数学を好きになったきっかけ
僕は今理学部物理学科に所属して物理学を勉強している。数学を用いて世の中の現象を理解していくという物理学の側面に魅せられてこの道を選んだ。このことからもわかるように,もともと数学が好きだった。しかし,数学を好きになったきっかけは恥ずかしいので今まであまり言ってなかった。そろそろ時効という気がしたので書いてみることにする。
話は中学時代まで遡る。飛び抜けて優秀ではないがそこそこ真面目な生徒として小学校を無事に卒業した。中学校に入学し,初恋の子と同じクラスになった。あるとき,その子と何かの約束をした(内容は覚えていない)。約束というか賭けのようなもので,僕はその賭けに負けたので何か罰ゲームをすることになった。罰ゲームとして選ばれたのは数学のワークブックを50ページ進めることだった。僕は,約束を反故にしてはその好きな女の子に悪い印象を持たれてしまうかもと心配し,その週の土日でワークブックをすすめていくことにしたのである。
僕の通っていた中学では当時,基本的には教科書準拠で数学の授業が進められていき,その進度に合わせて別冊のワークブックが宿題として課されるという感じだった。50ページとは1年間で進むページ数の約1/2に相当し,かなり大変な量な上に,ほとんどのページはまだ授業で扱われていない内容である。しかし僕は,それを土日だけでなんとか終わらせた。相当頑張ったに違いない。自賛的になってしまうが,多分普通の中学生なら1年でやる量の半分を2日間で終わらせることなど,頑張ってもできないと思う。僕は数学の才能がそういう意味では多少あったのかもしれない。
月曜日に僕はその成果を見せようとウキウキで学校へ向かった。得意げにワークブックをやってきたことを報告したときの例の女の子の反応は今でも鮮明に覚えている。期待とは裏腹に塩対応,というか若干引いていた。今考えてみると当たり前である。今だったら女の子の気を引くために数学のワークを50ページやっていくという戦略は絶対取らない。しかし当時はそれが有効だと心から信じていたので救いようがない。
残念ながら本当に欲しかったものは手に入らなかったが,副賞(?)として数学が好きになった。成績が上がって,周りの人から褒められることも嬉しかった。このときの50ページの貯金を絶やさないように,僕は数学だけは先取りをするようにした。この貯金は大学の進学振り分けまで絶えることはなかった。つまり数学に関しては,中学,高校から大学までずっと学校で習う内容の先を自主的に勉強していた。中学のときにつくった貯金が活きていたと考えると感慨深いものだ。
時が過ぎ,その子への想いはとっくに薄らいでしまった。しかし数学は変わらず好きでいる。
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