#8 お蔵入りの理由

今日は日記じゃないです。
今の季節にピッタリな創作怪談です。
お好きな方はどうぞ先へ。


あぁ、最近多いですよね。
恐怖番組といいますか、
オカルト番組といいますか。

心霊写真の鑑定をしたり、
タレントが心霊スポットに行ったり、
いわく付きの品を見たり……そういう番組。
もうそんな季節ですか、早いですね。

……えぇ、彼のことは確かに存じております。
昔の話ですが、彼と一緒に修行もしましたね。

ご存知でしょうが、この辺は仏教の中でも○○宗総本山のお膝元でしてね。
最近は登山ブームの一環であの裏にある山目当てに来られる方も多くなりましたが、ホラ、こういう場所は中々ないでしょう?

総本山の周りを取り囲むように、この地域一帯にお寺が本当に沢山あるんですよ。
みんな同じ宗派です。

今では大半が総本山へのご参拝に来られた方向けの宿坊をしていますね。
で、この辺りの寺に生まれ育って、将来寺を継ぐと決めたら、○○寺で修行するんです。

あぁ、あの学校もそうですね。
総本山の系列なんで、あそこで仏教の勉強する人がほとんどです。総本山で修行しながら、学校に通うっていうのが多いですね。

彼もそうやって修行するお坊さんの一人でした。

よく誤解されるんですがね。
確かに、私たちの仕事は他より「死」に近い仕事だとは思います。

葬式、法事、納骨式……亡くなった方のためにすることは確かに多いです。

でも、だからといってお坊さん全員が霊感があったり心霊に詳しかったりするわけではないんですよ。仏になることを目指して修行はしていますが、私たちもまだ、ただの人ですから。

彼は相当困ってたみたいですね。
えぇ、よく相談は受けてました。

不運が重なったと言うべきか分からないですが。
ずっとお世話になっていた檀家さんが軒並み離れてしまって……まぁ、分かりやすく言うなら「経営が立ち行かなくなる」状態だったんですね。

だから、TVに出られたんでしょうね。
霊感があるってことで。

うーん……正直、彼に霊感があったかと言われると微妙ではありました。
親しくさせていただいてはいましたが、そういう話を聞いたことは一度も無かったので。

でもまぁ、先ほども申し上げたように「死」に近い仕事ではありますから。
誰しも「そういう話」の1つや2つはあるわけです。

……えぇ、私もありますが。
でも、聞いたらガッカリするような話ですよ。
別に怖くも何ともないんです。

彼がそういう怖い番組に出たときですか?
内心、反対ではありました。

でも、だからといって私に何か手助けできるわけではないですから。こちらで請けきれないご依頼を回すくらいですが、正直回すほどの数もないですし。

ごくごく一時的なものならと、総本山でも黙認していたんです。でもご存知のように、どんどん人気が出ていったでしょう?

日常的なお勤めもしないし、地域活動にも参加しないという日が続いて、一度咎められたんですが、結局辞めないままでしたよね。

……いや破門はさすがに無いです。
よほどのことがない限りは。

ところで、あなたはご存知かもしれませんが。

なんで、怖い番組が減ったと思います?

彼が亡くなる直前のことですね。
その頃はもう、そういった番組がすっかり少なくなっていましてね。彼も頑張って色んな番組に掛け合って出てはいましたが、どれも今ひとつ次につながらないようで、悩んでました。

そこで、今はもうやってないですが当時根強く心霊系の取材や特集をやっていたレギュラー番組からオファーがあったみたいなんです。

有名な霊能力者の方も出てましたよね。
彼もそんなスターになれると思ったんでしょう。
出演が決まった時、嬉しそうに連絡してきました。

えぇ、その取材の後です。
彼が亡くなったのは。

彼の話では、何でも古い民家にあったお面がいわく付きだということで、それがどういうモノか検証をする企画だったそうなんです。

何度か他の番組でも取材してたそうなんですが、お蔵入りになることが多かったみたいです。
理由は……あぁ、やはりご存知でしたか。

まぁTV番組がいい加減なのは、彼も承知していました。加工した心霊写真にもっともらしいことを言ったり、心霊スポットでスタッフの仕込んだ仕掛けを見て見ぬふりしたりね。

でも、時々あるんですって。
「本物」が。

要は、そのお面は「本物」だったんです。
企画の内容では「お面と目を合わせると呪われて、命を落とす」という内容でした。
他の番組ではお蔵入りになっているというのも、そういう品として箔がつくからその番組も気合を入れて本放送を目指していたようです。

取材が終わった頃でしょうか。
彼が電話してきたんです。
ひどく狼狽えていて、正直まともに話ができる状態じゃなかったんです。
ワケを聞いたら、こう言うんですよ。

「目が合った」って。

よく聞くと、そのお面はいわゆる能面の小面みたいな、鬼の顔とかそういうものではなく普通の女性の顔を模ったものらしいんです。

でも、私たちがイメージするような顔らしい顔というよりも、もっと歪で、お世辞にも綺麗なものではなかったそうです。
幼い子供が拙い手で粘土をこねて作ったような、目と鼻と口は分かる程度のものだったと。

ぽっかり穴が空いているだけの目の奥。
当たり前ですが、その向こうには何もないはずなのに「目が合った」と言うんです。

終始、ワケの分からない事ばかり言ってました。

「何も見たくない」とか
「みんな死ぬ」とか
「オキビサマダ(?)」とか

私も気味が悪くなりましてね。
電話口で彼を宥めて、今からでもご祈祷しなさいと言ったんです。私も後から行って、お祓いをしてあげるからと伝えて、彼の寺に行く準備をしました。

着いたのはそれから20分後です。

……はい、そうです。
私が第一発見者でした。

……様子まで話せと?
うーん、いや、そうですね。

本堂の真ん中で倒れてました。
お線香も焚かれて、蝋燭もついて。
本当にご祈祷していたんだと思います。

最初、分からなかったんです。
彼の顔……から、両目が無くなってて。

あの……話さなきゃダメですか?
いや、ごめんなさい、そうですよね。
ちゃんと話します。

目がくり抜かれてるような状態でした。
それで、首元に手をやっているような体勢で、まるで自分で自分の首を絞めてるような。
でも、それ以外に目立った外傷も血も無かったんです。

すぐに警察と救急を呼んだんですが。
やはり……手遅れで。

後から聞いたら、あのお面の取材をした他の番組でも、人が亡くなっていたらしいんです。
カメラマン、AD、編集マン……いずれもお面と「目が合った」と言っていたと聞きます。
だからお蔵入りになってたんですね。

それからですよ。
今や心霊系の番組なんて数えるくらいしかないですよね。あっても、まぁ「無理はしない」ってことが多い。

まぁ、やっぱりね。
「本物」って、いつ出会うか分かりませんから。

……こんなところで勘弁してもらえませんか?
いいですか?ありがとうございます。

ところで、あなた。
この後ご予定はありますか?

……いえ、お祓い受けていかれませんか?

霊感がないとは言え、やはりどうしても「死」に近い仕事してると、ね。
たまに気になることがあるので。

あはは、あまり重く受け止めないでください。
お代も結構ですから。

・8月プラチナイト特番
『激コワッ!夏の戦慄スペシャル』内
「恐怖の真相 伝説の霊能者・真庵和尚 呪われた仮面と死の秘密」コーナー向け取材書き起こし資料より。

※個人情報の特定につながる箇所は伏せてます。


件名:放送禁止措置決定の通告

本文:
お疲れ様です。

8月プラチナイト特番
『激コワッ!夏の戦慄スペシャル』は
制作スタッフの体調不良及び事故により、
放送中止を決定致しました。

つきましては、
該当放送枠に3月放送の『特選!世界グルメ』の再放送を予定しておりますので、カンパケの使用許諾をお願いします。


※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ございません。

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