サンドイッチをつくる女

 会社から帰宅した23時、キッチンに立つのは楽しい。155センチの身長とさほど変わらない白い箱から、凍らせた食パンを2枚。マヨネーズ、マスタード、ハインツのケチャップ、卵、あとウィンナー3本。おまけにハムも1枚。パントリーから、と言いたいところだけど、ただのバスケットから丸々とした玉ねぎ。
 はじめに玉ねぎを切ったのは失敗だった。涙涙涙。あわててキッチンペーパーで拭う――なしなし! 中断! 24時間とれないと謳う、つけまつげを外して、洗面所でクレンジング。すっきり、鉄仮面を外した私はさっきよりももっと機嫌が良い。
 仕切り直し。洗面所にいる間に、パンの解凍は進み、すんなりと半分に切れた。2つにわかれた元々1つをオーブントースターで3分。換気扇のスイッチを入れて、手のひらサイズの小さなフライパンを温める。縦に切ったウィンナーと、ハムを投入。肉の焼ける良い香りと音。こんがりと色づいたら一旦器に避難。予熱で玉ねぎに、ほんの少し火を通す。塩と胡椒少々。これで材料は揃った。いや、チーズがない。しまった。ふとダイニングテーブルに目を向けると、さけるチーズ……うん、これで良い。調度良いタイミングでトースターがベルを鳴らす。ああ、少し焦げた。
 片割れにマヨネーズを薄く塗る。極々薄くだ。その上に半分にさいた、さけるチーズ2/3本、しんなり玉ねぎ。ここでもう一度、黒胡椒を挽く。半分に切ったハムを、互い違いになるように重ねて、その上からウィンナーを6、いや5本。マスタード、ケチャップ、しまいに蓋。ぎゅーっと抑える。これがコツ。下の方で、チーズがとろけだしているのが垣間見えて思わずほくそ笑む。絶対美味しいに決まってる! 余ったウィンナーを口に投げ入れた。そうそうこの味!
 食パンを再びトースターに見送って、お次は卵。ステンレスのボールに割り入れて、牛乳を少々。たしか、と思い、マヨネーズも。たしかふわふわになったはず。何かで読んだ。塩、黒胡椒。さっき余らせた玉ねぎも投入。1/3本残ったさけるチーズも。私ったら天才。フライパンをよくよく温め、油を引く。具沢山でもったりとした卵液を流し込む。ジュッという音は料理の音だ。手早く長方形のオムレツを作る。我ながらベストなタイミングだ。ベルが鳴り、爪の先でまな板の上にパンを乗せる。マヨネーズを薄く塗る。そしてすぐに卵。塩と胡椒。たっぷり目にケチャップをかけたら、蓋。たまごサンドの完成。良いじゃん良いじゃん。
1つずつラップでくるんで、タッパーに。IKEAのタッパーは優秀だ。まるで測ったかのようにぴったりだ。
 ふと。そういえば。冷蔵庫を開ける。きゅうりがある。あまりの野菜っけのなさに誰に対してなのか罪悪感が覚えていたのだ。ベンツのエンブレムのように、三方皮を向いてから縦に4枚おろし。くったりしたたまごサンドを再びまな板の上に戻して、ケチャップがかかっていない方――底蓋をそっと開ける。きゅうりを並べ、再度マヨネーズ。これは遠慮しないで良い。蓋をしなおして、もう一度ぎゅー。これで良し。
 パントリーから、と言いたいところだけど、吊り戸棚からインスタントのコーンスープを忘れずに。これがあるとないとではランチのクオリティは大違い。今日は月曜日。今週はまだまだ長い。でもサンドイッチをつくった。私はちゃんと生きている。さあお風呂に入ろう。

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