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【映画の中の詩】光は闇の中で輝く

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映画と詩の交歓にまつわる文章を綴ります。 〈注:引用するのは主に1930〜50年代の映画です。 字幕と翻訳者明記のない引用詩は私の勝手訳(語句の入れ替え、省略有り)であることをご…
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2024年6月の記事一覧

【映画の中の詩】『「ピンパーネル」スミス』(1941)

おやすみなさい。「別れは甘い悲しみです」 それは何ですか? ドイツ文学で最も有名なフレーズの一つです。 レスリー・ハワード監督、主演の反ナチス映画。レスリー・ハワードは両親ともにユダヤ系である。 ハワードが演じるのは表向きは考古学者ホレイショ・スミス教授としてドイツに入国してドイツ文明におけるアーリア人起源の証拠となるものの発掘調査をナチスの支援を受けて行っているが、裏では強制収容所の囚人を脱出させる手引をしている、という役。 ハワードが過去に主演したイギリス映画『紅はこ

【映画の中の詩】『真夏の夜の夢』(1935)

狂人と恋人と詩人は空想の塊だ 詩人の目は 狂おしく乱れて 天かとおもえば地、地かとおもえば天へと駆けめぐる やがて その空想力で謎そのもののかたちをとらえる  ーーシェイクスピア『真夏の夜の夢』(第5幕第1場) シェイクスピア原作。“A Midsummer Night's Dream“ 1935年の制作。公開時には芳しい興行成績を残せなかったものの、今日ではシェイクスピア映画としては上出来のものという評価を得ているようです。 「主役」ではないのですが、妖精の女王テ

【映画の中の詩】『悪魔が夜来る』(1942)

「戦争に立ち向かえる唯一の映画、それは恋愛映画だ」(ジャック・プレヴェール)マルセル・カルネ監督『悪魔が夜来る』(1942)。ジャック・プレヴェール脚本。原題『Les Visiteurs du Soir』 ナチス・ドイツ占領下で制作された。 強権によって愛する娘を我が物にしようとする悪魔に対して純粋な愛を貫こうとする抵抗を描いたこの映画の意図するところは明らかですが、カルネとプレヴェールは時代を中世に設定したおとぎ話の体裁を取ることで、ナチス・ドイツから、その真意を悟られる

【映画の中の詩】『夜は我がもの』(1951)

「わたしたちの使う言葉は 音を奏でるだけです  でも 詩人の言葉は 光を放つのです」 原題は〈 La nuit est mon royaume〉「夜は私の王国」。 事故で失明した男性にジャン・ギャバン、視覚障害をもつ女性教師にシモーヌ・ヴァレール。 引用詩はボードレール 「風景」。福永武彦訳を使用しました。 ラストシーンの「LUX IN TENEBRIS」については〈ウィキペディア〉によると 参考リンク:ボードレール「風景」の邦訳 福永武彦訳 『ボードレール全集 第1

【映画の中の詩】『ブルックリン横丁』(1945)

古き良きアメリカ映画感一杯の隠れた名作 エリア・カザン監督。原作はアメリカの劇作家ベティ・スミスの自伝的小説。 大昔にTVで観て内容は忘れてしまっていたものの「良い映画だったな」という記憶だけはあり、見返してみました。 やはり古き良きアメリカ映画感一杯で楽しめました。 原題の『ブルックリンに育つ木』というのは貧しいけれども両親や周囲の人の愛と励ましによって成長してゆく、主人公フランシーの象徴です。 エリア・カザン監督作品としては最初期のもので地味ですが、ネットで検索する