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”ねこじゃら荘”の地鎮祭

七月の末だったか、八月だったか
とにかく暑い時期でした。
たまたま猫小屋を建てることになって
自分の額ほどの地面の
地鎮祭。

地鎮祭って、ニャ~に?
工事猫さんたちの安心のためと聞いて納得。
で、当日、いまパソコンに向かっているここ、
”ねこじゃら荘”が建つ場所へやってきました。

笹竹がヒョロヒョロ立っていて
しめ縄も張ってあって、真ん中に祭壇。
お酒やお米、いっぱい並んでいたけれど
真っ先に子猫の目に飛び込んできたのは
”お鯛さん”、尾頭付きの見事な鯛!

”お鯛さん”は、お下がりとして
神社で暮らす地域ネコさんたちの
夕ご飯になると、あとで神主さんが
うれしそうに話してくれました(よかった!)。

さて地鎮祭が始まって
神主猫さんは伸びやかなバリトンで
祝詞を上げてくれます。
「この度、ここに子猫というのが
猫小屋を建てると言っています。
生きものの皆さん、足のある方、ない方
みなさんが静かにお暮しのところ
ずいぶんとご迷惑をおかけしますが
どうかお許しください。」

だいたいこんな内容だったと思うけど、
そうニャンだ……猫小屋が建つということは
もとからここで生きているみなさんに
多かれ少なかれ迷惑をかけることなんだ。

できるだけ邪魔にならないよう
気を付けて暮らしますから、
土作り上手のミミズさん、
巧みな織子クモさんも
新参の子猫と
どうか仲良くしてください。

       🌾     🌾     🌾

地鎮祭で
工事の安全と住む安心を
祈願してもらった土地は
もとは、南が欠けた
歪(いびつ)な土地でした。

町の不動産屋さん、
ちょっとお腹の出たおじさん猫が
あっちこっち案内してくれて
ようやく静かな場所を見つけたものの
日当たり抜群の南の隅っこが
ペコンと欠けていたのです。

おじさん猫は迷い始めた子猫に
まず「本体」の契約を済ませて欲しい、
そのあとはヴェテランの自分に任せて欲しいと
真正面から子猫を見るおじさん猫の眸は
とてもきれいに澄んでいました。

おじさん猫は、どんな魔法を使ったのか
欠けた南の隅っこを「本体」にくっつけて
凹地を、東から南に向かって緩やかに広がる
すてきな敷地に変えてしまったのです。

おじさん猫は言いました。
土地はもともと誰のものでもない、まして
細かく分けてお金で売り買いするものではない。

自分はこれまで生活の手段として
(「食べていかな、あきませんもんなあ」)
古い大きな家を毀って更地にしては
細かく分けて”分譲”してきたけれど
「ええことしたとは思てません
(良いことをしたとは思っていません)」。

「それになあ、」おじさん猫は続けます。
土地の神さんは、女の神さん(女神さん?)
”おせっしゅ=施主”さんも、女の人(子猫のこと?)
きれいな形の敷地にしたら、きっと土地の神さんに
よろこんでもらえるに違いない、そう思ったと
おじさん猫は漫才のような大阪弁で
神妙に話してくれました。

そして最後に、照れくさそうに、
「この春、初孫が生まれよりましてん。
……女の子ですねん。」

       🌾     🌾     🌾

「女の子」は大きくなって
心やさしい女性に成長したことでしょう。
あれから、もう二十年。

”ねこじゃら荘”にまた夏が来て
南の隅っこのネコジャラシたちは
今日も上機嫌で
そよそよ風に
ゆらいでいます。
              🌾

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