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病気コラムvol.11《わんちゃんの皮膚疾患》

今回は、わんちゃんの皮膚疾患に関してお話いたします。


膿皮症

1、膿皮症とは

わんちゃんの9割が保有している
皮膚の常在菌「ブドウ球菌」が
増殖することで、皮膚に感染が起こり、
炎症が生じる疾患です。

わんちゃんの皮膚は、
バリア機能に重要な役割を果たす角層や
表皮の厚さが、人の約1/3程度と薄いため、
外部からの刺激に弱く、
デリケートであることが伺えます。

【犬の皮膚の構造】
引用:伴侶動物の皮膚科・耳科診療(出版:緑書房)

また、人の皮膚のpHは弱酸性なのに対して、
わんちゃんの皮膚のpHは、
中性~弱アルカリ性です。

pHがややアルカリ側にあるため、
皮膚表面の菌の増殖を抑制しにくいことが、
膿皮症を発症させやすくしている
とも考えられています。

特にアレルギーや内分泌疾患など、
基礎疾患や遺伝的素因があると
膿皮症の再発や悪化の原因になります。


2、膿皮症の症状

膿皮症は、
感染炎症を起こしている皮膚の部位により、
3種類に分類できます。

【犬の膿皮症の分類】
引用:伴侶動物の皮膚科・耳科診療(出版:緑書房)


①表面性膿皮症
皮膚の表面において細菌の増殖が認められますが、
感染は成立していない状態です。
典型的な症状の一つに表皮小環があります。

【犬の表皮小環】
引用:伴侶動物の皮膚科・耳科診療(出版:緑書房)

他にも毛包に一致した
丘疹・膿疱、痂皮、脱毛、紅斑などがあります。
痒みは出ることが多いですが、
症状によっては必ず出るとは限りません。

【犬の膿疱の画像】
引用:伴侶動物の皮膚科・耳科診療(出版:緑書房)


②表在性膿皮症
毛包内あるいは、
表皮内にのみ病変が存在する状態です。

表在性膿皮症は、
上記の特徴的な症状のみで
暫定的に診断することもできますが、

皮膚検査による感染像の確認や
細菌培養感受性検査をすることで、
より正確な診断と治療が可能となります。

【細菌培養検体の採取】
引用:伴侶動物の皮膚科・耳科診療(出版:緑書房)


③深在性膿皮症
感染病変が表皮や毛包内にとどまらず、
真皮や皮下組織まで達した状態です。

深在性膿皮症の場合は、
肉眼的に腫瘍性皮膚疾患などと
鑑別することは困難なため、

細菌培養感受性検査や
皮膚の一部を切り取る皮膚生検検査を
行うことが推奨されています。
 
また基礎疾患を持っているかどうかは、
追加の血液検査や画像検査などが必要です。


3、膿皮症の治療

・基礎疾患があれば、
その疾患の治療を開始します。

・外用薬や消毒薬などによる洗浄を開始します。
・内服薬の抗菌薬を開始します。
 外用療法と組み合わせての治療が重要です。

・適切なシャンプー剤を使用し、
スキンケアを行います。

表在性膿皮症は、
適切な抗菌療法を行えば、
4週間ほどで治療が終了します。

深在性膿皮症では、
長期化する傾向があり、
難治性になることも多いです。

基礎疾患が背景に存在する場合は、非常に再発しやすいため、
継続的な皮膚のケアが必要です。



マラセチア性皮膚炎

1、マラセチア性皮膚炎とは

マラセチアは、動物の皮膚や外耳道表面に
常在する酵母菌の1種です。

菌から産生される代謝産物や菌体要素が
皮膚炎の原因になると考えられています。

また、皮膚から産生される皮脂を
栄養源としているため、
皮脂の分泌が増えると、増殖しやすくなります。

【マラセチアの画像】
引用:伴侶動物の皮膚科・耳科診療(出版:緑書房)


2、マラセチア性皮膚炎の症状

症状は、
脂漏、脱毛、紅斑、苔癬化、痒み、
色素沈着、臭気などが認められます。

外耳、口唇、鼻、肢、指間、腋窩、内股などに
良く症状がみられます。

【マラセチア性皮膚炎の画像】
引用:伴侶動物の皮膚科・耳科診療(出版:緑書房)

皮膚の脂漏や苔癬化などの
特徴的な症状がある場合や、

病変部の検査で、
異常な数のマラセチア菌の検出された場合は、
抗真菌薬での治療を行い、

症状の改善と菌数の減少があれば、
本疾患の可能性が高いと言えます。


3、マラセチア性皮膚炎の治療

・基礎疾患があれば、
その疾患の治療を開始します。

・専用のシャンプーで余分な皮脂と共に洗浄することが基本です。
 症状が改善するまでは、
週に2~3回のシャンプーを行います。

・皮膚の症状により、
内服の抗真菌薬を使用します。
シャンプー療法と併用することが重要です。



食物アレルギー性皮膚炎

1、食物アレルギー性皮膚炎とは

食物中に含まれるタンパク質に対する
アレルギーで、主に痒みが生じる疾患です。
Ⅰ型アレルギーとⅣ型アレルギーの2つ
関与が考えられています。

①Ⅰ型アレルギー
抗原が体内に侵入すると、IgE抗体を作り出します。
このIgE抗体は、
マスト細胞や好塩基球の表面に結合していますが、
再び抗原が体内に侵入すると、
抗原と結合し、排除しようとします。

その際、ヒスタミンやセロトニンなどの炎症性物質が
過剰に放出され、これらの物質により、
痒みなどの症状が引き起こされます。

②Ⅳ型アレルギー
抗原が体内に侵入すると、
感作T細胞と呼ばれる細胞が反応し、
サイトカインと呼ばれる物質を放出します。
このサイトカインにより、
好中球やマクロファージといった細胞が活性化し、
集まることで傷害を引き起こすアレルギーです。


【皮膚症状を呈する食物アレルギーの免疫タイプ】
引用:イヌのアレルギー診療に差をつけるコンパニオン診療2022年改訂版
(出版:理研ベンチャー動物アレルギー検査株式会社)


2、食物アレルギー性皮膚炎の症状

眼の周囲、口、耳、四肢、肛門周囲など、
様々な部位に痒みが生じます。

アトピー性皮膚炎との違いとして、
腰背部にも痒みが生じることがあります。

【食物アレルギーの典型的な痒みの部位】
引用:イヌのアレルギー診療に差をつけるコンパニオン診療2022年改訂版
(出版:理研ベンチャー動物アレルギー検査株式会社)
【食物アレルギー性皮膚炎の画像】
引用:獣医臨床皮膚科学OPENGATE(出版:interzoo/現EDUWARD Press)

確定診断をつけるには、
除去食試験が必要となります。

除去食試験では、
獣医師に指示された療法食を2カ月間給与します。
これにより痒みが減るようであれば、
食物アレルギーと診断します。

試験中は、
療法食以外の食べ物は、一切与えないことが重要です。

【除去食試験のフローチャート】
as2023年3月号(出版:EDUWARD Press)


3、食物アレルギー性皮膚炎の治療

アレルゲンとなる食物の含まれていないフードを与えます。
一般的には薬は必要ありませんが、
アトピー性皮膚炎を併発していることも多く、
その場合は、薬での治療も必要となります。



アトピー性皮膚炎

1、アトピー性皮膚炎とは

環境中の抗原に対するIgE抗体が関与する
Ⅰ型アレルギー反応により引き起こされる皮膚炎です。

2、アトピー性皮膚炎の症状

眼の周囲、口、耳、四肢、肛門周囲など、
様々な部位に痒みが生じます。

【アトピー性皮膚炎の症状の画像】引用:獣医臨床皮膚科学OPENGATE(出版:interzoo/現EDUWARD Press)

発症が3歳齢未満、痒みに季節性があること、
ステロイド剤で痒みが治まることや、
ノミやニキビダニの感染、膿皮症、
マラセチア性皮膚炎の
除外診断を行った上で、暫定的に診断します。

また、アレルゲン特異的IgE検査や
皮内試験により診断することも可能です。


3、アトピー性皮膚炎の治療

・痒みを止めることが重要です。
ステロイド剤や分子標的薬の内服薬、
ステロイド剤の外用薬を用います。
症状が改善されれば、
少しずつ用量や頻度を減らしていきます。

・免疫抑制剤の内服薬を用いることもあります。
・特定のダニにより症状が出ている場合は、
減感作療法を用いることもあります。

【外用薬での治療が奏効した症例】
as2023年3月号(出版:EDUWARD Press)



アレルギー検査

「何の物質に対して
アレルギー反応を起こしているか」ということを
血液検査で調べると、
その後の対策を練りやすくなります。

【アレルギー検査の選択】
引用:イヌのアレルギー診療に差をつけるコンパニオン診療2022年改訂版
(出版:理研ベンチャー動物アレルギー検査株式会社)

アレルギー検査には主に2種類があります。

①環境アレルギー疑いの子
アレルゲン特異的IgE検査」
環境アレルゲンと食物アレルゲンの全40項目を調べられます。


②食物アレルギー疑いの子
リンパ球反応検査」
この検査はさらに細かく下記の2つに分かれています。

・主要食物アレルゲン
 主に一般的なフードに使われている、
 鶏肉・牛肉・豚肉などの9項目を調べられます。

・除去食アレルゲン
 アレルギー対策フードに使われている、
 羊肉・馬肉・七面鳥などの
 9項目を調べられます。

【リンパ球反応検査のパネルの選択】
引用:イヌのアレルギー診療に差をつけるコンパニオン診療2022年改訂版
(出版:理研ベンチャー動物アレルギー検査株式会社)

上記のようにアレルギーの種類によって、
優先すべき検査がありますが、
なかには、
環境と食事の両方にアレルギーを持っている子もいます。

そんな子には、
アレルゲン特異的IgE+リンパ球反応検査セットを勧めます。
上記の環境アレルゲンと食物アレルゲンの全40項目(IgE)と
主要食物/除去食アレルゲン(リンパ球)の検査が
セットになったものです。

アレルギー反応を起こす物質を知ることによって
どのような対策をとれば、
現在の症状が抑えられるかがわかります。



おうちでのスキンケア

今回紹介した皮膚疾患は、
いずれも治療にシャンプーを用いることが多くあります。
シャンプーの方法について紹介させていただきます。

1、シャンプーの選び方

皮膚疾患のある場合は、獣医師に相談し、
処方されたシャンプーを使用しましょう。

特に皮膚疾患のない場合は、
市販のシャンプーでも構いませんが、
人用ではなく、
必ずわんちゃん用を使用しましょう。

【準備するもの(例)】
動物看護2023年10月号(出版:EDUWARD Press)

また、被毛のもつれや静電気を予防するには、
リンスやコンディショナーがおすすめです。

保湿剤は、湯船に入れる「つかり湯タイプ」や
シャンプー時でなくても使用することのできる
「スプレータイプ」、「泡タイプ」があります。

乾燥を防ぐだけでなく、
皮膚バリアを正常に保つセラミドなどの成分を
使用することで、
皮膚疾患の予防に繋がるため、おすすめです。

【保湿剤の種類】
as2023年5月号(出版:EDUWARD Press)


2、シャンプーの方法

ぬるま湯は、30℃が目安。
水温が高いと、
シャンプーの後に皮膚が乾燥しすぎたり、
痒みが生じたりする場合があるので、
30℃を目安に調整すると良いでしょう。

シャンプー前に
皮膚トラブルのある部分や汚れやすい部分を
チェックしておくと良いでしょう。

また、ブラッシングで毛玉をほぐし、
汚れや抜け毛を取り除きましょう。

シャンプーの方法

①ぬるま湯で濡らす 
(大まかな汚れを落とし、皮膚に水分を含ませる。) 
皮膚・被毛全体をまんべんなく、ぬるま湯で濡らします。 

シャワーが苦手な子は、
湯船を使用し、つかり湯でも構いません。 

②下洗い
(汚れや付着物を取り除く。)
シャンプーをよくなじませ、十分泡立つまで、
身体全体をマッサージする感覚で洗います。

泡立てネットを使用し、
あらかじめ泡立てたシャンプーを使用しましょう。

【泡立てネットでしっかり泡立てましょう】
動物看護2023年10月号(出版:EDUWARD Press)

③本シャンプー
(シャンプーの成分を皮膚に浸透させる。) 
シャンプーの成分を皮膚に染み込ませるように
マッサージしながら、 
10分程度かけてやさしく洗います。 

薬用シャンプーを処方された時は、 
本シャンプーの時にそれを使用しましょう。 

皮膚炎のある部位は、先に洗います。 
そうすることで、
薬用成分をしっかりと浸透させることができます。


④すすぎ 
(シャンプー、汚れを洗い流す。)
ぬるま湯で十分にすすぎます。
耳や眼にシャンプー剤や水が
入らないように注意しましょう。

⑤コンディショナー
必要に応じてコンディショナーを使用します。
コンディショナーを使用した後は、
残らないようにしっかりすすぎます。
つかり湯タイプの保湿剤を使用する際は、
この時に使用しましょう。

【保湿剤の種類と使用している様子】
as2023年5月号(出版:EDUWARD Press)

⑤タオルドライ 
(水気を拭きとる)
タオルに水気を含ませるように、
やさしく拭いて乾かします。

この時に、
保湿剤(スプレータイプ、泡タイプ)を使用します。

ドライヤーを使用する際は、冷風を使用します。
身体からなるべく離して短時間で行ってください。



皮膚疾患は、
長期的な治療やケアが必要になることが多い病気です。

皮膚が気になるときは、
お早めにご相談ください。


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