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光、再考 2

かみさまの葬式には行けなかった。大人たちが場所を教えてくれなかった。わたしはひとりで冷たい床に横になり、星を数え、あの星に花は咲くのだろうか、猫はいるのだろうか、どの星と仲が良いのだろう、かみさまはあの星を何日かけて作ったのだろう、と毎晩思いを巡らせた。教えてくれるひとがいないので、自分の好きな答えをつくった。

そうして7日も過ごしているとだんだん現実と区別がつかなくなってきた。一旦脳みそでも洗おうと立ち上がる。するとそこにハカセが訪ねてきた。

いやいや大変でしたね、お葬式は行かれましたか、ああ行けなかったのですか、大変でしたね、とせわしなく口を動かし、ポケットからチョークを出すと、ぶつぶつ何かを唱えながらさっそく床に数式を書き始めた。

わたしは脳みそを洗うのはやめにして、数式を見ることにした。書かれていることの意味は分からないが、指先からスラスラと流れ出る線の美しさにはいつも見入ってしまう。時折手は止まり、ハカセは苦しそうに唸る。わたしはどうすることも出来ないのでそっとしておく。心配しなくても、いつもハカセは自分で道を見つけ出し、再び手を動かすのだった。

そんな晩が三たび続き、四日目の晩が明ける頃、博士は大きく伸びをした。またひとつ、美しいものを見つけました、これは残しておいてください、明日ここからハッテンさせるんでね、それではね、お邪魔いたしましたね、と晴れやかな笑顔を見せて帰っていった。



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