人の少ない駅のホームってわくわくする
帰宅ラッシュの時間もとっくに過ぎ、時計の針は22時前を指している。
有難いのかそうでは無いのかは人それぞれだが、私のシフトはサラリーマンよりも遅い出勤時間に組まれているので、世の中の帰宅ラッシュにぶつかる事はまず無い。
どちらかと言えば、仕事終わりに一杯引っかけてから帰宅するサラリーマンと同じ電車に乗ることの方が圧倒的に多い。
月曜日。
世の中の週初め。さすがにこの曜日から居酒屋に向かうサラリーマンは数えるほどしか居ないのか、この日の帰りの電車は酒臭くなかった。
浮腫んで重い脚と今にも閉じそうになる瞼と格闘しながら電車を待つ。
人の少なくなるこの時間帯は電車の本数も減り、なかなかお目当ての電車がホームにやってこない。
ふとイヤホンを外して周りを見ると、ほとんど人の居ない静まり返ったホームに気がついた。
あれ、全然人いないじゃん。
そう勢いよく口から出そうになったのを飲み込んだ。
駅の周りを通る車の音。エスカレーターの機械音。閑散としたホームに反響するパンプスの音。
ひとつひとつの音がダイレクトに耳に入ってくる。
電車が来るまで、あと約10分。
滅多に見れないであろうこの風景。写真に収めたい。
一度そう考えたら、あっという間に身体が動いていた。
大音量でガンガンに流していた某ロックバンドの曲を止め、iPhoneのカメラを起動した。
不思議そうな目をして見てくる通行人なんてお構い無しだ。
撮りたい景色は、撮りたいと思った瞬間に撮らなければ消えてしまうんだよ。
夢中になって心がときめくシーンを探した。
無機質な空間。ツヤっとした床に反射する蛍光灯の灯り。
ここが大都会だと深く感じさせられる。
人もまばらな待合室。
長く長く続くホーム。先が見えない。一日でどれだけ多くの人をこの駅は迎えているのだろうか。
青と黄色の組み合わせ。だいすき。
降車口で立ち止まっちゃったのは許してね。
運ぶ人が居ないエスカレーター。
疲れていると、エスカレーターの吸い込み口をボーッと眺めてしまう習性がある。これは子供の頃から変わらない。
自分も飲み込まれてしまいそうな感覚に陥るよね。
一日の終わりを告げるかのようなホーム。
人の少ないホームってどうしてわくわくするんだろう。
異空間に迷い込んだみたいな、そんな不思議な感覚。
◇
明日もまた電車に揺られて職場へ向かう。
通勤電車は嫌いだけど、駅のホームは好き。
こんな素敵な景色を見られるのは、電車通勤者の特権なのかな。なんてね。
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