仮想離婚

義父さん、義母さんへ

 いつも我々家族にご配慮と応援ありがとうございます。

 この度、我々は離婚する事になりました。突然の事で驚かせて申し訳ありません。

離婚するに至った経緯を全て話する必要はないかもしれませんが、私の方から話をさせていただきます。本来であれば、まずお二人に会ってから話をすべきと思いますが、十分思いを伝えることが出来ないと思い文章といたしました。私の思いは一方的な可能性はありますので、妻の方からも十分話を聞いて下さい。よろしくお願いします。

 我が家にはいくつかのルールがあります。結婚当初はこのようなルールはありませんでしたが、娘が生まれてから徐々にできたもの、それからコロナ禍になって生まれたものがあり、ドンドン増えています。そのルールの全ては妻が決めたものであり、清潔観念に関することです。トイレに行った後は手を洗うというのは、私も行っていますし、概ね受け入れられている清潔観念と思います。妻の清潔観念は、私からすると度を超えたもののように感じます。コロナに家族が罹患したら、このような清潔操作は全てやめると言っていましたが、家族全員が罹患した後(我々夫婦はみなしコロナですが)もやめることはありませんでした。

 具体的に説明をしたほうが良いと思いますので、私が家に帰ってからの一連の流れがどのように行われるか説明します。

 まず、鍵を空けて中に入ります。前回お二人が家に来られた時にはありませんでしたが、ペットが逃げ出さないようにするための内ドアが玄関に設置されています。そのドアを自分で開けることは許されていません。何故なら、外から帰ってきているので「不潔」だからです。なので、内側から妻が内ドアを開けます。料理中に私が帰ろうものなら、料理の手を一時止めないといけませんので、妻はイライラしているように見えます。私が夜遅く帰ってきてもそのような状態ですので、妻は起きて私を待っています。なので、遅くとも22時くらいまでには家に帰らないといけません。内ドアが開かれても、そのまま中に入ることはできません。靴下を脱がないといけないのです。靴下を脱いだ後、中に入ることはできますが、ズボンの裾が床につくことは許されません。「不潔」だからです。家の中に入っても、決められたルートでいかなければなりません。カバンは「不潔」領域へ、メガネはシンクのそばへ(これはアルコールが噴射されます)置きます。マスクはゴミ箱へ。これらのミッションをクリアしてもまだ難関があります。家で寛ぐ前に、シャワーを浴びて全身を「清潔」にしないといけません。その際も注意点があります、脱いだ服を洗濯機の中に入れるのですが、その際に洗濯機に触れてはいけません。なので、私が素っ裸になって全ての洗濯物を入れる間、妻は洗濯機のドアを開けて待っています。そして私が手洗いをして、どこにも触れずにシャワー室にはいったのを見届けると、その後が大変そうです。妻は、私が通ったところ全てをアルコール消毒しています。まあまあ時間をかけて消毒をしているために、うっかり私が消毒されてない領域にシャワー後踏み込もうなら、もう一度私はシャワーやり直し、妻は消毒のやり直しをします。携帯電話は不潔扱いなので、我が家で触れることはできません。妻に見つからないように触れるか、どうしても携帯電話を触る必要があれば、触った後の念入りな手洗いの照明が必要です。(もちろん妻が不在の時は、自由に携帯電話をいじっていますが)。

 このような状態ですので、外からの他者を招き入れることはありません。以前は、ママ友を我が家に呼んで遊んでいたりしましたが、それもなくなりました。配達業者も玄関に招き入れずに、外に置いてもらっています。買い物の時は大変そうです。お菓子は、封があるものは、それを空けてバラしておいてあります。封がないものをお土産で買ってきた場合、食品の「不潔領域」に一時保管され、ここもホコリだらけになり、日の目を見ることはありません。食品関連は全てのものを消毒できないので、冷蔵庫は「清潔領域」と「不潔領域」に分けているようです。なので、私が冷蔵庫に入っているのをとって良いかどうかも妻に尋ねないといけません。尋ねると不機嫌になるのですが、勝手に触るともっと不機嫌になります。ですので、出先で買った飲みかけのペットボトルのお茶を冷蔵庫に入れることなんかは持っての他で、鞄の中に入れて、会社で捨てるようにしています。全く飲んでないお茶をもらったとしても、一時置き場に留め置かれ、運が良ければ周りを消毒して食卓に登場しますが、多くはホコリをかぶって不遇な運命を辿ります。なので、会議でお茶をもらったとしても、家に持って帰ることはありません(新婚の頃は、お茶をもって帰るだけで、たいそう喜んでいましたが)。

 その清潔不潔概念が、微生物学的に無菌かどうかは関係ありません。というのも、我が家の「不潔領域」とされている場所は、ホコリだらけで、ほとんど掃除が行われていないからです。そこを私が掃除をしようとすると妻はかなり嫌がります。これは「不潔」な場所を掃除すると不潔が広がるからなのか、掃除道具が不潔になるからなのか、掃除をしない妻への当て付けのように映るからなのかは分かりません。その不潔領域に物が落ちようものなら、その落ちたものを再び使うことはありません。それが新品のものであってもです。捨てるならまだ分かりますが、捨てるという動作も「不潔になるから?」なのかは分かりませんが、その「不潔領域」に放置されたままになり、いっそうホコリがたまります。あまりにも不潔なので、妻がいない間に、掃除したのがバレないように掃除していましたが、最近では私ももうやめました。

 これらのルールは、全て妻が作ったものですが、私には過剰に感じます。その清潔意識に妻も苦しんでいるのかと思うこともありますが、やめようという提案にも乗ってきません。妻は外に出てモノを触る時は、全てビニール手袋で行っています。非常に薄い製品ですので、これが微生物的に無菌になるかは、怪しいです。というか、無菌かどうかは、実は妻にとってもどうでも良いことで、手袋をするという手段が目的になっている気がします。このような状態ですので、消毒を繰り返す妻の手はかなり荒れています。そちらの方がバイ菌が入るような気がします。

 娘もこのルールに従っています。そのためか、誰もいないところでもマスクを外そうとしません。また、外のドアなどのモノを触れることを嫌がります。妻からは、娘に手袋が支給されており、それを使っているのかもしれません。学校でイジメの対象になるのではないかと心配しています。

 お二人の実家に帰った時は、妻はこのようなルールに則って行動することがないので、お二人は気づかないでしょうし、ということは世間一般のルールではないことは理解しているようです。時々外食に行った時に手袋をしようとしているところを見かけたかもしれませんが。娘も、その祖父母の家に行った時はドアを開けたり、自然に触れたりしているので、絶対的なルールではないと理解しているようです。なので、娘が親から離れれば、大丈夫(妻のルールに則って生活するわけではない)と思います。

 離婚に至った経緯について書こうと考えていましたが、こうやって書いていると、清潔不潔の概念だけが問題のような気がしました。妻が機嫌悪そうに過ごしていることも多々ありますが、生理がキツそうなのと、「清潔不潔ルール」を逸脱したり、完遂する際のストレスのような感じがします。妻自身が決めたルールに対し、妻はしんどそうで、それで機嫌も悪くなっている感じです。

 今までは、私もこれらのことを、「清潔不潔」ゲームとしてクリアするのをミッションとしてストレス回避に努めてきましたが、娘も独立するにあたり、夫婦二人で生きていくのは難しいと感じています。もちろん良いところもいっぱいあって数えきれませんが、妻のルールに沿って生きていくのは疲れました。以上が私からの離婚に至った経緯になります。長文にお付き合い頂き、ありがとうございました。

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