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打たせて捕るピッチング【vs.アルコール】

酒の飲めない友人が一升瓶を持って家に来た.
「寒くなってきたし,お湯割りしようぜ」と.

🍶

お酒が好きだ.キッチンには瓶やら紙パックやらが並んでいる.しかし,減らない.致命的にお酒に弱いからだ.

お祝いで貰ったワインは半分も飲まないうちに酸っぱくなった.何のお祝いだったかはもう思い出せない.氷に炭酸水を当てないようにハイボールを調合する時間は超楽しいけれど,小一時間もすれば炭酸の抜け切った薄黄色の液体が鎮座するのみになる.缶にサランラップをかけて冷蔵庫で寝かしておくのも変なので,缶ビールはあまり買わないようになった.

アルコールに負け続ける人生.一口目でK.O.
お酒を十分に楽しめていない気がする.愛しているのに,振り向いてくれないもどかしさ.

🍶

友人が持ってきたのは25度の黒糖焼酎だった.
徒歩10分くらいのところに住むその友人とは,基本的にお酒を一緒に飲むことがない.双方「呑まれる」のが分かっているからだ.遊び=飲み,となる年齢である僕にとって,「飲まない友達」はありがたかった.
「たまにはええやろ」と慣れない手つきで友人が瓶を傾ける.1:3くらいで完成されたお湯割りは沸き立つ湯気のみで意識が遠のくほどだった.急に冷え込んだ外気温も相まって,湯呑を持つだけで満足感があった.
美味い.いつも一口目は美味い.体が芯から温まっていくのを感じる.早く二口目を口に運びたい衝動を抑えながら,友人との近況報告を始めた.

友人の顔が真っ赤になった.彼が湯呑に口を付けたのは一度しか見ていない.同じく半分も飲んでいない湯呑を所有する僕の顔が赤いかどうかはわからなかったが,耳が発熱していることは感じた.
「うまいやろ,これ」と友人が言い,
「うまいけど酔うわ」と僕は言った.
酔ったもん勝ちやから,と続けた友人の言葉を聞いて,僕らが負けていないことに気が付いた.打たれても試合には勝つ.呑まれても.

お酒と時間を過ごす.
三振を奪いとるクローザーになれる日を夢見ながら.

🍶



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