夏野前日

1988年生まれ|東京出身・在住

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梅雨過ぎ 夏 胞衣を売られ 寡婦と卵 つゆすき なつ えなをうられ かふとらん

    • サンドイッチをつくる女

       会社から帰宅した23時、キッチンに立つのは楽しい。155センチの身長とさほど変わらない白い箱から、凍らせた食パンを2枚。マヨネーズ、マスタード、ハインツのケチャップ、卵、あとウィンナー3本。おまけにハムも1枚。パントリーから、と言いたいところだけど、ただのバスケットから丸々とした玉ねぎ。  はじめに玉ねぎを切ったのは失敗だった。涙涙涙。あわててキッチンペーパーで拭う――なしなし! 中断! 24時間とれないと謳う、つけまつげを外して、洗面所でクレンジング。すっきり、鉄仮面を外

      • 「静謐」について

        せいひつ。静かで穏やかなこと、世の中が平和に治まっていること、を意味するこの言葉は、私の好きな日本語のひとつ。漢字の佇まいや音の響きさえも意味を正しく説明しているように思えるし、日本的な奥ゆかしさを感じさせられる。 言葉を知ったのはたしか中学生や高校生の頃で、当時小説の真似事が趣味だった私は、覚えたての単語を繰り返す子供みたいに、好んでこの言葉を作中で使っていた。理想的な少女を表す表現として「静謐と安寧を友とする」なんて具合に。小説は今はほとんど書かなくなってしまった。ただ

        • 飲んでいる時の話について

          飲んでいる席で聞く話の中には、時に「???」となるものがある。別に相手にとって、私が理解している/していないはさしたる問題ではないだろう。ただその話がしたいだけという欲求の方が大きい。だから私の理解度を逐一確かめることはしないし、私自身も酔っ払っているしで、わざわざ突っ込んだりはしない。そういう時の質問は、話の腰を折る行為、と認識されがちだ。 この前もそんなことがあった。その人は、私の知らない時代の自分の昔話を、少々文学的な表現で饒舌に語っていた(私も失礼な人間ではあるが、

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        • 昔話
          6本
        • 2本
        • 1本

        記事

          『愛情生活』

          知人からアラーキーこと荒木経惟さんの奥さん・陽子さんが書いたエッセイ『愛情生活』を貰う。他人なのに、あるいは他人だから許されたり、許されなかったりする夫婦の関係性に面白さと、少々の羨ましさを感じる。内容は濃密で赤裸々だけど、文章はさくさくと読めて軽快(気になるひとは貸すので声かけてください)。   ところで、ふたりが長年暮らした豪徳寺のマンションはわたしの実家の目と鼻の先にある。豪徳寺の周辺は一軒家の低層建築が多く、そんな中でそのマンションは頭一つ飛び出ていて、飛び出た外壁全

          『愛情生活』

          皮を剥くということ

          9月の料理教室は栗ご飯、さんまの塩焼き、里芋の煮物、きのこと豆腐のお吸い物、デザートにりんご、と秋味満載。 春夏秋冬それぞれに美味しさがあるけれど、特別美味しく感じられるのは「食欲の秋」という言葉に踊らされているからでしょうか。   栗ご飯をつくるにあたり栗の皮は教室のみんなで分担して剥きました。が、復習するときはひとりですべての栗皮(およそ15個)を剥かないといけません。そんな当たり前の現実にクラリとする。鬼皮は硬いし、渋皮は剥きづらいし、達成感は正直2、3個で得られるから

          皮を剥くということ