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【秒速理解】Scope3の報告が義務化するとどんな影響があるの? どんな影響が出ているの?ー最高脱炭素責任者からのアドバイスー

【秒速理解】
Q1. スコープ3報告義務化がもたらす影響とは?     
  
A. 作業コストだけでなく、ガバナンス評価の機会が得られます。

Q2. スコープ3開示によってどんな影響が出ているの?   
     
A. 「連邦政府サプライヤー温室効果ガス(GHG)対応スコアカード」を公開しました。詳しくは本編で。

【秒速理解】でした。本編もお見逃しなく!


【ゆっくり解説】
今回はパーセフォニの最高脱炭素責任者マイク・ウォレスが、今後「スコープ3報告の義務化」が企業にもたらす影響と、既に生じている現象、そして将来に備えて企業ができることをゆっくり解説します。最後にISSB、SECやEUのサステナビリティ関連の最新情報をお届けします。最後までお楽しみください。


Q1. スコープ3報告義務化がもたらす影響

バリューチェーンがグローバルに広がる中、GHG排出量の算定・報告・管理(炭素会計)の必要性がかつてない勢いで高まっています。その影響は世界中に波及し、多くの企業が排出量の算定を開始しています。投資家が投資先企業に排出量の算定・管理・報告を求める例が増えている一方で、企業は自社のサプライヤーに排出量の詳細な報告を求めるようになっています。

また、投融資先企業に排出量情報を要求するプライベートエクイティが増えている一方で、政府機関は対象企業に対してスコープ1,2の開示報告だけでなく、そのサプライチェーンに含まれる企業の排出量情報(スコープ3)も要求するようになってきています。GHG排出量開示規制の流れは世界的にまだ始まったばかりですが、今後も、開示報告に関する様々な規則や法律、行政命令、基準、ガイドラインが最終決定され、発効する見込みです。そして、そのほとんどがスコープ3排出量の報告を義務化することが見込まれています。すでにスコープ3開示が義務付けされている国・地域においては、その影響は既に広く波及し、多くの企業に排出量の算定を促しています。

企業のガバナンス評価は気候変動への対応力で決まる

多くの企業では、自社排出量が他社のスコープ3に含まれるという事実に気づき始めたばかりです。現在、GHG排出量算定を行う必要がないと思っている企業でも、いずれは影響力のあるステークホルダー(取引先、投資家、金融機関、保険会社、規制当局など)から、GHG排出量の数値を求められるようになるはずです。そして、遅かれ早かれ、その数値を裏付ける証拠、さらにはその数値の低減と気候変動リスクの抑制に向けた戦略とガバナンス態勢も同時に要求されることになるでしょう。なぜ排出量データだけではだめなのか? 現代のコーポレートガバナンスにおいては、気候変動対応力、GHG排出量削減、脱炭素戦略、期限付きの目標設定、といった要素がますます重要視されるようになっているからです。このような複雑な問題に対して優れたコーポレートガバナンスを備えていることが、企業の「長期的持続可能性」の表れであると評価される傾向が益々高まっています。

スコープ3排出量の算定・報告作業が企業にもたらすのは、負担だけでなく、機会も含まれています。まず端的に、算定データを元に排出量を削減し、気候変動リスクの影響を抑えることが、間接的な事業コスト低減につながることが挙げられます。スコープ3排出量が企業のGHG総排出量の平均75%を占める(CDP調べ)ことを考えれば、スコープ3の取り扱いがステークホルダーにとって大きな意味を持つことは必然といえるでしょう。

Q2. どんな影響が出ているの? 影響の例:米国政府のサプライヤー

益々多くの企業が今後、スコープ3を含むGHG排出量を開示していくことになります。その流れのを示す象徴的な事例として、米国連邦政府サプライチェーン関連のある出来事をお伝えします。2015年、ホワイトハウス環境諮問委員会のウェブサイトに、過去に例のない米国政府調達先(サプライヤー)リストが公表されました。掲載された上場・非上場企業だけでなく、多くの業界関係者に衝撃を与えるリストでした。2015年に初めて公表されたこのリストは、正式名称を「連邦政府サプライヤー温室効果ガス(GHG)対応スコアカード」といい、サプライヤー各社のGHG対応状況を色別に示しています(緑:対応済、黄:対応予定、赤:未対応)。これには、リストに掲載された多くの企業、とりわけ赤い印を付けられた企業から反発の声が上がりました。以下は、契約額上位10社を示したリストのスナップショットです。

本スコアカードは2016年に更新されたため、各社の対応状況を前年と比較し、時系列で確認できるようになりました。2015年のスコアカードから変化したところは、*印で示されています。

スコアカード制度は、トランプ前大統領政権時に一旦廃止されましたが、企業の任意情報開示や対応状況の改善の流れは止まることはありませんでした。同時に、このような情報を必要とする関係各所から企業への開示圧力の流れも止まることはありませんでした。2022年11月9日、スコアカードの更新版が公表されました。そこには、200以上のサプライヤーが掲載され、新しい欄もいくつか追加されています。以下に、契約額上位10社の情報を示します。

これに加え、2022年11月10日には、バイデン政権による「連邦サプライチェーンを気候関連リスクから保護するための計画案」が発表されました。連邦政府はこうして、リストに掲載されたすべての企業(上場・非上場を問わず)に、GHG排出量の開示態勢を整えよとのシグナルを送っているのです。また、証券取引委員会(SEC)の規則動向も上場企業の情報開示に影響を与えています。さらに、最近発表された「連邦政府のサプライヤーに気候関連情報の開示を求める連邦調達規則の改正案」も、サプライチェーン全体、ひいては経済全体に大きな波及的影響をもたらすことになるでしょう。誰もが誰かのスコープ3に含まれているため、スコープ3開示義務化の影響はサプライヤー全体に波及的に広がっていきます。そもそも、このスコープ3排出量の把握という大きな課題を克服してこそ、具体的な数値を管理、排出量削減へと前進することが可能になるのです。

スコープ3排出量の算定・報告をツールで解決

企業・金融機関がスコープ3排出量の算定・報告作業を効率化するには、サプライヤーの一次排出量データに直接アクセスできることがカギとなりますが、それを可能にする上で重要な役割を果たすのが排出量データの共有です。排出量データ共有は、サプライヤーからのデータ収集プロセスを合理化し、バリューチェーン全体を含む自社のGHG排出量を正確かつ包括的に把握することを可能にします。データ共有機能があるソフトウェアを活用すれば、サプライヤーからのスコープ3排出量データ収集をより効率的に、標準化されたフォーマットで行うことができます。これにより、「購入した物品・サービス」や「輸送」など、サプライチェーンの様々な活動に伴う排出量の追跡・算定・報告の質を高めることができます。

データ収集プロセスを合理化すれば、新たな規制や報告フレームワークへの準拠が容易になるだけでなく、戦略的な意思決定にも役立てることができます。また、スコープ3排出量を詳細に把握できるようになるので、排出量が特に多い”ホットスポット”を特定したり、優先的に取り組むべき排出削減施策選択の裏付けができたり、サプライチェーン全体でより持続可能な取り組みを促進することも可能になります。

2023年6月上旬、パーセフォニは新しいモジュール機能『データ共有』をリリースしました。プラットフォーム上で、監査を前提としたデータの依頼・収集を、サプライヤー企業と直接行うことができる機能です。サプライヤーがパーセフォニ プラットフォームのユーザーでなくてもこの機能は利用可能です。カスタマイズ可能な依頼項目を通じて、サプライヤーから必要な気候関連情報を収集できる上、サプライヤーへの依頼の進捗はすべてプラットフォーム内のダッシュボードで一元管理できます。こうしたツールが可能にするコラボレーションやイノベーション、さらには「持続可能な開発のための世界経済人会議」による「炭素の透明性のためのパートナーシップ(World Business Council for Sustainable Development’s Partnership for Carbon Transparency)」のようなイニシアチブを活用すれば、スコープ3排出量データの質を高め、将来的な監査に備えることができます。繰り返しになりますが、スコープ3の算定・報告は、脱炭素化目標の達成を目指す企業はもちろん、今後すべての企業にとって欠かすことのできない取り組みとなるでしょう。

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気候&ESG関連の最新ニュース

ISSBが持続可能性と気候に関する基準を最終決定

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は6月26日、グローバルなサステナビリティ開示基準となるIFRS S1「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」およびIFRS S2「気候関連開示」を公表しました。これらの基準は、国際的に比較可能なサステナビリティ情報の開示を促進するとともに、気候変動に関連するリスクの影響と機会を投資家などのステークホルダーに開示するための共通言語を創出するという重要な役割を果たします。ISSB基準は、サステナビリティ関連情報を財務諸表と併せて開示することを意図して設計されています。G7やG20の加盟国、金融安定理事会、証券監督者国際機構(IOSCO)、投資家、ビジネス界のリーダーたちのサポートを得て作成されたという背景があります。

基準が最終決定された今、ISSBは適用促進に舵を切り、各国・地域や企業への働きかけを行っています。基準は国際会計基準(IFRS)財団の年次会議で正式に発表されました。その後、同じ週に、ニューヨーク、フランクフルト、ロンドン、ヨハネスブルグ、シンガポール、サンティアゴなど、世界各都市の証券取引所が主催するイベントでも紹介されました。

SECが気候変動開示規則案の最終化を延期

米国証券取引委員会(SEC)は、気候変動開示規則案の最終化時期を、2023年第4四半期に延期することを明らかにしました。政府の規制予定一覧表によると、最終規則の公表時期は2023年10月の予定とされています。今年の下期は状況を常に注視しておくことをお勧めします。というのも、こうした予定はあくまで見込みであり、必ずしもこの通りに進むとは限らないからです。

ただ、この延期により、SECがパブリックコメントをじっくり検討して利害関係者の懸念に対応したり、他の新しい気候関連報告基準との整合性を図ったりするための時間的余裕も生まれます。最終規則の採択が遅れている一方で、多くの企業は、炭素会計能力を任意で高めていっている、という状況も見て取れます。パーセフォニは、今後もSECの最新動向を注視していきます。

EUのサステナブルファイナンス政策パッケージ

欧州委員会は6月13日、サステナブル投資の利便性と透明性の向上を目的とした新たなガイダンスと現行規制の改正案を発表しました。欧州委員会は、現行の規制は難解であり、理解不能な場合もあると認識しています。今回の新しい政策パッケージにより、サステナブルファイナンスへの資金流入を促進するとともに、規制とガイダンスを企業や投資家にとって利用しやすいものにすることができると、欧州委員会は期待しています。この政策パッケージにより、今後は、欧州連合(EU)の定義に基づき「サステナブル」と認定される経済活動の数と種類が増えることになります。具体的には、経済活動に関する新しい「EUタクソノミー基準」が承認されました。その中には、気候環境目的ではないサステナビリティ項目である「汚染の予防・管理」や「循環型経済への移行」も含まれています。また、気候変動の緩和と適応に貢献する経済活動の範囲を広げる「EUタクソノミー気候委任法」改正案も、パッケージの一環として採択されました。

今回、欧州委員会は、以下のような問題にも対応しました。それは、ESG格付け業者の透明性と規制が欠如しているために、ESG格付け市場が機能不全に陥っているという問題です。市場には多数の格付け業者が存在し、それぞれが独自の手法やデータソースを(大抵は非公開で)用いているため、利用者は誰を、または何を信用していいのか混乱が起こっています。ESG格付けは、適切に機能すれば、金融機関や資産運用会社などの投資元にとって非常に有用なツールとなり得ます。しかし、市場での信頼性が欠如した今の状況では、投資判断においてESG関連のリスクや機会を特定するためのツールとしては使い物になりません。この問題を解決するため、欧州委員会は欧州証券市場機構(ESMA)に、格付け業者の認可・監督を任せる方向で動き出しました。

今後は、すべての格付け業者に、認可申請書の提出、営業規制の遵守、当局による継続的監督が求められることになります。これにより格付け業者は、業務の独立性を担保するためのプロセスや手続を採用することが義務付けられます。さらに、格付け手法を、欧州証券市場監督機構(ESMA)、利用者、格付け対象企業に開示することも義務付けられます。


いかがでしたでしょうか? 6月26日のISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の排出量報告基準の最終化の発表、そして7月10日にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)がIFRS財団(国際会計基準財団)に要請し、2024年からISSBに企業の気候変動関連情報開示の監視業務を引き続くと発表。そして7月25日にはIOSCO(証券監督者国際機構)がTCFDの発表を後押しすると発表しました。ここ1ヶ月足らずでスコープ3を含む算定と報告の義務化に向け、規制当局が本気を出してきたという印象です。日本へもやってくるスコープ3の算定と報告の義務化に向けいち早く準備することは、社会意義だけでなく、持続可能なビジネス成長には欠かせない要素となるでしょう。
何から始めたら良いの?とお困りの方は、ぜひパーセフォニにご連絡を!

それではまた来週。

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