イランはなぜ、どのように、どんな経済制裁を喰らっているのか?
「イランへの経済制裁」というワードは、恐らく誰もが一度はニュースなどで耳にしたことがあると思いますが、正直イランが経済制裁を食らおうが食らわまいが、殆どの日本人には大きな影響はないと思います。
イランは日本にとって原油の輸入国ではありますが、制裁でイランが石油を輸出できなくたって、他国から輸入すればいいので日本が石油に困ることもありません。
なので、イランの制裁もあくまでも「時事ニュース」としか報道されず、これについて深く考える機会も少ないとは思いますが、この経済制裁はイランの経済、そして何よりイラン国民の生活に間違いなく大きなダメージを与えています。
例えばイランのGDP成長率。
2005年に開始した国連の経済制裁によってイランの経済成長はストップし、2012年のEUによる独自制裁で大幅に下落。16年の制裁解除で劇的に復活するが、18年のアメリカによる再制裁で急降下。
と、イランの経済は、制裁の状況によって左右されています。
0. 私がこの記事を書く理由
私にとってイラン政府がどんな制裁を受けようが特に関係ありませんが、そのせいでイラン国民の生活が苦しくなるのは我慢なりません。
私を含め外国人旅行者に対し、想像以上のおもてなしをしてくれる、大好きなイランの人たちが苦しむのは本当に不憫でありません。
ということで、より多くの方にイランの実情を知って頂ければと思い、このnoteを書いています。
制裁がどのようにイラン経済、そして国民の生活に影響を与えたかという点はこちらの記事にまとめました。
今回の記事では、なぜ、どのように、どんな制裁をイランは喰らっているのか、という点を、可能な限りわかり易く解説していきます。
1. なぜ経済制裁を喰らっているのか?
イランが制裁を課せられている理由は「核兵器製造」の疑いを掛けられている為です。
そもそもなぜ核兵器を製造してはいけないのでしょう?
その理由は、世界には「核不拡散条約(NPT)」という世界平和の為に核兵器を所持してはいけない、という世界約190ヵ国が加盟しているルールがある為。
・・・えっ、アメリカとかロシア、北朝鮮とか核兵器持ってないの?
そう、彼らは持ってます。
というのも、NPTには例外があり、アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国の5カ国だけは核保有国として特別に所持が認められています。
その他の国は核兵器を持つ事も、開発する事も認められていません。
北朝鮮は世界からハブにされようが核を持ちたい!ということで、2003年にNPTを脱退し、現在は世界的にも核保有国として認知され、ご存知のように世界中から大バッシングを受けています。
で、そんな中イランはこの条約に批准しているにも関わらず、密かに核兵器を開発しているんじゃないか?という疑いを掛けられており、その罰として経済制裁を受けています。
ちなみにNPT認証核保有国やイラン、北朝鮮以外にも、核兵器の所持・開発をしている(疑われている)国はいくつかあります。
・インド(条約未加盟)
・パキスタン(条約未加盟)
・イスラエル(条約未加盟)
上記のうち、イランのように大規模な制裁を掛けれてれいる国は北朝鮮くらいです。
2. どのように経済制裁を掛けられているのか?
さて、本題のイランの経済制裁ですが、その歴史は古く、反米政府が樹立した1979年からアメリカによる制裁を課せられています。
が、本記事では「反米政府に対しての制裁」ではなく、現在の制裁の中心的な理由である、2000年代から始まった「イランの核開発に対する制裁」を見ていきましょう。
- イランの核開発事情
元々イランは、欧米との関係が良好であった1950年代から原子力発電などの平和利用の為の核開発を行っていました。その中で、1970年にはNPTに加盟します。
しかし、1979年にイラン革命により反米政府が成立すると、アメリカの支援も止まり一旦は核開発をストップ。が、その後すぐに核開発は再開、1990年代にはロシアや中国の援助の元、核開発を進めていきます。
その中で2002年に一つの転機を迎えます。
ムジャヒディン・ハルクというイランの反体制組織の報道官、アリレザ・ジャファルザデが、イラン政府が新たに建築中の核開発施設の衛星写真を暴露します。
というのも、核開発は基本的にIAEA(国際原子力機関)に計画などを申告し、IAEAが監査することによって、平和的利用から外れないようにしよう、という風になっていますが、申告無しでするってことはやましいことあるんじゃない?ということで、ここから世界からイランへの疑いの目が強くなります。
その後、欧米諸国との交渉の中で、一旦は「イランがIAEAの監査を受け入れ、核は平和利用しかしない」ということに落ち着きますが、徐々にイランがIAEAへの申告や監査を拒むようになっていき、2006年には国連安保理がイランに対して核開発の停止を求めます。
しかし、イランはそれに完全に受け入れず、2006年12月に初めて国連にて制裁案が決議されます。
当時の制裁内容は、
・核開発に関わる原料や技術の貿易禁止
・それに携わる個人や企業の資産の凍結
など、直接的にイランの核開発を止める為の制裁でしたが、当時のイランの大統領・アフマディネジャドは非常に強気な保守強行派の人で、イランの核開発に関しても一方的に「イランの核開発は平和的利用の為だけにあって、断じて核兵器を作る為ではない!」という主張を繰り返し、イランに対しての制裁を批判するのみで、まともに外国との交渉をしようとする姿勢を示しませんでした。
その結果、国連やEU・各国の二国間の独自制裁も強まっていき、遂にはイラン原油の輸入禁止やイランの金融機関との取引禁止などに拡大していき、イランの経済停滞は深刻化し、イラン国民の生活を襲います。
- ロウハニ大統領の出現
しかし2013年に一つの転機が生まれます。
任期満了のアフマディネジャドに代わり、ロウハニが国民投票で大統領に選ばれます。
保守強行派で西側諸国に一切の譲歩を見せないアフマディネジャドに対し、ロウハニは穏健派で、西側諸国との交渉にも積極的に応じます。
2013年9月27日にはオバマ大統領との電話会談を行ったのですが、なんとイランとアメリカのトップが直接会話をしたのが、イラン革命の1979年以来で24年振りだとか。どんだけ仲悪いねん!
そこから度重なる会談を重ね、遂に2015年7月、イランは6ヵ国(米・英・仏・独・ロ・中)と、「核開発を大幅に削減する代わりに経済制裁を段階的に解除する」という核合意の締結し、翌2016年の1月には国連による制裁が解除されます。
この歴史的な合意は世界中で話題になりました。
ここから、イランの経済も復活の兆しを見せるのです。
- イラン経済の劇的な復活
2016年の経済制裁解除からのイラン経済の復活は、先出のGDP成長率を見ても一目でわかるように、目を見張るものがありました。
イランの観光業界も、外国人観光客が前年比150%と爆増し、全国でホテルの建設ラッシュが始まります。
日系企業もこの時期に多く再参入し、中東の大国が持つマーケットを狙う動きが活発化。
まさにこの時イランは制裁から脱出し、この先に待つ経済発展に胸を踊らせるお祭りムードとも言えるようでした。
翌年には地獄を見るとも知らずにー。
- トランプ大統領による核合意の破棄
しかし、経済制裁解除からたった1年後の2017年1月にトランプ大統領政権が発足すると、トランプ大統領は核合意への不満を露わにし、イランへの経済制裁を逆に強めて行くことを示唆します。
翌2018年5月には正式に核合意からの離脱を一方的に表明し、8月からは第一弾、11月からは第二弾と段階的にイランへの経済制裁を再開していくこととなります。
一方のイラン陣営も、翌2019年5月にはイラン側が制裁に対抗する形で核合意の一部停止を表明し、アメリカはそれに対し経済制裁の強化で牽制。お互いの溝は一気に拡大。
結果、核合意後に回復の兆しを見せたイラン経済も急速に低迷して行くこととなります。
3. どのような制裁を課せれているのか?
そんなイランですが、具体的にどのような制裁を課せられているのでしょうか。
まずは日本が行っている制裁を見てみましょう。
【日本政府が行っている制裁】
・核活動と関係のある個人、団体との取引を許可制に
・イラン関係者の日本の各関連企業への投資を禁止
・核関連の輸出に関しては外為法に基づき処理する
以上の3点のみです。
日本政府は基本的にイランとの取引は認めているが、核関連のみの取引を禁止してるという感じです。
- イランは石油を輸出できない
日本は2020年6月現在、イランから石油の輸入を行っていません。
でも、先ほど見たように日本は「イランの石油輸入禁止」の制裁は行っていないですし、国連も2016年の核合意による解除以降、制裁は行っていません。
それなのになぜ日本はイランから石油を輸入していないのか?
その理由は、アメリカです。
アメリカが「アメリカはイランから石油輸入しません!そしてイランから石油輸入してる国にも制裁かけますよ〜!」と表明している為です。
日本からしたら、イランから石油を輸入することでアメリカから制裁を受けられるなんてたまったもんじゃないですよね・・・ということで日本もイランからの石油輸入をストップしました。
第三国の貿易事情をも操れるアメリカ、すごいですよね。
- イランへ送金もできない
石油の輸出規制に加え、イラン経済に大きなダメージを与えている制裁としては、イランの銀行との取引禁止、というものもあります。
国が異なる銀行口座への送金はSWIFTという国際送金ネットワーク使用するのがポピュラーなのですが、SWIFTがイランの銀行を国際送金網から遮断したことによってイランへの送金が出来なくなりました。
また、日本の銀行もアメリカの制裁と足並みを揃えるようにイランとの取引を禁止しています。
加えて、PaypalやWestern Unionなどといった他の国際送金手段原則使用出来ません。
その中で、イギリス・フランス・ドイツはSWIFTを使用しない送金システムを使いイランと取引をしようとしていたり、
イラン政府は仮想通貨で制裁網をすり抜けようとしていたりしますが、現時点ではまだ制裁に対して有効的な手段とななっていません。
国際送金が出来ない、ということはイランにとって単純に貿易することすら難しくなります。その結果、イランの経済活動が極端に制限され、経済は低迷し、国民の生活に大きな影響を与える結果に繋がっています。
4. まとめ
最後に、この記事を通じて私が何をお伝えしたいかというと、イラン「政府」が経済制裁を課せられることは、核開発に関して疑わしい行動をしている以上仕方がないことかもしれませんが、その影響を一番に受けているのは間違いなくイラン国民です。
政府のとばっちりで国民が苦しむ。
果たしてこのような状況を放っておいて良いのでしょうか。
本記事を通じ、イラン国民の生活に関わる問題少しでも興味を持って頂けますと幸いです。
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