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ペアチケット

唐突にする話ではないが、私はディズニーなんとかに行ったことがない。正確には、幼き頃に数回行ったことがあるらしいが、頭にリボンをつけた大きいネズミと撮った写真が残っているくらいで、そのアミューズメントパークを楽しんだ記憶はほとんど残っていない。

それはまだ『ランド』しかなかった頃のお話で、最近ではアルコール好きが集まるという『シー』と呼ばれる施設もあると聞く。
喋る亀から質問されるようなアトラクションがあるとか、ないとか、そんな噂も耳にする。

偏見かもしれないが、私にとっては国民的デートスポットだと認識しているが、自我が芽生えてからは一度も行ったことがない。ちょっとそれは盛りすぎ感が否めないが、少なくとも過去30年以上は行ってない。というか、もうここまで行かないと、きっとこれから先も行かないだろうし、断固として行きたくない。

しかし、18年くらい前の私はそこまで捻くれてはいなかった。こうなってしまったのは、ある一つの事件がきっかけだったと言っても過言ではない。その事件を『ペアチケット事件』と名づけることにした。この話は多分、人生であまり語ったことがない気がする。

当時、建築関係の職人をしていた。何職人かは説明が面倒なので省略するが、車で移動することが多かった。ど新人で免許のない私はいつも、上司の運転する車の助手席で居眠りをしてしまい、非常に気まずい思いをしていた。
朝も早いし、重労働だし、上司と喋ることないから暇だし、眠くなるのだから仕方ない。

その上司は無口だが優しかったので文句は言わなかったが、先輩たちからはよく嫌味を言われていた。そこで私は『普通自動車免許』というものを取得するために教習所という施設に通うことにした。ただし、『AT限」だ。たいした理由はないが、そっちの方が少し安かった。

ちょうどその時、入会すればあるものがプレゼントされるというキャンペーン実施中だった。
そのあるものというのがお察しの通り、『ディズニーのペアチケット』だった。私はあまり嬉しくなかった。なぜならば、一緒に行く人がいなかったからである。

まずは唯一の友人を誘ってみたが、男2人でそんなところに行きたくないという理由で断られてしまった。このままでは宝の持ち腐れである。そこである人物の存在を思い出した。
職人になる前に働いていた某カラオケ店で同僚だったディズニー好きの同い年の女性だ。

彼女はカラオケ店で働いていた当時、付き合っていた『ダー』と呼ぶ彼氏と一緒にかなりの頻度でディズニーへ遊びに行っていた。その『ダー』とは恐らく『ダーリン』の略だと思われるが、それ自体はどうでもいい。その2人はいつもラブラブを見せつけていたが、とある犯罪をきっかけに別れることになった。簡単に言うと、『ダー』が加害者、彼女が被害者、私は傍観者になった。

それから彼女は『ダー』的な存在を作ることに臆病になってしまった。あんな事件が起きてしまったのだから仕方がないことだ。そんなにすぐに立ち直れるようなものではないだろう。
それから1年くらいの月日が流れ、私の手元には『ディズニーのペアチケット』があった。
一応、弁解をしておくが、下心みたいなものは全くなかった。少しくらいはあったかもしれないが、『ダー』にはなりたくなかった。

急に誘ったら、どう思われるのか不安だったが、勇気を出して彼女にEメールを送ってみた。返信を見る限り、かなりテンションが上がっているようで、とても乗り気だった。
スケジュールを確認し、初ディズニーの日が決定された。歴史的瞬間だ。しかし、それは幻となった。理由は至極簡単だ。

彼女に『ダー』ができたから。
そして『ペアチケット』は紙切れになった。

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