品質に問題はないはずだ

  3. 「念のため」自分も成果物の一部を確認したが問題なかった

  4. だから成果物全体の品質は問題ない

上記1、2がある前提だからこそ上記3に意味が出てきます。ピックアップレビューをただの一部レビューだと考えている人は、自分がレビューした成果物以外の品質保証はできません。しかし、「人」のレビューを行い要件や開発ルールに対する理解が自分と同等であると確認ができていれば、自分が成果物の一部をレビューするのは「念のため」の確認になるのです。「念のため」の確認で問題がなければ、成果物全体の品質は問題がないと考えられます。

一点注意が必要なことは、その「人」がどれだけスキルがあり過去プロジェクトの実績があろうとも、それだけで品質保証の材料にしてはいけません。どれだけ優秀でも今回のプロジェクトの要件はうろ覚えかもしれないし、開発ルールの理解も十分ではないかもしれません。それはその「人」の優秀さとは別の話です。そのため、その「人」が要件や開発ルールを十分理解しているかどうかは、やはり成果物を直接レビューして確認する必要があります。そして理解が不十分だとわかれば、レビュー指摘の対応や指導により理解を十分にしてもらわなければなりません。それが成果物をとおして「人」をレビューするということになります

実践方法:①レビュー対象の選定

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ここからはピックアップレビューの具体的な実践方法を説明します。

まず最初にレビュー対象の選定です。これは対象者を誰にするか、どの成果物をレビュー対象にするか、の2つがあります。

1つ目の対象者ですが、これはスライド6のケースだとパートナー企業のリーダーになります。成果物の作成者ではなく、作成者の成果物を全量レビューしているリーダーであることに注意してください。このリーダーの要件や開発ルールに対する理解度が自分と同等であれば、このリーダーが全量レビューした成果物は安心できます。

次にレビュー対象の成果物ですが、これは「対象者+設計書種類」で全パターン網羅するように選定します。スライド6のケースだと、「リーダー+画面設計書」の組合せから1つ、「リーダー+API設計書」の組合せから1つ、となります。これは最低限の数で、1つでは安心できない場合は数を増やしていきます。通常だとプロジェクトの品質計画で「この工程の2次レビューはピックアップレビューとする」と定められた場合、同時に「ピックアップ率」も定めます。ピックアップ率が10%なら成果物全体の10%はレビューするという意味になります。

「対象者+設計書種類」の組合せで網羅するのは、画面設計書については設計スキルも十分で記載ルールも完全に把握していてもAPI設計書については理解できていない、といったことに対応するためです。誰しも得意不得意はありますし、開発ルールの全部を完璧に頭に入れた状態でレビューすることは非常に難しいことなので、その対策として「対象者+設計書種類」の組合せで全パターン網羅するのがよいと考えています。

スライド6のケースではリーダー1人でパートナー企業内の成果物を全量レビューしたことになっていますが、複数のレビューアでレビューを分担している場合もよくあります。その場合も基本的に考え方は同じで、「レビューアAさん+設計書種類」「レビューアBさん+設計書種類」「レビューアCさん+設計書種類」で対象成果物をピックアップしてレビューします。

実践方法:②成果物レビューをとおして人をレビュー

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対象者と成果物が決まったら、成果物レビューをしていきます。成果物レビューでは以下のような観点で実施しますが、プロジェクトで定義されたレビュー観点やチェックリストがあればそれに従う形でOKです。

  • 設計誤りや設計漏れはないか

  • 上流工程のドキュメントとの齟齬はないか

  • 設計標準や記載ルールに準拠しているか

  • 受け手が誤解しそうな文章表現や誤字脱字はないか

成果物レビューをした結果、修正箇所や確認箇所があればレビュー指摘としてあげていきます。通常のレビューであればレビュー指摘一覧を返却して、その指摘の対応が終われば完了ですが、ピックアップレビューでは成果物をとおして「人」をレビューするのが重要です。通常のレビュー観点と合わせて「人」についても以下のような観点でチェックします。

  • 対象者の設計スキルは十分か、考慮漏れしている箇所はないか

  • 対象者はインプットとなる上流工程のドキュメントを十分に理解しているか、理解誤りやインプット漏れはないか

  • 対象者は設計標準や記載ルールを十分に理解しているか

  • 対象者は受け手が誤解する可能性のある日本語表現を放置していないか

ピックアップした成果物のレビューだけでは対象者の理解度が判断つかない場合、同じ種類の成果物を複数みて確認していきます。

そして成果物レビューが完了したら、レビュー指摘の説明のために打合せをセッティングします。レビュー指摘を書面で返却するだけだと、レビューした成果物についての修正対応だけで終わってしまい、「人」のレビュー結果の確認や修正対応が不十分になってしまうため、レビュー指摘の説明は必ず打合せをセッティングして直接会話します。

打合せの中では成果物のレビュー指摘を説明しながら、成果物レビューだけではわからなかった対象者の能力や理解度を確認していきます。本人は十分に理解しているけれどたまたまレビューした成果物でミスがあっただけなのか、本人の理解度不足でそのミスがあったのか、これを見極めます。後者であれば他の成果物も同じミスをしている可能性があるため、確認と修正依頼をします。

実践方法:③理解を確認するための質問

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また、レビュー指摘説明の打合せの場では、レビュー対象者の理解を確認するための質問をすることも重要です。

正解がわかってることや回答の予想がつくような質問というのは、通常のレビュー指摘では指摘として起票しません。書面でやり取りする場合でも理解を確認するためにレビュー指摘として挙げることはありますが、それはレビューアの裁量にまかされます。しかしピックアップレビューでは「対象者の理解度」が非常に重要な品質保証の要素であるため、必ず打合せの場で確認を行います。

「ここはなぜこの設計にしたの?」、「これってどういう意味?」に対してしっかりと回答できれば安心ですが、「別の機能の設計書がそうなので」「作成者がこれで大丈夫と言っている」などの回答だった場合には注意しなければなりません。必要なスキルや知識が不足している可能性がありますので、その場で補足説明をして不足している知識や認識を補い、その状態で再度成果物の確認をしてもらいます。

レビュー対象者があまりにも質問に対して回答できない場合、その人はそのポジションに必要なスキル(成果物をレビューするスキル)を持っていないことになるので、最悪のケースだとそのポジションの人の交代と、交代後の人による成果物の全量再確認が必要になります。

ピックアップレビューでの品質保証

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最後に、ピックアップレビューでの品質保証の考え方についてまとめます。前述の繰り返しとなりますが、成果物の一部のみをレビューするピックアップレビューで成果物全体の品質保証ができる考え方は以下となります。

  1. この人は要件や開発ルールに対する理解も十分だし設計スキルもある

  2. この人が担当した成果物、全量レビューした成果物なら品質に問題はないはずだ

  3. 「念のため」自分も成果物の一部を確認したが問題なかった

  4. だから成果物全体の品質は問題ない

成果物のレビューをとおして「人」のレビューを行い、考え方1と2を自信を持って言える状態にすることが何よりも重要な考え方です。「画面設計書についてなら自分と同等のレビューができる」となれば、この人がレビューした画面設計書の品質は信頼できますし、その中のいくつかを自分がレビューして問題なければ確実に安心できます。これがピックアップレビューの品質保証の考え方です。

参考文献/参考サイト


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