#タイトルなし

■登場人物

主人公〇〇24歳

音大出身。映像制作会社に勤め、映画監督で成功をすることが夢。

みなみ20歳

七瀬 24歳

まいちゅん 25歳

まいまい 25歳

まいやん 24歳

いくちゃん 23歳

第0章 #プロローグ

?? あ、この映画、ママみたいな人出てるねー!

??そうよ~。私と〇〇で作った初めての映画なんだよ~。

?? えー!パパもママも出てくるのー!

〇〇 そうだね、この話はパパとママの、大事な大事なお話なんだよ。

?? ちょっとー!そろそろ出ないと遅れるわよ!

〇〇 よし、じゃあまりか、お出かけしよっか!

まりか うん!

この話は、ゆくゆく世界的大ヒットとなる映画を作り上げた脚本家と映画監督の物語である。

ーーーーー天国も地獄も味わった、濃密な時間を過ごした者たちの物語である

第1章 #一生消えない想い出のヒト

〇〇 あ~~今日も全然おわんねー…

当時24歳。入社3年目の年。映像制作会社に勤める〇〇は、映画監督を目指す若者だ。

?? なーに?また今日も会社泊まるの?ほんと好きねー

白石麻衣。職場のエリート同期で、事あるごとに業務で勝負を挑むも、一回も勝てたことがない。

〇〇 好きで泊まってるわけじゃねーよ。それにお前も全然帰る気配ないじゃん。

白 私も今日は結構やばい...あ~もうっいやになってきた。もういいや!のみいこ!

〇〇 うーん。あり、だね。笑

そうして二人は飲みに行くことになった。

気が付けばすっかり酩酊状態の二人。

〇〇 俺は映画監督になりたいのに、こうやっていろんな映画とかドラマの映像編集してるだけで、近づいてんのかな...

白 そんなこと言ってる暇があるなら飲みなさいよ!

ゴクゴク... 白石はジョッキを一気に飲み干した。

〇〇 おいおい、そんな飲んで大丈夫か

白 だーいじょうぶよ、私を誰だと思ってるの~

〇〇 俺と同期の白石麻衣さん。

白 せ~いか~い。はふーーーん!

完全に酔っぱらっている。

白 あ~もうねむいっ寝るっ

Zzz…

寝てしまう白石。

〇〇 おいまじか!あーもう、、仕方ない、送っていくか...

おんぶをして、会社から徒歩10分の白石の家まで送っていく。

ドサッ

ベッドに投げるように降ろす〇〇

〇〇 おい白石、俺はもう帰るよ~

白 むにゃむにゃ・・

〇〇 まぁ聞こえてないか。かえろーっと。

ガシッ

突然腕をつかまれる〇〇

白 まだ飲むよ~~~~

〇〇 いやいやむりだろ・・・

白石は爆睡している様子。寝ているにもかかわらず、腕をつかむ力は強い。

〇〇 (仕方ないか・・もう少し居座ろう)

白 私、いつまでこんなことしてて、いつになったら脚本家になれるんだろう・・・

白石はボソッと力弱く言った。

〇〇 大丈夫だよ、お前は。なぜなら、後々世界的な映画監督になる俺が保証するんだからな。

白 Zzz…

〇〇 寝てるか。(いつも強気なこいつでも、こんなこという時があるんだな)

気が付けば〇〇も眠りについており、気が付けば朝。

ガンガンガンガンガン!

けたたましい、おたまでフライパンをたたく音で目が覚める。

〇〇 うわぁっ!?

ふわっと香ばしい、焼き鮭のいい匂いがした。

白 ごはんできたよ。食べてく?

〇〇 あ、寝ちゃってたのか、、うん、いただきます。ありがとう。

焼き鮭に加えて、白米、玉子焼き、味噌汁。大体の日本人なら誰でもたまらない朝食が目の前にあった。

すっかりいつも通りの白石。昨日の泥酔っぷりが嘘みたいだ。

〇〇 ん、おいしい!

白 でしょ~?世界一おいしい朝ごはんでしょ。へへ

〇〇 確かにな~母ちゃんと同じ味がする。

あ、もうこんな時間か。一緒にいるところ見られて変な風に思われても嫌だから、俺、先行くわ!ごちそうさま!

白 ちょっとどういう意味よ!

キィーッ ガチャン

白 ほんともう、鈍感だなぁ。いってらっしゃい、世界一の映画監督さん?でも、ありがとうね…

あ、やばい!私ももう行かなきゃ!

出社後

〇〇 おはようございまーす。

上司 お、〇〇、おはよう。昨日依頼したあの件、進捗どうだ?

〇〇 あ、今日の13時までにはあげられると思います!

上 ずいぶんはやいな!だいぶ腕あげてきたんじゃないのか~?

〇〇 有難うございます!

白 おはようございます!

上 お、白石さんもおはよう。

ま、でもいくらお前も白石さんに比べたら全然遅いだろうけどな!はっはっは

〇〇 いえ、もう負けません!

白 ふふふ、、私に勝てると思ってるのかしら?

〇〇 よし、じゃあこの編集作業でどっちが早く良い仕事ができるか、勝負だ!

他人A お~また始まった。エリートの白石さんに歯向かおうとする〇〇の無駄な意地の見せどころ

2時間後...

〇〇 できました!!

上 お~かなり早いじゃないか。どれどれ...お~内容もかなり良い。ほんとに成長したなぁ、感心感心。

〇〇 白石はまだ、、?

上 いや、もう30分前には仕上げてさっき部長に呼ばれていったよ。

〇〇 くそぅ・・

すると、後ろから突然声がした。

白 「私と勝負だなんて、まだまだ早いわね。ま、でも、いつでも勝負は受けてあげるわよ。」

その時の表情は、とても凛々しく、それゆえか、何よりも綺麗に思えた。

〇〇 …

言葉を失う〇〇

白 あら?ほんとにもう降参なの?

〇〇 いや!!次はもう負けねーからな!!

その場にいた社内一同笑う

その日の帰り…

〇〇 (ちっくしょ~まだあいつには勝てねーか…)

ピロン♪

LINEが鳴った。

姉の深川麻衣からだ。

深 今度、眞衣ちゅん、その妹のみなみと一緒に鍋するんだけど、たまには家に帰ってこない?

〇〇 …

眞衣ちゅん こと新内眞衣とその妹のみなみとは中学校の時からの知り合いだ。

しっかり者に見えて実は天然な姉新内と、自由で何をしても許されるかわいらしさを持つ最強の妹みなみ、昔から仲が良く、兄妹のようにさせてもらってる間柄だ。

〇〇 うん!行くわ。

~当日~

新 わ~〇〇、久しぶりだね~~!そろそろ彼女でもできた~~??

〇〇 うるさいな、できてないよ。

み 違うよね、〇〇はみなみの旦那さんになってくれるんだもんね~

〇〇 小さいころにした話だろ!もう…

この二人に囲まれるとひたすらいじられて遊ばれる。

深 〇〇!おかえりなさい。最近大丈夫?また痩せたんじゃない?たまには家に帰ってきなよ~

姉の深川麻衣は、保育士をしているせいか、非常に面倒見がいい。

新 さて、じゃあ早速鍋の準備しますかー!!

そうして一同は鍋の準備に取り掛かった。

新 こらみなみ!そんなにヘタの部分捨てたらもったいないでしょ!

み あ~出た出た、お姉ちゃんのもったいない病

新 出たじゃない、ほら、水も出しっぱなしだよ!

み あ~もうめんどくさいなぁ。そんなに文句ばっか言ってると~、中身おばさんになっちゃうよっ!

深 ふふふ…相変わらず二人とも仲が良いのね。ねぇ、〇〇?

〇〇 苦笑(このやり取りでそう言える姉がすごい…)

深 そういえばさ、もうすぐみなみ誕生日だね!

み そうなの…もう20歳になるの。はぁ…もうおばさんの仲間入りかぁ…

ちらりと新内のほうを見る。

新 ちょっと。あなたがおばさんだったら私はどうなっちゃうのよ。

み まいちゅんはね、もうおばあちゃん♡

新 こら!

一同 笑う

〇〇 (そうか、もうすぐみなみ誕生日か…)

楽しく鍋も終わり、帰り道。

ピロン♪

新内の携帯が鳴る。〇〇からのLINEだ。

〇〇 みなみ、せっかく20歳の誕生日だから、みんなでお祝いしない?サプライズで。

新 (やさしいなぁ…)ありがとう!そうだね、せっかくだからみんなでお祝いしよっか。

〇〇 それで、プレゼント選んであげたいんだけど、、明日ひま?一緒に表参道あたりに見に付き合ってくれない?

新 いいよ!じゃあ14時に集まろっか。

〇〇 ありがとう!

翌日、みなみのサプライズ誕生日プレゼントを買いに、新内眞衣と表参道へ出かけることに。

Cloe, CELINEなど、翌週に20歳になるみなみに大人っぽいブランドものをプレゼントしたいと探している。

〇〇 何がいいかな~やっぱりCloeかCELINEのもの持ってると大人って感じするよな~

新 えっそんな高価なもの、あの子にはもったいないよ~

〇〇 大丈夫、そろそろ大人な女性になれよって意味合いだから

新 もう~みんなそうやって甘やかすんだから~

〇〇 よし、これにしよう!

買い物を楽しむ二人。

そして、それをたまたま目撃してしまう、、、白石。

白 (え?あれ、〇〇じゃない?隣に女性いる...彼女いたんだ。。すごく楽しそう。。)

綺麗な女性と二人で歩く〇〇を見て、ひどく同様する白石。

その感情の揺れ動きに耐えられず、ただなぜかは理解できないでいた。

白 (なんでこんなことでイライラしないといけないの…)

〇〇 今日はありがとう!まいちゅんのおかげで、良いものがプレゼントできそうだ!

新 私もこういうものプレゼントしてくれる人ほしいな~

〇〇 大丈夫だよ、まいちゅんも綺麗だから、きっとすぐできるって!もしずっといなかったら、俺が今度してあげるよ!

満面の笑みで〇〇は語る。

新 ドキッ … ありがとう。

新 (〇〇、かわいい弟分くらいにおもってたのに、気が付いたらしっかり大人になってるんだなぁ。。かっこよかった。。もし〇〇と付き合えたらいいのに…)

翌日

〇〇 おはようございます!!!

白 朝から元気ね。何か良いことでもあった?

〇〇 いや、うーん、特にないよ?

白 そう。浮かれるのもいいけどちゃんと仕事してよね。

〇〇 (お、なんだ朝からやっかむなぁ)

そうしてそのままその日は一言も白石と会話しないまま終わった。

帰り道

〇〇 (こんなに白石と話さなかったの珍しいな…なんかあったのかな?LINEでも送っとくか)

ピロン♪

白石の携帯が鳴る。〇〇からのLINEだ。

〇〇 お疲れ!今日元気なさそうだったけどどうした?なんかあったか?

白 なんもないよ!ちょっと仕事溜まってて疲れてただけ。

〇〇 そうか、なんかあったら言えよ!

連絡をしてきた〇〇に怒りを覚えた白石。

ふと、イライラしている自分に気づく。

(なんで私、イライラしてるんだろう…)

白 じゃあ、言うけど、、彼女いるんだったら、そうやっていろんな人に優しさ振り撒かない方がいいんじゃない?

〇〇 え?彼女なんていないよ?

白 いや、私見ちゃったよ?先週の日曜、綺麗な人と一緒に歩いてるとこ。私に構う暇があったらちゃんと彼女大事にしてあげてよね。

〇〇 あー違うよ!あの人は、姉ちゃんの親友の人!中学の頃から仲よくてね、その人の妹が20歳の誕生日になるから、サプライズでプレゼント選びに行ってたんだよ。

白 そうなんだ、ふーん。

〇〇 おいおい、信じろよ笑

白 それならまぁいいけど。まぁまた今度飲み行こ!

〇〇 おう!

なぜか、急激に安堵を覚え、さっきまでのイライラは消えていた。

(あれ?もうイライラしてない、むしろなんかほっとしてるなぁ…)

その日、白石は自分の気持ちを自分で理解できないままに、眠りについた。

サプライズの計画はこうだ。

みなみは姉の新内眞衣に連れてこられ、新丸の内ビルの49階でディナーをしようという誘いをする。

そこに姉の深川麻衣と〇〇もいて、サプライズでお祝いをする、というもの。

当日、みなみが来る時間よりも少し早く集まる2人、そして普段よりは少しパリッとした大人の格好を身に纏っている。〇〇はスーツ、姉の深川はドレスだ。

少し経つと、2人が到着する。

み お姉ちゃんすごーい!こんなとこ予約取ってくれたんだ〜!うわぁ夜景きれーい!

親 でしょ~?だてに丸の内OLしてないでしょ〜?

み うん、すごいね~!

みなみは上機嫌だ。来たこともないような高いビル。

そして東京を一望できる夜景。少し大人な世界に緊張すら覚えていた。

店員にエスコートされ、席に向かっていると、みなみははっとした表情に変わる。

新内が連れてきた場所にはなんと〇〇と深川麻衣もいたからだ。

み え?!なんで2人ともいるの?!

新 テッテレー!サプライズでーす!

み えー?!え、うそ!どうしよう!

〇〇 まぁまぁ、座って座って。

み え、どういうことー!!

〇〇 はい、プレゼント。

み えーなんだろう!でも、え、でも全然この状況理解できてない…あ、この袋、、CELINEだ、、

〇〇 今日から大人の仲間入りだね。誕生日おめでとう。

深 はい、私からも。

姉の麻衣からは、女性らしいアクセサリー。

新 今日はね、〇〇がサプライズでお祝いしようって言ってくれたんだよ。

み どうしよう本当に嬉しい…

〇〇 じゃあ念願のアルコール一杯目、行ってみようか

み うん!

ファーストオーダーを終え、コース料理が運ばれてくる。

はじめてのお酒に緊張も相まって、みなみも少し酔いが回っているようだ。

〇〇 みなみの将来の夢は、、?

み 映画のカメラマンになること!ヒック

〇〇 それ、昔から言ってるけど、本気だったんだ??てか、大丈夫??酔っぱらってきた?

み そうだよぉ!大好きな映画の撮影ができたら、嬉しいなって~ う~ん、なんかね、世界がふわふわしてきた!

〇〇を見つめるみなみ。

み へへへ…うれしいな…

明らかに恋をしている女の顔をしていた。

それを見て、新内は気づいてしまった。みなみも、〇〇に想いを寄せていると…

そうして楽しい会は終わりの時間を迎え、店を出る。

新内は、妹との関係、〇〇への想い、その二つに揺れ動く複雑な感情を抱え、どんどん口数が少なくなり、

とうとう耐えきれず、別れ際は素っ気なく、さっと帰ろうとしてしまった。

察しがついた深川は、待って!と追う。

みなみと二人残され、イルミネーションがきれいな街を二人で歩く。

み ふわぁ~、これが東京駅か…こんな時間にあんまり来たことないから、すごぉ~い…

ふわふわ系のみなみが、いつにも増して、ふわふわしている。

〇〇 なんか、2人とも帰っちゃったね。

み どうしたんだろうね~

ねぇ、〇〇…

〇〇 ん?どした?

み なんで私がカメラマンになりたいと思ったか知ってる?

〇〇 子どものころからの夢なんだろ?

み そうだよ。でもね、、、、

あ~でも恥ずかしいな~

〇〇 なんだよ、そこまで言ったら言ってよ笑

み …うん。

あのね、〇〇が映画監督になりたいって言ってたらからだよ。ずっと〇〇と一緒にいたいし、なんかね、夢を叶えるお手伝いをしたいと思ったの。

私と一緒にその夢を追ってくれないと、やだよ?

〇〇 もちろん。めちゃいいね!嬉しい!一緒に叶えてすげー作品作ろうよ!

み …

〇〇 あれ?

み もう!ほんと鈍感!ばか!もう帰る!

そういってみなみは早歩きで帰ってしまう。

み ううん、、、私も突然だった、かな…あと、なんかお酒の勢いみたいなのもあるのかな…?

〇〇 少し、時間をもらえないか?みなみのことを、本当に女性として見れるか、一度ちゃんと考えてみたいんだ。ちゃんと、返事をしたい。

み うん、わかった。ありがとう。じゃあ、今日はもう帰るね。またね。

〇〇 うん、ありがとう。ちゃんと帰れる?お姉ちゃんいないけど。

み うん、大丈夫!まだ正気!

〇〇 そうか、よかった。じゃあまたね。家ついたら連絡するんだよ

み はぁーい

逆方面に歩き出す二人。

み 〇〇ー!!

振り返る〇〇

み 大好きだよ!ずっとずーーっと前から、誰よりも大好きなんだからね!

照れて走り出すみなみ

〇〇 (みなみがそんな風に想ってくれてたなんて・・・)

白石、まいちゅん、そしてみなみ。

それぞれの想いを胸に、夜は更けていった。

第2章 #結ばれる糸

みなみの誕生日から二週間もすると、季節はバレンタイン一色だ。

街中では、チョコのプレゼントを勧める広告ばかり。ただ、心なしか街ゆく人たちも楽しそう。

寒いが心は暖まる。そんな季節なのだろうか。

ピロン♪

LINEだ。みなみからだ。

み 明日会える?渡したいものがあるんだ!

〇〇 うん、会えるよ。

み やった!19時に東京駅でもいい?

〇〇 わかった。

(そろそろ…ちゃんと返事しないとな…)

当日

み やっほー!

〇〇 おつかれさま!

み おつかれさまってなんかおじさんくさい笑

〇〇 こっちはもうおじさんの仲間入りしてるんですー!

あ、そのカバン!この間あげたCELINEのカバンじゃん!

み そうなのー!気付いてくれたー!どう?似合う?

〇〇 似合うも何も、将来世界一有名な映画監督になる男が選んだカバンだからな、そりゃもう。

み お姉ちゃんに手伝ってもらったくせに〜

〇〇 それは言いっこなし!笑 でも、使ってくれて、ありがとう。

み ううん、本当に嬉しかったんだよ?

〇〇 うん、今日の格好も、大人っぽいね。綺麗だ。

み … (照れるみなみ)

〇〇 じゃあご飯でも食べよっか?

み ううん、今日はね、少しだけお散歩したいの。

〇〇 ん、そっか、わかった。そうしよう。

他愛もない話を数刻した後、みなみが神妙そうに切り出す。

み あ、ここ…

〇〇 ああ、この間ここでばいばいしたね。

その場所は、前回みなみから想いを聞いた場所。

み はい、チョコ!本命だよ?

そろそろ…返事…聞かせて…ほしいなぁ…

あーーーでも待って!こわい!こわいからやっぱいやだ!けど聞きたい!どうしよう!

〇〇 みなみ。チョコありがとう。

み …うん。

〇〇 ありがとう。みなみのことは大好きだよ。

けど、よくよく考えてみたんだけど、みなみのことはやっぱりどうしても、可愛い可愛い妹分なんだ。

み …

〇〇 でも、この間、映画のカメラマンになりたいって話を聞いて本当に嬉しかった。付き合うことはできないかもしれないけど、一緒に同じものを作り上げる、そんなパートナーにはなりたいって想ったんだ…ずるい、かな?

み …そっか。やっぱりだめかー!そうだよね…

でも、カメラマンになりたいことは、それ抜きにしても本当にやりたいことだから、一緒に目指す!こういう風に撮った方がいいとか、いろいろ教えてね!

〇〇 もちろん、喜んで。

み ごめんね、急に変なこと言いだして…

〇〇 ううん、むしろありがとう。

み こちらこそ!みなみね、〇〇に会えてよかったの!それだけで、しかも一緒に映画とか作れたら嬉しいなぁ。

〇〇 うん、絶対しよう!

み ありがとう!!じゃあ…またね。

〇〇 うん、また… あ、みなみ!

み なぁに?

〇〇 これ、はい。

み え?!

〇〇 誕生日プレゼント兼バレンタイン!Sadaharu Aokiのマカロン。

み え!大好き!!ありがとう!!でも、ずるいよ〇〇は…こんなことして…

〇〇 ごめん…

み わかってるから…謝らないで。じゃあ…またね。

〇〇 うん。気を付けてね。

そうやって別れを告げ、暫く歩くと、みなみは縁側に座り泣き出した。気丈に振る舞い、笑顔で別れた強さをみていたのは、、たまたまその場にいた、姉の深川麻衣だった。

タタタッ(近寄る深川麻衣)

深 みなみ、大丈夫?

み ううっあ、まいまい…私ね、だめだった〜…

泣きじゃくるみなみ。うんうん、とだけ言い、抱き締める深川麻衣。

深 (でも、たぶん、もう1人…)

その次の週の日曜、〇〇は姉の深川麻衣とカフェにいた。

〇〇 ふぅーっ

深 どしたの、ため息なんて。

〇〇 いや〜まぁ、いろいろあるよね〜って。

深 なにそれ。じゃあお姉ちゃんが当ててあげよっか?

〇〇 それわかったらさすが姉貴って感じだわ。天才。

深 ズバリ、恋愛関係!

〇〇 げっなんでわかったん?!

深 顔に書いてあるよ。と、言いつつね、この間見ちゃったんだけど。

〇〇 ?

深 この間、みなみのこと、振ってたでしょ!!

〇〇 え!まさかあの場所に…?

深 たまたまね… 私も友だちとご飯に行く途中だったんだけど…なんかごめんね、逆に見ちゃって。

〇〇 いやいや全然!むしろ...みなみ、大丈夫そうだった?

深 ぜーんぜん。うそ。

すっごい泣いてたよ??街中で、、大変だったんだから。

〇〇 そうか...そうだよね...

深 なーーんて、冗談。帰りにはもういつものみなみになってたよ。

あんな振り方したんだから、ちゃんと、世界で最高の映画監督になりなさいよ?

〇〇 そこまで聞いてたのか... もちろん。絶対になる。

深 あとね、お姉ちゃんから言えることは一つだけ。

〇〇は...誰の事が一番好きなのかな?誰といつも一緒にいたいの?それだけじゃないかな?

はい、じゃあこの話おーしまい!そろそろ帰ろうかな~

〇〇 ...そうだね、かえろっか。

店を出て、わかれる二人。

(誰のことが一番好き、誰と一番一緒にいたい、か...)

その時、ふと、白石の顔が浮かんだ。

ピロン♪

LINEだ。姉からだった。

深 だれの顔が一番に浮かんだ?きっとね、その人が、〇〇にとって一番大切なひとだよ。

その人を大切にすることが、みなみを振った〇〇にできる一番大事なこと。わかった?

〇〇 全部お見通しか... 姉ちゃん、ありがとう。

白石に想いを伝えることを決意した〇〇だった。

第3章 #錯綜していく想い

翌日

〇〇 おはようございます!

白 おはよーっ

〇〇 お、朝から元気そう!よかったわ~この間、元気なさそうだったから。

白 うん、もう週末しっかり休んだら、元気出たよ!

なんか、〇〇も元気そうね?

〇〇 うん、やっぱり、、姉貴って存在は偉大だな。。

白 ん?どういうこと?

〇〇 いや、大丈夫。それよりさ、今日夜空いてる?飲みにでも行かない?

白 うーーーん、、あ、18時に終わる打ち合わせ終わったら大丈夫だ、いこう!

業務終了後、飲みに行く二人

〇〇 何か食べたいものある?

白 うーんとね、ハンバーグ!

〇〇 お、いいね!じゃあ最近近くにできたって噂のあの店行ってみよう。

白 お、ちょうど私もね、気になってたんだ~

〇〇 よし、じゃあいこっか!

駅の近くにできたイタリアンの新店舗。

おしゃれな外装、統一感のあるインテリア、シャンパンを飲む貴婦人、きれいな恰好をしている人たちが多かった。

白 いいお店だね~料理もおいしいし。

〇〇 ここのハンバーグ、めちゃくちゃおいしかったね!名前はハンバーグじゃなかったけど...

白 ふふ、おいしかったね。

〇〇 ボソッ(まぁでも、あの時食べた朝ごはんには敵わなかったな...)

白 ん?何か言った?

〇〇 そろそろ、お店でよっか。

白 うん、帰ろっか。

〇〇 送っていくよ。

そうして、白石の家まで歩いて20分、他愛もない話もしながら、少し酔いの力を借りて楽しむ二人。

すると、〇〇が切り出す。

〇〇 なぁ白石...

白 ん?なぁーに?

〇〇 話したいことがあるんだ。

白 シッ。

〇〇 え?

KISS

〇〇 驚く顔

白 私ね、〇〇のこと、好きよ。どう?驚いた?

〇〇 驚くも何も...俺が先に言おうと思ってたのに...

白 あなたはね、私に勝とうだなんて、まだまだ早いのよ♪

ああ、いつものあの、透き通っていて、けど芯のある、きれいな顔だ。

〇〇 おい白石、告白は男がするもんだろ~

白 もう、白石は、やめて?麻衣って呼んで?

〇〇 ...麻衣。ようやく気付いた。麻衣が世界で一番好きだ。大事にしたい。俺と、付き合ってください。

白 明日の朝ごはん、焼き鮭と玉子焼きでいい?あれが、一番おいしいんでしょ?

〇〇 麻衣、聞こえてたのか...うん、ありがとう。

白石は悪戯そうな顔をして笑い、二人は手をつないで白石の家に向かった。

白石の家によく泊まるようになり、ほぼ半同棲の生活をしていた二人だが、

付き合い初めて1年を迎えたところで、正式に同棲をすることとなった。

念のため、両家に面通しの挨拶にも向かい、正式に一緒に住むことになった。

勿論、将来の結婚を見据えて。

ただ、そんな時に、事件が起きる。

なんでもない水曜日の夜だった。

白石がひどくお酒に酔っ払い帰ってきた日のことだった。

なんでも、珍しく仕事で大きなミスをしてしまったそうで、その後クライアントにも上司にもこっぴどく叱られ、

その後同僚と飲みに行っていたとは聞いていた。

白 たらいま~

〇〇 おいおい、大丈夫か?

白 大丈夫よ~でーんでん!

〇〇 全然大丈夫じゃねーじゃん...

白 うるはい!

〇〇 はぁ~ちょっとそこに横になってな。

白石をソファーに寝かせる〇〇

白 大体ね~あんな雑に依頼してきたあの人が悪いんだって!もう~聞いてよ~

私はね、指示通りに正確に仕事をこなしただけなので、なんで私が悪いみたいになるのよ~

〇〇 はい、お水。

白 ねぇ~聞いてるぅ~??

〇〇 うん、ちゃんと聞いてるよ。大変だったね、おつかれさま。

白 大変どころじゃないわよほんとに...

大体ねぇ、あなたもあなた、映画監督になりたいって夢はどうしたの?

私はこの間映画祭シナリオ大賞で銀賞取れたけどさ~現実的に映画監督になるために、賞とかそろそろ取りなよ~

いろいろ応募してるのは知ってるけどさ~

〇〇 おいおい、俺に当たるなよ。

白 ね~ちゃんと答えて!なに?世界が誇る映画監督になるってのは、口先だけだったの?

図星だった。映画監督になるにも、どうにも仕事が忙しい。

様々な映画に触れる瞬間はあるものの、どうやったって自分で作る時間が取れてない。

ただ、そういった賞に応募はしている。ただ、毎回自分でも全く納得がいっていないこともわかっていた。

ただ、いろんな事情を理解してくれてると思っていた白石から、こう言われることに、耐えられなかった。

〇〇 言っていいことと悪いことあんだろ。

白石は急に我に返ったようにハッとなった。

白 あ、ごめん、違うの、今のは言い過ぎた。ごめん。

動揺して何とか取り返そうとする白石。

〇〇 ちがくねーだろ。本当にそう思ってるからそう言ったんだろ。

俺は...理解してくれてるのは麻衣だけだと思ってたのに...酔っぱらって八つ当たりとか、マジだせぇよ。

ごめん、もうちょっとしばらく家出るわ。

白 違うの!ごめん!待って...

白石にはかまわず、出ていく〇〇

白石は、お酒の勢いとはいえ、

言ってはいけないことを言ってしまったと、後悔し、その晩は泣き明かした。

翌日

会社を休んだ〇〇。

知らされていない白石。

白 (ああ、やっぱり...)

上 あ、白石さん。さっきな、〇〇から連絡があって、ちょっと体調不良だから2日間は休みがほしいと連絡があったよ。あいつ、大丈夫そうかな?

白 あ... そう、なんです... ちょっとインフルエンザかも?みたいな話はしてましたが...

上 あいつにさ、病院行くように伝えてもらっておいていいかな?あ、勿論白石さんも気を付けてね。

白 はい、承知しました。お気遣い有難うございます。。

白石は、大きくため息をついた。

その翌日、その翌日も〇〇は会社を休み、白石には連絡がなかった。

一方...

〇〇は実家に戻っていた。

深 ちょっと〇〇~。仕事、大丈夫なの?急に帰ってきて。

〇〇 うん、大丈夫。そろそろちょっと映画作りに専念したくてね、お休みもらったんだ。

深 まぁ、それならいいんだけれど...麻衣ちゃんは?

〇〇 あいつも大丈夫。

深 そっか...

ピロン♪

LINEだ。深川の携帯が鳴った。

深 あ、まいちゅんからだ...今日、飲みに行かないかって。〇〇も行く?

〇〇 いや、いいよ。遠慮しとく。

深 じゃあうちにきてもらおっか。

〇〇 いや、そういう意味じゃ

深 あ、まいちゅんとみなみ、今日おうちくるって~

〇〇 ...

数時間後

新 はろ~!

深 あ、いらっしゃい!みなみも!

み おじゃましま~す

〇〇 ...

深 ほら、いくら元気ないからって、挨拶くらいちゃんとしなさい!

〇〇 久しぶり~

新 どしたの?ほんとに元気なさそうだね?おねえさんが悩み聞いてあげよっか~?

〇〇 大丈夫。元気だよ。

み うそだ。うそつき。〇〇は、元気ないときいつも大丈夫って言うもん。今日は絶対に大丈夫じゃない。

新 じゃあこんなときは、ぱーーーっと、飲みますか♪

その後、4人はお酒を大層飲み、深川とみなみはすでに入眠していた。

新内と〇〇だけが残ってお酒を飲んでいて、そろそろ時間としては0時をまわりそうだった。

新 じゃあ、私はそろそろ帰ろうかな。みなみは寝ちゃってるし、今日は泊めさせてもらおう。

〇〇 あ、もうそんな時間か。まぁみなみは大丈夫だよ、昔の俺の布団で寝てるし。ねえちゃんもいる。

新 〇〇、元気出た?

〇〇 どうかな~

新 じゃあ、ウチくる?もう一杯軽くのもっか?明日も休みなんでしょ?

〇〇 そうだね...うん、いこっかな。

その後、新内の家に到着。

新 さっきコンビニで買ったこれ、結構おいしそうだね~新作のガチ酔いサワー!

〇〇 ネーミングが強烈すぎたね。

新 では、改めまして、かんぱ~い!

〇〇 ほんとにこの人は元気だな...

新 で、何に悩んでるの?

〇〇 うん..

〇〇は、今の事情をすべて包み隠さず話をした。

新内は黙って頷き、聞いていた。

そしておもむろに、〇〇を抱きしめた。

新 私が、代わりでもいいんだよ。ずっと近くで見てきたから、誰よりも〇〇のことは知ってる…

〇〇 ...

新内は顔を〇〇に近づけ、キスをした。

新 ね?できるでしょ?

その晩、一晩を供にしてしまった二人。

新内は、「誰かの代わりでもいい、あなたのそばにいたいの。」と、そう言った。

〇〇は、新内に求められるがまま、ただただ応えた。

朝起きると、隣に新内がいた。

違和感と罪悪感に襲われ、書き手紙を残して家を出た。

「まいちゅん、ごめん。ありがとう。

 今まで通り、仲良い姉弟みたいに過ごせたらうれしい。」

その日、新内は仕事を休み、一日中泣いた。

そして、〇〇は、姉にLINEを送った。

〇〇 姉ちゃん、ごめん...

返信はシンプルだった。

深 やっぱりそこ行ってたか。うん、わかってたから、大丈夫。

〇〇 姉ちゃん、どんだけ優しいし理解早いんだよ...

こんなにやさしい姉ちゃんは、早く誰かいい人にもらってほしいわ...

深 私がいなくなったらあなたの世話をする人がいなくなるけど大丈夫かな??

〇〇 それは困る...けど、姉ちゃんに幸せになってほしい...

深 私の幸せは私が決めるの。心のありようがすべてなんだから。

〇〇 さすが聖母...

ひどい罪悪感に苛まれながらも、家に戻るため、バスに乗ってみると、

ふと、見たことがある人に気づいた。

〇〇 あ...あれ?

?? あ...!〇〇くん

〇〇 やっぱり!七瀬...だよね?久しぶりだね。

七瀬 うん、久しぶりやな。どしたん?こんなとこで。

〇〇 あ、ちょっとね。七瀬は?

七 あ、ここらへん家なんや。私はな、いま通勤中やで。終点の病院で働いとんねん。

〇〇 え、今お医者さんなの?ていうか東京きてたんだ。

七 ちゃう。看護士。せやね、二年前から上京してきててん。

〇〇 そうなんだ...確かに、七瀬は周りに優しいし、雰囲気合ってるし、いいね。

七 そんなことないやろ。笑 〇〇くんは...?そや、あれやったな?映画監督目指しとるんやろ?昔っからよう言うとったもんなぁ。

〇〇 ま、一応な...

七 どしたん?

...まぁいろいろあるんやろな~気負うんやないで、ファイトやファイト!

不思議と、彼女のふわりとした雰囲気のおかげか、特徴的かつかわいらしい関西弁の力か、ただただ七瀬がかわいいからか、肩の力が少し抜けた気がした。

〇〇 なぁ、七瀬

七 なぁに?

〇〇 今日夜、何してる?

七 暇しとるよ~

〇〇 ごはんでも、どう?

七 おー!ええやん!いこいこー!

〇〇 じゃあまた後で、連絡するね。あ、LINE教えてほしいな。

七 ええよ~はい♪またあとでな♪

〇〇 うん、また...仕事、がんばって

その夜...

〇〇はまたも過ちを犯してしまう。

久々に会った七瀬。やわらかい雰囲気。かわいい笑顔。七瀬ーーーーーーー

の家に、〇〇はいた。

七 どしたん?今日は泊まりたいだなんて...

〇 七瀬、すごくかわいくなったね。

七 どしたん急にー?照れるやろー

〇〇 正直に言うと、どうしても忘れたい人がいて...

七 あ~そういうことなんか。きっときれいな人なんやろな~〇〇くんの彼女さん。

〇〇 ...

七 でも、一個だけ言うとな、ななだったら、そんな想いはさせへんで?

〇〇 七瀬...

見つめあい、時が止まる。

その瞬間、七瀬が口を開く。

七 ななな、昔な、ずーーっと〇〇くんのこと好きやったんやで?

でも〇〇くん、転校しちゃったし、だから、ずっと伝えられへんかってん。

でもな、今日、やっと言えたな?

〇〇 七瀬...

七 覚えてる?ななが小学生の時にいじめられてて、それを助けてくれたのが〇〇やったやん。

〇〇 そんなことあったっけ?

七 え~忘れてるんショックやなぁ。

〇〇 あーあれか!俺がバット振り回して暴れたやつか

七 そうそう!あれな~めっちゃかっこよかってん。

...ええよ。ぜーんぶ、ななやったら受け止めてあげられる。

新内の時とは違い、〇〇は、七瀬のことを自分から求めた。

ーーーーーー七瀬とだったら、麻衣のことは忘れられるかな...

翌朝

〇〇が家を出てから4日目

ピロン♪

LINEだ。姉からの連絡。

深 〇〇、すぐに帰ってきなさい。すぐに!

〇〇 どうしたことかと思い、慌てて家に戻った。

家に着いてみると...ハッとした。

〇〇 麻衣...

深 麻衣ちゃんがね、私に連絡をくれたの。

どうしても連絡が取れない、謝りたい、私が悪いことをした、許してほしい、やり直したい、、

すべて、話してくれた。

〇〇、話さなきゃいけない人なんでしょ?

ほら、前に約束したでしょ?次付き合う人のことは、絶対に大事にするって。

麻衣ちゃんが、その人なんだから。

私、ご飯の買い物行ってくるから、二人で話し合ってて。

暫く沈黙が流れる二人...

最初に口を開いたのは、〇〇の方だ。

〇〇 麻衣、何か飲む?

麻 ただ首を横に振る

〇〇 寒くはない?

麻 再度、ただ首を横にふる

そしてまた沈黙...

数刻経ったのち、麻衣が静かに話し出す。

麻 〇〇... 本当に、ごめん。

私が、ひどいことを言ってしまった。あなたの努力もすべて知っているのに...

一番理解していなきゃいけない私が、一番ひどいことをしてしまった。

許されることだとは思ってない...もう嫌われちゃったかなって、もう口もききたくないかなって、

諦めなきゃいけないのかなって...でも...やっぱり、私は〇〇が大好きなんだもん...

なんとかして、やり直したくて、、、今日は急に押しかけてごめんなさい...

泣きながら、でも、堪えながら、丁寧に言葉を紡いだ。

〇〇 ...

麻 やっぱり、、、もう、ダメかな、、、?

〇〇 麻衣。

麻衣が顔を上げた。

〇〇 俺も...まさか、麻衣にあんな風に言われるなんて、全然思ってもみなかったから、衝撃と一緒に、変な風にずっと気を遣わせていたのか、とか、自分が情けなくなった。言われたことは図星だった。だから、なおさら引き返せなくなった。ごめん。でも、今はそれより、もっと謝らなきゃいけないことがあって...

麻 いいの。話さなくていいの。なんとなくわかってる。

でも、それよりも、、、、帰ってきて、くれる...?

それだけが、気になってる。私のもとへ帰ってきてくれるんだったら、なんでもいいの。

私も、〇〇のもとへ、帰りたい。。。仲良い二人に、戻りたい...

〇〇...

うん。こんな俺で良ければ、また、やり直したい。ありがとう、麻衣。

ごめんね、麻衣。。。

泣き崩れる麻衣。一緒に、むせび泣く〇〇。

ひょんなことから別れかけていた二人は、こうしてまた元の二人に戻ることになった。

ガチャッ

深 ただいまーっ!

〇〇・麻 おかえりなさい。

深 うーん、ま、顔はぐしゃぐしゃだけど、丸くまとまったって感じかな?

みんなで鍋でもしよっか♪

〇〇 ほんと姉ちゃん鍋好きだよな...笑

深 なに?文句あるの?

〇〇 いえ、とんでもございません、お姉さま。準備、手伝わせていただきます。

麻 あ、私も手伝います!

そうして楽しい時間を過ごしたのち、、、

〇〇 麻衣、ごめん。いろいろと片付けないといけないことがあるから、明日の朝に帰るよ。

麻 うん、わかった。ほんとに...ほんとに、帰ってきてくれるよね。

〇〇 うん、絶対、約束する。

麻 わかった...待ってる。じゃあ、また明日。

〇〇 うん、また明日ね。

見送る〇〇。家路につく白石。

〇〇はLINEを送った。

ピロン♪

七瀬の携帯が鳴った。

〇〇 七瀬、夜遅くにごめん。今からまた、会えないかな?

七 うん、いいよ。どしたん急にこんな夜遅く

〇〇 会ったら話すよ。

七 わかった。ウチくる?

〇〇 いや、近くの公園とかで話せないかな?

七 わかった、病院行く途中にある、あの公園で話そか

〇〇 わかった、じゃあ10分後に

七 わかった

真冬の夜の公園にて

〇〇が先についていた

(うぅ~寒いなぁ~~こりゃ七瀬に悪いことしちゃったかな...)

七 〇〇~!

〇〇 あ、七瀬!ごめんね、こんな寒いところ、呼び出しちゃって。

七 ううん、全然。冬は寒いなぁ

〇〇 来てもらってなんだけど、歩きながら話そうか。七瀬の家方面に向かいながら歩こう

七 うん

〇〇 七瀬...昨日あんなことがあった後、昨日の今日で本当に申し訳ない。

七 うん

〇〇 今日、朝、彼女が実家に来ていた。話をした。

やっぱり....気づいたんだ。俺にとって...一番大切な人が誰かを。

七 うん

〇〇 ...ごめん。

七 ...うん。

〇〇 ...

七 まぁ~こうなるかもなって思っとったし、さすがにちょっと早すぎるけど...

でも、あんたほんと最低やな!

〇〇 ...ごめん。ただ、昨日は本当に、心から、七瀬とだったら、麻衣のことを忘れていけるかなって思えたんだ...とか言っても、言い訳にしか聞こえないか...ごめん...

七 まぁでも、ななとしても、深入りする前にこうなれてよかったわ。

今度はちゃんと離すんやないで?麻衣ちゃん。

〇〇 うん、ありがとう...家まで、送っていくよ。

七 またなんかする気やないやろな?

〇〇 まさか!それこそ最低だよ...

七 じゃあそやな~罰として、おんぶしてくれん?家まで。

〇〇 はい、喜んで!

よいしょ...と。

七 はい、じゃあどいやさん号、出発進行~!

〇〇 なにそのどいやさんって。

七 ななの作ったキャラクターの名前

〇〇 そうなのか、似てるの?

七 いや、全然。

〇〇 苦笑

〇〇 七瀬、ありがとう。

七 ううん、こちらこそ。じゃあ、また...ね。

〇〇 うん、また...

七瀬を家に送り届け、実家に戻る〇〇

七 (はぁ~。。積年の想いやったんやけどなぁ。ガラにもなく明るくふるまってしもた...

小学校6年生の時からか...あんなにやさしい人、今まで他にはおらんかったなぁ。)

回想シーン

兵庫乃木坂小学校

少年A げ~この女!蛇とか爬虫類好きなんか!気色わるぅ!

少年B あとな、こいつ自分で書いたキャラクター、めっさ気持ち悪いねんで!

少年C うわ~まじかい

少年D こいつに触れたらキモイ菌移るからにげなあかんで~~!!

〇〇 おい、おまえら!そんなこと言ったらかわいそうだろ!

少年A はぁ~おまえ何そんなええかっこしとんねん!

〇〇 おい、お前が気色わるいとか、きもいとか言われたらどんな気持ちになるか考えたことあんのか!

少年B あるわけないやろぼけが~東京モンがやかましいんじゃすっこんでろ!

〇〇 そういうお前らがいっちゃん気持ち悪いんじゃボケが!!!

このバットで顔面気持ち悪くしてやろうかこのドアホ!!

先生 ちょっとあなたたち!何してるの!!

少年たち やべ、先生やあかん!にげろ~~~

先生 ちょっと、〇〇くん。何があったか説明してくれるかしら。なんで、バットなんか振り回してたの?

〇〇 先生、それより、七瀬を守ってあげてください。七瀬、クラスのみんなから気持ち悪いって、言われてたんです。

かわいそうで...ごめんなさい。(泣きながら謝る〇〇)

先生 そう。なぁちゃん。こっち来れる?二人を優しく抱きしめる先生。

先生の肩で泣く二人

七 一生、ななにとってはヒーローやで、〇〇くん。どこかでまた、会えたらええなぁ...

自然と零れ落ちる涙。七瀬は、声を押し殺して泣いた。

第4章 #暗転直下

麻 ちょっと〇〇~?そろそろいかないと間に合わないよ~?

〇〇 うん、もーちょい!あと五分!

麻 もう、洋服選ぶのにどれだけ時間かけてんのよ...

〇〇 はい、お待たせ!なんせ、今日は麻衣と生田絵梨花のミュージカルを見に行く日だからね!

麻 これからかなり伸びそうだよね~あの子。

〇〇 うん、音大の後輩だし、今度一緒に会いに行ってみようか。

麻 それはぜひ!なんとなく、あの子は私が書く脚本にぴったりな予感がするんだよね~

あれから半年。

〇〇は、白石麻衣と一緒にいた。二人とも仲睦まじく、さらにエンゲージリングまでつけている。

そして、白石との結婚も決意し、婚約中。仕事も順調で、〇〇は映画新人賞も取り、順風満帆。

かに思えたある日。

バタッ・・・

倒れる麻衣。

〇〇 麻衣?!麻衣?!

お腹を抱え、うずくまるようにして苦しむ麻衣。

〇〇は、すぐに救急車を呼び、一番近い乃木坂病院に向かった。

病院に行き検査をすると、二つのことが判明する。

〇〇 麻衣は..?!麻衣はどうしたんですか?!

医師 旦那様ですか。少し落ち着いてください。お知らせしなければならないことが二つあります。

ただ、その前に、ご両親も呼んでいただくことは可能でしょうか。

〇〇は、すぐさま関係者を集めた。

麻衣の両親、姉の深川麻衣、新内とみなみ。

医師 それでは皆様...落ち着いて聞いてください。二つ、ご報告せねばなりません。

麻衣の母 麻衣は!?麻衣は一体どうしたんでしょうか?

母はすでに錯乱状態だ。なだめる父がいる。

一つ目は、、、、ご懐妊されています。既に4か月目、といったところでしょうか。

これだけならいいニュースで終わるのですが...

もう一つは、、、悪性腫瘍が見つかりました。このまま治療をしなければ余命はあと1年、といったところでしょうか。

悪性腫瘍の治療を優先すれば、命に別状はなく助かると思います。

ただ、おなかの中にいる子は諦めてもらわねばなりません。

子どもを優先されるなら、闘病と闘いながらの出産、まず母子ともに健康であるかどうかも保証できません。

このご決断をいただきたく、皆様に揃っていただきました。

全員が息をのむ。

先ほどまでむせび泣いていた母でさえ、一時的に放心状態になっていた。

ただ、〇〇の想いは決まっていた。勿論、この先の人生にも、麻衣がいてくれることだ。

そう説得しようと思っていた。

そんな折...

麻 〇〇..?〇〇??

〇〇 ま...麻衣!起きたのか...よかった、よかった...!

泣きじゃくる〇〇

麻 え...どうしたの?みんなして泣いて...

医師 先ほど皆様にはご報告差し上げたのですが、麻衣さん、あなたには二つの出来事が体内で起きています。

1つ目は、ご懐妊されていること、2つ目は、治療しなければ治らない悪性腫瘍を抱えていること。

治療を優先されれば、命に別状はありません。ただ、おなかの中の子どもは諦めてもらわねばなりません...

この話を聞いて麻衣は開口一番、こう言った。

麻 私、産みます。

その場にいた全員が耳を疑った。

〇〇 麻衣...?!今なんて言った...?

麻 産むって、言ったの。

麻衣の母 でもそうしたら、あなた助からないかもしれないんだよ...?

そんなの、お母さんいやだよ...

麻 お母さん、ごめんね...でも...

〇〇 麻衣...俺の気持ちはわかってると思う。麻衣の気持ちも分かった。けど...俺は、ずっと、麻衣と一緒に生きていくって決めたんだ...それなのに...

麻 ...

泣き始める麻衣。

〇〇 ...ごめんね...でも私は、この子を犠牲にしてまで、生きたいだなんてもう思えない・・・

体で感じるの私の中に、新しい命があって、それが〇〇との子どもだなんて、幸せじゃない。

〇〇 ...

麻衣...それでも俺は、麻衣と一緒に世界的な映画作品を作るってことを諦めたくないし、それを実現するまで生きててもらわないと困る...子どもは、その後でもいいじゃないか。

白 だめなの...私は、この子と一緒に生きてる時間をできるだけ長くしたいの。

〇〇 麻衣...もう一度、よく考えてほしい...俺の気持ちも...俺も考えるから...

麻 うん...今日はもう一人になりたい。みんな、お願いだから帰ってほしい。

〇〇 わかった...

〇〇は、麻衣の親と姉の麻衣と4人で話していた。

どうすべきか議論をしても、何時間話をしても、結局答えは出なかった。

その翌日、その4人で再度麻衣の病室へ訪れた。

そうすると、白石は何かを書きなぐっていた。

ーーーーーーーー脚本だ。

麻衣は言った。

麻 私は、全部諦めない。自分の命も、この子の命も、あなたとの夢も。

だから、みんな、私のために、全部手伝って?一生で一度のお願い。

呆気にとられた4人。誰もが言葉を失った。

ただ、その時の白石は、神々しささえあった。

強く、凛としていて、透き通ったまっすぐさ。

〇〇は、理解した。

〇〇 そうだよね。そうだったよね、ずっとそうだ。君はなんでも出来てしまうんだ。

そんなところに嫉妬したこともあったけど、でもそんな君だったから、僕は君を独り占めしたいって思ったんだ。

〇〇はご両親と姉の麻衣に深々と頭を下げた。

〇〇 麻衣の夢を、叶えてやってください。お力添えいただけますでしょうか?

静かにうなずく3人。

またその翌日仕事終わり、病院へ訪れると、見慣れた顔の人がいた。

七瀬だ。

〇〇 七瀬・・・

七 〇〇・・・

〇〇 どうしてここに?

麻衣の担当だったナースさんが言った

ナ 七瀬ちゃんはね、今日から担当病棟が移ってここに入ってきたのよ~担当は私と一緒にね、あなたの奥さん、麻衣ちゃんよ~

〇〇 あ、そうか、この病院で働いてるって、言ってたね。

七瀬 奥さん・・・

〇〇 あ、そう、俺の奥さん、麻衣。こっち。

七瀬を病室まで連れていく。

〇〇 麻衣~、今日から新しい看護士さんも一緒につくんだって。七瀬さん。

麻 はじめまして、七瀬さん

七 はじめまして。

〇〇 麻衣、七瀬とは小中学校の同級生だったんだ。看護士になったとは聞いてたけど、まさか、麻衣の担当になるとは。

麻 あら。それならでも安心ね。

七 自分も、まさか同級生の奥さんを担当するなんて・・

できることは最大限やりますので、宜しくお願いします。何かあったらなんでも言ってください!

〇〇 じゃあ麻衣、今日はもう遅いから帰るよ。無理して夜更かしとかするなよな!

麻 うん、ありがとう。もう眠いから寝るよ、おやすみ。

〇〇 おやすみ。愛してるよ。

病室を離れ・・・

〇〇 びっくりした。まさか七瀬が担当だなんて。

七 私も思った... せっかく忘れられることができたのに、このタイミングで、しかも死にゆく奥さんを看なきゃいけないだなんて・・・

〇〇 死にゆくだって?

七 あ、違うのごめん、でも、自分で低い確率を選ぶ奥さんだなんて、、、ななだったら絶対にそんな想いをさせなかったのに・・・

〇〇 七瀬、俺のことを心配してくれてるのはわかる。けど、俺はきっと、麻衣のそういうところに心底惚れたんだ。君にはなかった部分だ。

  ただ、とはいえ、これから、みんなで生きれるように、最大限力を貸してほしい。助けてほしい。七瀬の力がどうしても必要だ。

七 うん...もちろん、ななにできることはがんばるよ。

〇〇 ありがとう。宜しくお願いします。

ある日。〇〇は仕事で出身大学である音大に来ていた。

講演会の仕事だ。映画作品制作の第一線で携わり続けている〇〇と、その後輩であり、現在は女優として活躍している生田絵梨花と共同での講演となる。

再会を懐かしむ一方で、直接会った生田はとんでもなく綺麗な美貌とオーラ、そして鍛え上げられた声量と声色、すべてがトップスターになる逸材だった。

〇〇は再会した瞬間、自分が制作する映画の主演を決めた。

〇〇 絵梨花、久しぶり。

生田 あ、〇〇さん~~!お久しぶりです!今日お会いできるって聞いて楽しみにしてました!

〇〇 実はね、この間舞台観に行ってたんだよ、感激したよ。でも、生で会うともう貫禄がトップスターのそれだね。

生田 え、そうだったんですか~言ってくれればお通ししたのに。

〇〇 いやいや、プライベートだったしね。

まぁ、今日はよろしくね。

生田 こちらこそよろしくお願いします!

麻衣の両親と姉の麻衣、その4人の交代制で毎日お見舞いにいくことになっていたが、その日は〇〇の日ではなかった。

再会もあり、そしてこれから作っていきたい映画の話をしたくて、〇〇は生田を飲みに誘った。生田も二つ返事でOK。

生田 映画を作るんですか?いいですね、〇〇さんの映画だったら、絶対に映像はきれいなんだろうな~

〇〇 そこで、ぜひ主演になってもらえないか。

生田 え!私なんかでいいんですか、、?

〇〇 今日再会した時、一目で惚れたよ。絵梨花は確実に近い将来、トップスターになる。僕の映画を踏み台に、世界のスターになってみないか。

生田 そんなそんな... 脚本とかは決まってるんですか?

〇〇 最高の脚本家がいる。そして最高の映像編集は僕。最高のカメラマンもいる。

生田 もうすでに、大ヒット間違いないじゃないですか!

〇〇 そこに、生田絵梨花という最高の女優を主演に据えたい。どうだ?

生田 いやいや最高だなんて...もちろんです。〇〇さんのお願いを断るわけなんかないじゃないですか~でも、最高の脚本家って誰なんですか?

〇〇 僕の、、、最愛の人だよ。

生田 あ、ご結婚されてるんでしたっけ?

〇〇 いや、まだ厳密には婚約中だよ。。。

〇〇はすべて事情を話した。

生田は、凛々しい顔つきで一言だけ言った。

「文字通り、死ぬ気で演じさせていただきます。」

生田は何もかもを理解して、役作りへの熱を一気に最高沸点まで高めてきていた。

そこの火の灯し方が、すでにトップスターの仲間入りをしている証明ともいえた。

そしてその凛々しく強さが溢れ出ている顔は、いつかの誰かの顔に似ていたーーーーーーーーーー。

「私と勝負だなんて、まだまだ早いわね。いつでも勝負は受けるわよ。」

〇〇 麻衣・・・

泣き出す〇〇

生田 え?!大丈夫ですか?!

お酒も回っていたからか、今までこらえ続けてきていた不安や焦り、すべてがあふれ出た。

一目はばからずに涙を流し、背中をさすり続ける生田。

そしてこの時うっすら感じていた。

生田には、麻衣と通じる同じ何かがあるとーーーーーーーー

第5章 #君のもとへ

麻衣の病気が発覚してから、新内やみなみもお見舞いにくるようになり、

早いことに半年が経とうとしていた。麻衣の覚悟からか、がんの進行も遅くなり、そして子どもも順調に育っているという。

麻衣、姉の麻衣、新内、みなみが楽しそうにおしゃべりをしている。

点滴を変えにやってくる七瀬。

もう病気も大丈夫なんじゃないかと思わされるくらいの、麻衣の元気さ。

もうこのまま治るのか?---

ある日、生田から打診があった。

ピロン♪

LINEだ。

生 今度の映画の件で、脚本家の方にお会いしたいのですが、、、お願い...できますか...?

〇〇 勿論。喜んで。

その日の夕方に病院で会うことを約束した。

ガラッ

〇〇 麻衣、サプライズゲストだ。

麻 あら、だれだろう

生 はじめまして!生田絵梨花と申します。

麻 生田さん?!どうして??

〇〇 今度の僕らの映画の主演をやってもらおうと思って。

麻 あら。。。うれしいことね。。

麻衣が泣き出す。

〇〇 どうした?!

麻 ううん、違うの、、一つ一つ形になっていく感じがとてもうれしくて・・・もうこんな感情に出会えないと思ってたから。。

  そして、生田さん、すみません。

お会いできて光栄です。至らない脚本家かもしれませんが、どうぞ宜しくお願い致します。

生 いえ、一目お会いしただけで、とても強いオーラを持たれている方だと感じました。そして、なぜか今日お会いするのが初めてのような気がしません。

麻 あら、奇遇ね。私もよ。

生 私の方こそ、最大限良い演技ができるよう、頑張ります!

麻 宜しくお願いします。

そこから少し他愛もない話をして、〇〇と生田は病室を後にした。

その時白石は、どこか安堵を覚えていた。

とは言えまだ誰も気づいていなかった。この後起きる激変の予兆には・・・

妊娠が発覚してから早7か月。とうとう白石は臨月を迎えていた。

がんが発覚してから早7か月。帝王出産時、同時に切除することが決まっていた。

手術の成功率は70%。比較的高いほうだ。とはいえ、どうなるかはわからない。

〇〇 麻衣、いよいよもうすぐだな、大丈夫か?

白 いつにないくらい体調がいいの。なんでだろう、やっぱり、母親になれる喜びのほうが大きいのかな。

 うう、、、あ、、七瀬さん、、呼んで、、、!

〇〇 !!七瀬!七瀬!至急来てほしい!麻衣の様子が、、!

そこから5分も経たず麻衣は手術室に運ばれていった。

最後の最後まで手を離さず、そして最後に笑顔で微笑みかけてくれた麻衣。本当に強い人だ。

そこから関係者全員に連絡をし、一同が一同に介す。

まずは子どもの摘出。

その後、悪性腫瘍の摘出。

ひたすら長い沈黙。

聞こえるのはバイタルの音のみ。中で何が繰り広げられているのか、

本当に麻衣は助かるのか、藁をもすがる想いで、〇〇はひたすら祈り続けた。

ーーーーどうか、あの強い麻衣が、病気に負けませんように。きっと戦い続けるはず。神様、力を貸してくださいーーーー

7時間後、、、

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

赤子の泣き声とともに、一同は歓声を上げた。

ただ、まだがんの摘出は終わっていない。そのまま手術は継続される。

が、、

そこで、医師は愕然とする。。。

体中に転移している。。。この量は、どうやっても手術では摘出できない。。。

結局、何も取らずに閉じた。

麻衣は、当初よりわかっていた。

激痛が走る。けど脚本家として、この仕事を全うしなければならない。

そして何より、この子を産まずして死ねない。この子と生きる時間をできるだけ長くしたい、生き続けたい、そう思うようになっていた。

が、その我儘ももう長くないことも麻衣はわかっていた。

一同が呼ばれた。

子どもが体内にいたため検査で把握することが難しい部位に、がんが転移している。

手術も行い体力も落ちている状況のなか、もういつまでもつかもわからない。このまま目を覚まさないかもしれない。

覚悟はしていたものの、いざとなると、どうしても耐えられない。

〇〇は、勝手に流れていく涙をそのままに。

〇〇 覚悟はしてました。してきたつもりです。ただ、どうしてこんなにも勝手に涙は流れ、頭を鈍器で殴られたかのような感覚になるんだろう。麻衣。。。。。

一同が泣き始める。

両親、深川、新内、星野、七瀬、全員が全員、泣きじゃくった。

2時間も経ち、誰も一言を発すこともなく、ただただ時間が過ぎていった。

さらに時間が経っても目が覚めない。もしかしたら、このまま目を覚まさない可能性もあるのか...

疲れから眠りについてしまう者もいるなか、〇〇は麻衣の手を強く握りしめながら、ずーっと祈っていた。

翌日14時。

手術終了から12時間後、〇〇は自分の名前を呼ばれ、目を覚ました。

?? 〇〇!〇〇・・・

〇〇 はっ!麻衣!?

麻 おはよう。ずっと寝てたの?こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ・・・

〇〇は慌ててみんな!と呼び、一同が部屋に集まった。

〇〇 良かった。。。夢を見ていた。。また麻衣と、子どもと一緒に、楽しく遊びに行っている夢を・・・

麻 そうなんだ。じゃあそれを実現できるね。退院したら、一緒に3人で遊びに行こうね。

〇〇 当たり前じゃないか!!麻衣がいないとだめだ、麻衣じゃないとだめだ。。。

麻 でもね、私見つけちゃったんだ。〇〇にぴったりの人。

〇〇 え…?どういうこと…?

麻 私がいなくなってもね、〇〇にぴったりな人を見つけたの。

〇〇 何言ってんだよ!!俺には麻衣しかいないんだ!!やめて、お願い、ずっとずっと一緒に生きてくれ。。。

麻 私だってそうしたい。けど、無理なのかもしれない。もう、〇〇も、わかってるはず。

麻 生田さん

生 はい。

麻 まだそんな関係にもないかもしれないけど、私がにはあなたがぴったりだと思うの。〇〇と、この先ずっと一緒に居てもらってもいいかしら?

生 …

生田は一度〇〇を見た後、強い真っ直ぐな目で麻衣を見返した。

突然の声掛けに驚く生田だったが、すぐに状況を理解し、静かにうなずいた。

麻 やっぱり。私はもう、全力で生きた。〇〇、最後に2つだけ、お願いがあるの。

〇〇 …

〇〇は、むせび泣き、答えることができない。

麻 そんなんじゃ、いつまで経っても私には追いつけないわよ?

〇〇はハッとしたかのように顔を上げる。

1つ。私の最初で最後の作品、あなたの手で完成させて、どんな形でもいいから世の中に出して。

私が生きた証を、、残してほしいの。

2つ目。生田さんと、、あの子と、一生幸せに生きて。大切に守り抜いて。

それと、、最後に、ごめんね、と伝えて欲しい。あの子に。

母親としてしてあげられることが結局1つもないままなんて。。悔しいけど、、残された時間で、できることは1つでもしていきたいけど、、、生田さん、代わりにあなたにお任せしてもいいかしら。いきなり不粋なお願いで申し訳ないのだけれど。

生 はい。

生田は、強く、はっきり答えた。

麻 眠いから、少しだけ寝るわ...みんな、今日は集まってくれて本当にありがとう。

私、心から幸せな人生だった。

〇〇 麻衣…!

麻 〇〇、あなたに出会えて良かった。心から愛しています。

あなたに出会えてから、私の人生は世界で1番、幸せだった。

だって、これから世界的に有名になる映画監督と少しでも時間を過ごせたなんて、自慢話じゃない。

子どももできた。本当にありがとう。

〇〇 何を言ってるんだよ!!!俺の方だ、麻衣に出会えて、本当に本当に良かった、、、愛してるよ。。。

最後に、麻衣は少し笑みを浮かべ、眠るように…

三年後

?? まりか!ちょっと、走ると危ないわよー!

〇〇 仕方ないなぁ。まいか、よいしょ!

まりか パパ〜高い高いして〜

〇〇 たかいたかーい!

あれから…

半年ほどなくして、映画を急ピッチで完成させた〇〇。

興行収入は世界で見てもトップランク入りするほど、100億円を超える結果となった。

映画 「君のもとへ。」

主演 生田絵梨花

監督 〇〇

脚本家 (故)白石麻衣

撮影 星野みなみ

と、いうストーリーで脚本を書き上げ、見事に脚本の中の映画通り、

興行収入100億円を超えるヒットを作り出した、

脚本家白石麻衣と映画監督〇〇。勿論、主演は生田絵梨花(白石麻衣役)。

カメラマンもみなみであり、最後に白石が死ぬこと以外に起こったことはすべて事実として作り上げ、当人が演じ切るという、異例の映画作品である。

病気と出産という難題を無事同時に乗り越え、この作品を作り上げることを決め、

実際に作り上げ、そして実現した。

〇〇が生涯愛する白石麻衣という人間は、

人以上に周りを愛し、そして周りのために自分が犠牲になることを避け、本人が持つ強さが、結果全員の幸せを招いた。

今、麻衣と〇〇の間には一人の子どもがいる。

麻衣と同じ女の子だ。

名前を、麻梨花(まりか)といい、白石と生田が持つ、人としての芯、強さを、この子にももってほしいという想いで。

3人は、いくつもの苦難を乗り越え、今も幸せに生きている。

#エピローグ

麻梨花 あ、この映画、いくちゃん出てるねー!

麻衣 そうよ~。私と〇〇で作った初めての映画なんだよ~。

麻梨花 えー!パパもママも出てくるのー!

〇〇 出ては来ないよ、けどね、この物語は二人の物語なんだ。

そう、とても濃密な、一生忘れはしない、天国と地獄を味わった2年間の・・・

fin

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