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【映画の中の詩】光は闇の中で輝く

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映画と詩の交歓にまつわる文章を綴ります。 〈注:引用するのは主に1930〜50年代の映画です。 字幕と翻訳者明記のない引用詩は私の勝手訳(語句の入れ替え、省略有り)であることをご…
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#ニーチェ

【映画の中の詩】『紅唇罪あり(”Baby Face”)』(1933)

ベビーフェイスの聖なる悪女バーバラ・スタンウィック主演の問題作です。 少女のころから父親と彼の経営する禁酒法違反の酒場の客の男たちに性的搾取を受けてきた娘リリーが、なぜかニーチェかぶれの靴職人の男から権力への意志こそ人間の行動原理である、とふきこまれ、その実践をすべく親友の チコとともにニューヨークへと向かいます。 大手銀行にもぐりこむと上司からその上司そのまた上司へと次々に踏みつけにして、最終的には頭取を自殺未遂にまで追い込んでゆくという、とんでもない悪女なのですが、スタ

【映画の中の詩】『雨』(1932)

「人間は自分自身にたいして最も残酷なことをする生きものである。おまえたちは、「罪びと」、「十字架をになう者」、「贖罪者」などと自称する者たちすべての訴えや告発のなかに含まれている快感を、聞きもらさぬがいい」         「ツァラトゥストラはかく語りき」(手塚富雄訳) 小津安二郎が『母を恋はずや』(1934)で引用していたジョーン・クロフォード主演の『雨』。 牧師は売春婦の女を導くというよりは追い詰めていくといったふうでほとんど洗脳的に懺悔させることに成功するが、その