#50 ダメだった食べ物
血縁者に海外志向高めな人が多かったので、これまで結構色んな国に行ってきた。
家族旅行はもちろん、一人旅や短期留学など、目的は異なれどアジアや欧米、オセアニアを中心に以下の国と地域に行ってきた。
・アメリカ(ハワイ、オーランド、ラスベガス)
・カナダ(バンクーバー、ウィスラー)
・ニュージーランド
・タイ(バンコク、プーケット、チェンマイ、カンチャナブリ)
・韓国
・チェコ(プラハ、ブルノ)
・オーストリア(ウィーン、ザルツブルク)
・イタリア(ローマ、フィレンツェ、ミラノ、ヴェネチア)
海外旅行で1番の楽しみといえば食事だ。
その地域の地理的状況や気候、文化や歴史の影響が如実に現れるのが食文化になると言われているが、食べれば納得。その国の個性が強く出るものである。
忘れられないほど美味しかったものも沢山あるが、その分どうしても自分には合わなかった食べ物もある。
美味しかったものはまた別の機会に話すとして、今日はそのダメだった食べ物を紹介しようと思う。以下がお品書きだ。
・マーマイト(ニュージーランド)
・海老塩そば(アメリカ・ラスベガス)
・なんかのサナギ(タイ・プーケット)
【マーマイト編】
ニュージーランドには高校生の頃に短期留学で行った。
一般家庭へのホームステイで約1カ月、一人で英語に囲まれながら暮らしたのはいい経験だ。否が応でも英語を話さざるを得ないので、日常会話なら困らない程度になった。
私がステイしたお家は、お母さんと5歳くらいの男の子の2人暮らしだった。
平日日中は私が語学学校に通うため、ランチ以外の食事はその男の子と一緒のものをお母さんが提供してくれる。
朝食はだいたいがコーンフレークやフルーツで、たまにトーストとジャムという感じだ。
ある日の朝、お母さんがイタズラっぽい笑みを浮かべながら私に言った。
「ねぇ、マーマイト試してみる?」
初めて聞く名前だったので、私は訳も分からずYESと答えた。するとお母さんは、トーストを小さく切ってそこにマーマイトを塗った。
マーマイトは黒っぽいペーストのようだった。
見た目はミキプルーンとか、チョコスプレッドとか、そういうのに似てる。
口に含んでビックリ。
これ、生ゴミのジャムだ……
味は塩気があり、野菜や魚の残りカスをまとめて数日放置したような匂いがする。
調べると、マーマイトはビール発酵時の沈殿物に野菜などを加えて作るペーストらしい。なるほど、生ゴミのように感じられるワケだな。
渋い顔をする私のリアクションを見て、お母さんは笑いながら言ってくれた。
「ニュージーランドに住んでる人の間でも、好き嫌いが分かれるんだけど、子供の朝食によく食べさせるのよ。健康にいいからね」
見ると、男の子がマーマイトのトーストを何食わぬ顔でムシャムシャと食べている。
日本における納豆やクサヤに近い食べ物なのかもしれない。
語学学校に行った際に他の友人たちに聞いてみると、やはり何人かは私と同じように体験していたらしい。しかし、引率の先生は「何それ?」という反応だったので、私はあのお母さんと同じようなイタズラめいた顔で言った。
「先生、試してくださいよ。この国じゃないと食べれないですよ」
後日、ホームステイ終了後にホテルで2日ほど過ごした際に、先生の皿に使い切りタイプのマーマイトを乗せた。数分後には渋い顔をする先生がおり、私は満面の笑みでそれを見ていた。
【海老塩そば】
名前だけ聞くと普通だと思うだろう。
そう、本来ならそこら辺の中華料理店とかで食べれば普通に美味しいメニューの一つだ。
しかし、それがアメリカ・ラスベガスで食べるとなれば話は別だ。
家族旅行で訪れたラスベガスで過ごす3日目。
夕食に何を食べるか相談の結果、既にアメリカ料理に飽きてしまったことからアジア料理を目指すことになった。
調べた結果、大きなホテル(多分、シーザーズパレス)の中に中華料理屋があるというので、そこへ行くことになった。
店内は金魚の沢山入った水槽が仕切りとなってあちこちに飾られている。ラスベガスらしい、豪華な装飾だが、ある一点において非常に嫌な効果を発揮していた。
臭い。
ちゃんと掃除していないのか、換気されていないのか、金魚の水槽独特の生臭い匂いが店内に充満している。
金魚臭さに目を背けつつ、各々ラーメンやチャーハンを注文する。ややしばらくして、注文した品々が届いて、食べ始める。
「味、無いね……」
と誰かが口火を切る。
そう、味がないのだ。
チャーハンはまだマシだが、それでもかなりの薄味で、ただ白米を炒めただけに近い。
そして最悪だったのが件の海老塩そばだ。
いわゆる塩ラーメンのような感じで、透き通ったスープに海老や野菜が乗っている、見た目だけなら上品で美味しそうだ。
が、まず出汁の味がない。
白湯の中に麺が浮いてるような味で、塩味すら感じられず、かといって卓上の塩を振っても根本的な解決にならない。トッピングの海老は大きいものの、やたらに柔らかくてプリプリした食感もなく、生臭さだけで旨味がない。
まったく箸が進まず、申し訳ないが結局完食には至らなかった。
人種の坩堝であるアメリカ、その中でも世界有数の観光地であるラスベガス、そこで出される中華がこのレベルか……とガッカリした。
いっそ、パンダエクスプレスとかを食べた方がまだ良かったかもしれない。
しかし、翌日に別の中華料理屋でランチを食べたらめちゃくちゃ美味しかったので、単純にあの店が大はずれだっただけのようだ。
【なんかのサナギ】
♪メレンゲってなぁに?♪
と歌いたくなる見出しだろう?
しかし、具体的に何のサナギか分からないから「なんかのサナギ」としか言いようがない。
タイのプーケットへ行った時の話だ。
夕食後に同行者とバングラー通りという繁華街を練り歩き、適当なバーへ入った。
綺麗なお姉さんが相手してくれるタイプのお店で、着席してすぐにお姉さんがついて色々飲みながらコネクトフォーを遊ぶことになった。
激烈にゲームに強いお姉さんに散々負けて、罰ゲームのテキーラを既に3杯ほど飲んでしまったときのことだ。
私の肩をトントンと叩く人がいる。
振り返ると汚れた服装の男が、片手に何かの入ったビニール、もう片方の手にその中身の一部を持って私に差し出している。
まじまじと見てみると、何かの虫のサナギがビニール袋の中にたっぷり入っている。
1つのサイズは小さく、梅干しの種くらいの大きさで、白っぽく丸々としている。
男はどうも試食を勧めているらしい。
こういう未知の食べ物って大好きだし、たとえゲテモノでも初めて食べるものは何でも食べるのが私である。
過去にも色々変なものを食べたことがあるが、それはまた別の機会に話す。
さて、男の手からサナギを1つ受け取ってお姉さんに促されるままに口に入れて噛み締める。
それは例えるなら、砂糖を入れずに泡だて過ぎた生クリームに、溶け切っておらずジャリジャリとした食感の残る正露丸が入ってるような味だった。コクがあるのに複雑な苦さがある。
このままでは飲み込めない!
と思ったが、ありがたいことにお姉さんがテキーラを差し出してくれた。いや、まだゲームには負けてないんだが。おかげで、テキーラのショットで飲み込むことはできた。
ただ、テキーラを飲みすぎたせいで翌日は死ぬほど二日酔いになってしまったが。
……とまぁ、海外に行けば自分に合わない食べ物は色々ある。
しかし、未知の食べ物というのは無限の可能性があり、それを食べることで美味しければそれはそれで嬉しいことだが、例えそれが不味かったとしても私は楽しいのだ。
食べたことのない味を口にすると、脳内のシナプスが爆発的に発達し、この未知の情報を処理しようとハイになる感覚がある。
これが楽しくて仕方ない。
だから、これからも国内・国外問わず知らない食べ物があれば何でも食べる。
それだって、冒険の一つだからな。
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