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「不登校・ひきこもり」「発達障がい」でも社会で活躍できるんだよ② ~私が自立支援でかかわった6000人のご利用者さんから学んだこと~

小学校の児童らを襲撃した「川崎事件」と家庭内暴力の末に実父が我が子を殺害した「次官事件」。報道や一部の世論では、両ケースに共通するキーワードを「ひきこもり」としています。そのためか、これらの事件後、私たちの機構へ同じようにひきこもり状態となっているお子さんを持つ親御さんからの相談が増えています。また、メール相談に関しては、この1か月で80件近くにもなりました。

「私のとこの子どもも何か事件を起こさないでしょうか?」

私が今回の両ケースに共通するキーワードは「孤立」だと考えています。川崎事件については、たとえ、生きづらさや、何か事情があって社会から距離を置いて生活するようになっていたとしても、少なくとも家族(親族)との心のつながりを感じていれば、あのような事件は起こさなかっただろうと思います。孤立し、寂しさや虚しさの中で、人はいつまでも生きる気力を維持することはできません。次官事件については、それまでのご自身の立場もあったせいか、誰にも子どものことを相談できず、子どものことを隠して孤立させ、気づけば、自分たち親も孤立してしまっていたのです。事件直前になって、抱えきれない思いが少しずつこぼれ出してはきていたようですが、ただそれは、他に選択肢を模索するための相談ではなく、本来そんな弱音を吐かないような方が自分をコントロールできなくなってしまっていたがためだったのでしょう。なので、結果、川崎事件に誘発されたかたちとなって、あのような決断をしてしまったと思われます。たった1本でも、気の許せて、安心できて、何でも話せる誰かやどこかとつながっていれば、絶対にこのような結果にはならなかったはずです。

この1か月にあった約80件の相談のほとんどが、「私のとこの子どもはずっとひきこもった状態です。このまま放っておいたら、何か事件を起こさないでしょうか?」という内容のものです。今回、相談いただいた皆さまのメールを読ませていただいて、今回の「ひきこもり=危険」キャンペーンともいえる凶器的な無責任報道に対し、本当に腹立たしく感じました。

「ひきこもり」は悪でも危険でもないし、「ひきこもり」だから事件を起こすというわけではない!

と、私はハッキリ言いきります!「ひきこもり」というのは単なる今の状態のことであって、=(イコール)悪いイメージを持たないで欲しい。仮に、何かがきっかけで社会と距離を置き、孤独を選んだとします。孤独は孤立とは違い、自分の内面的なバランスをとるために自分で選択ができる形態、いわばさなぎ状態のようなものです。そして、自分の安全圏を自分の家や部屋、居場所などにつくります。外の社会に出ることが自分にとって大きなストレスになり、それが自分にとって大きなダメージになるのなら、孤独でも安全な場所に身を置くことを選びます。これは単に、人が本来持っている防衛本能です。けっして病気でも何でもありません。たとえ孤独でも、安心できる人や場所とはつながろうとし、だから孤立はしていません。その安心できる人が家族であったり、場所がネットの世界であったり、それは人それぞれです。また、次のステップに移行するためや、何かを成そうとするためには、ゆっくり休養期間をとることが必要な人もいます。

では、この人たちは、本当に何か事件は起こさないのでしょうか?

「はい。絶対に起こしません!」なぜなら、この安全圏を壊したくないからです。先にも話したように、人は孤立の中では生きる気力を持ち続けることはできません。仮に、少しの期間でもその気力が維持できるなら、それは復讐や憎悪といった負のエネルギーがあるときだけです。しかし、結果的に事件を起こしてしまった人たちが、始めからそんな負のエネルギーを抱いていたかというとそうではありません。だれも望んで孤立する人はいないからです。事件を起こしてしまった人たちの成育歴をたどると、すべての人が自分の安全圏を壊されたり、壊されようとされたり、また、周囲の理解が得られず、強制的に孤立させられてしまっていたのです。

ご家族が心を込めてつながりを持っていれば大丈夫

社会から距離を置いて、自分の安全圏をつくって暮らしているなら、ご家族の方も一緒にその安全圏を守ってあげてください。けっして、その安全圏を壊そうとしたり、勝手に誰かをその中に入れようとしないでください。引きこもり状態のお子さんをもつご家庭について、「6030問題」に始まり、最近では「8050問題」なんていう言葉がありますが、けっして心配されることはありません。まずは心を込めてお子さんとつながってあげてください。周囲からは、「何でもしてあげて甘やかしすぎ」だとか、「引っ越しするなり環境を変えれば?」、なんていう声を聞かされることもあると思いますが、そんな声は無視してください。親だから甘やかすのは当たり前です。そこで突き放してしまうと、唯一のつながりが途切れたのだと思い、けっして感じさせてはならない孤立感を抱かさせてしまうことになります。

環境については、変えるのではなく「整える」ことを考えてあげてください。いつか、生活などの状況が変わったとき(親の定年や死去など)、お子さんが「今の安全圏が正常に保てない」と考えるときが来ます。困ったときに活用できる資源を安全圏の外側すぐ近くに情報として用意しておいてあげるのです。そしてその情報を普段からたまに伝えてあげてください。ご家族とのつながりが心の込められた真のものであれば、お子さんが本当に困ったときに、その資源を安全圏を守るために必ず活用してくれます。福祉か就労か、どの資源を活用するかはお子さんの判断になりますが、そこはもうお子さんの人生です。でも、絶対に誰かの迷惑になるようなことは考えることはありません。信じましょう。

私たちの仕組みだけではまだまだ十分とは言えません。ここ、鹿児島県大隅地域は東京都や大阪府くらいの広さであるにもかかわらず公共交通機関がほとんどなく、家族の送迎が無ければ支援に繋がることができません。特に、一人親や困窮家庭で支援が必要な方のために送迎の仕組みを充実していきたいです。