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副反応の非常食に買ってあったやつだった。

眠気に弱いが、空腹にも弱い。
これは昔からそうだった。

学生の頃、日曜の礼拝に行ったとき、大抵礼拝がおわった後にキレていた。

礼拝の説教に集中しすぎてエネルギーを使い果たし、お腹が空いて、血糖値も急降下していたのだと思う。

いつも牧師の説教までしか体力が持たないため、そのあとのお祈りやなんやかんやの時間はすべてつらすぎてキレていた。

若干のめまいに苛立ち、礼拝後の友人同士の集まりの間、やはりキレていた。

教会のみんなとごはんに行く道中のチャリ移動にも絶望し、キレていた。(田舎だからみんなチャリ)

お店に入ってごはんが来るまでの待ち時間すらも、キレていた。

もうキレッキレだった。

あんなに不機嫌だったのに、なかよくしてくれた教会の友人たちはすごいと思う。そろそろわたしにキレていい。ぜひキレてください。

普通なら、礼拝後はもうちょっと性格を良くしようと気を引き締められるいい機会のはずなのだ。
教会に行ってキレて帰るのもばかだなあと思った。ていうか神様に果てなく申し訳ない。

わたしは祈りに祈った挙げ句、非常食を持ち歩くようになった。聖殿は食事不可だったが、いや食べないと死ぬっしょ!と威勢よくチョコやウィダーをこっそり食べた。

教会では飲料はOKだったため、ウィダーに関してはギリ飲料物なんじゃないかと思って堂々と飲んでいた。

牧師がとてもいい話をしていたが、構わず飲んだ。牧師はいやな顔ひとつしなかった。

ものすごく人格的か、聖殿でウィダーを飲むやつなんか今までいなかった故に事態を飲み込めていなかっただけかのどちらかと思うが、いつもめっちゃいい人なので前者だと思ってる。

そうして、たびたび礼拝でウィダーを飲んでいた。10秒メシをちびちび飲んで、2時間メシにしていた。ちびちび補給していれば、血糖値は急降下しないと思ったのだ。

すると、礼拝後もキレなくなったのだ。

ウィダーはおいしかった。そして、おかげで安心して礼拝に行けるようになった。
神様にウィダーという秘技を教えてもらったのだ。

つい最近、教会の人とオンラインミーティングをしていて、また低血糖状態になった。

体調をコントロールできるようになってからしばらく症状が出なかった。だから低血糖のことなんてすっかり忘れていた。

その日は仕事中、血糖値急上昇にうってつけのどら焼きとマウントレーニアをおやつに飲み食いしたのち、うっかり夕ごはんを食べていなかった上に、なぜか今しかないと思って夜のミーティング前にランニングに出てしまったのだ。どうした。

ミーティング開始直後の嫌な予感は的中し、だんだんと意識が遠のき、脱力感、冷や汗をかき始め、最終的にはみんなの言ってることが半分くらいわからなくなった。

そして、もうオンラインであることを利用して気配を消すことにした。

わたしは大抵、こういう状態になるとどこかしら痙攣し始める。手か、顔か、何かが震えていることを感じながら、いつ終わるだろうかなどと完全にやる気のない態度で参加していた。土下座したい。

人の声が日本語として認識できるものの、頭に入ってこない。脳の神経がきゅーっと縮こまってしまった感じがする。などと考えていると、自分に話が振られていた。

そして、腹が減って死にそうなことを伝えると、人々は憐れみの声を上げ、手際良く会議を収束し始めた。とても理解あるひとたちだった。だれもキレなくてよかった。

わたしは心の中で土下座していた。あまりにも土下座するものだから、誰かの目に土下座の幻が見えていたかもしれない。

ミーティングは、素早く寿司職人がパッパッと寿司を握っていくように、決めるべきことがパッパッとおさめられていった。早かった。そして土下座の思いに、アボガドサーモンへの思いが、薄くかぶさった。

ミーティングは終わったが、冷蔵庫をのぞいてもアボガドサーモンはなかった。そこには、ぽつんとウィダーがあった。

ウィダーでいいか、と妥協したつもりだったが、フタをあけると、ものすごい勢いで飲み干した。

神様と生きるためのウィダーは、いつだって死ぬほどうまいんだなあと、あの礼拝を思い出した。