プロ野球と観る将、松木安太郎の必要性

日本シリーズが面白い。
前年最下位の両チームがここまで3試合、がっぷり四つの堂々たる戦いぶりで、ドラゴンズファンの私でさえも目が離せないすごいシリーズになっている。

なのにどうだろう。
この盛り上がって無さは。
スポーツ紙などを見るに野球と言えば新庄ビッグボスか大谷翔平選手の話題ばかり。
北海道民で大谷翔平選手に今年一年生きる希望を頂いた私からしても違和感を感じざるを得ない。
周りにも日本シリーズから目が離せないと言っているは私だけで、大半が観ていないどころか開催されていることすら知らない、若い世代からすると、そもそもプロ野球の日本シリーズがどういったものかすら理解していないのである。
30年近く野球を観ている私であるが、正直確信している。
日本プロ野球はオワコンである。
少なくとも、オワコンの沼に腰まで浸かっている。
そしてそれを推進しているのは
野球が日本で最強最大のエンターテインメントであり、国民全体がルールをある程度理解していて各球団のスター選手は国民の大半が顔と名前が一致するくらいの知名度がある、という、原始時代の感覚から抜け出せていない多くのプロ野球OBであると思っている。

曰く、プロ野球人気の低迷は
地上波での放送が減ったからだ。
スター選手が気軽にメジャー流出するからだ。
などと言ってはばからないが、
地上波で視聴率を獲得出来ないと判断されるようなコンテンツになってしまったこと。(もっとも地上波のテレビ番組すら"オワコン化"しているが。)
プロ野球の球団及び球界自体にスター選手を留めておける魅力を作れない事以前に大谷選手やダルビッシュ投手、田中将大投手など一部を除き、そもそも”流出した”と言ってる選手がそれほど一般的に浸透しているわけではないですよ。
という事を理解していない。

また、松坂投手以降のダルビッシュ投手、田中将大投手、大谷選手など野球ファンでなくとも誰もが知っている選手のほとんどは高校野球から知られており、プロ野球に入った以降に一般の知名度が上がったわけではない。
つまり、高校野球で名を上げる事ができなかった選手は大学、社会人、プロの世界で血のにじむ様な努力をして素晴らしい成績を残したとしても一般に認知されづらいということである。

選手を批判しているわけでは決して無い。
今の日本プロ野球は高校野球ほどスターを生み出すようなコンテンツではない、ということである。

プロ野球OBがガンガンyoutubeを始める時代である。

が、内容はほとんど似たり寄ったりで、
一人か、その他のゲストのOBと昔話、最近のプレーの振り返り、最近の注目選手の発表、苦言、大谷選手への便乗、
実はあの時こうだったなどの裏話。
私のようなプロ野球ファンからしたら溜飲ものであり大変ありがたい。
良いコンテンツが溢れる時代になったものだと大変感謝している次第である。
そう。
プロ野球ファンにとっては、である。
前提として複雑極まりない、野球のルール、プロ野球の仕組み、育成契約を含むと1000人近いプロ野球の選手コーチをある程度でも認知しているファンにとってのみ、である。
そのプロ野球ファンがもう周りにいないのである。
喋ってる内容、登場人物はおろか喋ってる本人でさえ知らない人間にとっては全く意味のないコンテンツである。

知らないおじさんが知らないおじさんと知らない時代の知らない人の話で盛り上がっているyoutube。
これはもう地獄である。
エンターテインメントを選択できる時代でよかった。


野球は奥深さと分かりやすさ、華やかさが全て両立する大変素晴らしいエンターテインメントだと思っている。
当然プロ野球を経験してきたOBの方々はそれを完全に理解している。
病的に野球の魅力に取り憑かれたからこそ、その世界でメシを食ってきた方達なのだ。
が、いかんせん、それが前提にありすぎて、それを知らない人たちに、野球自体の持つ魅力を伝えようという気がまったく感じられないのである。

観る将という言葉がある。
私はあまり好きでは無い。
将棋を注目する人が増えること自体は文化の継続のために大変喜ばしいことで手放しで感謝しているが、定着するように思えないからだ。

藤井四冠のおかげで将棋に少しでも興味を持った人がこの先何年も、
おやつや食事のためだけに観戦を続けるとはどうしても思えない。

が、将棋という競技の特性上、いきなり、皆さんルールを覚えましょう!そして自分でも指しましょう!この手はこうでああで、すごいんです!とやったところで離脱を早めるだけである。
幸いにして、将棋という地味な競技で何十年間も不遇をかこってきた棋士の先生の方々はそんなことは百も承知である。
ルールを分からない人を前提として、専門用語をなるったけ排除した超控えめな解説やエピソードトークを展開するために、大変苦心なさっているのが伝わってくる。
まだ早い、まだ安全な場所から沼の淵を覗いてるだけだ、まだ掴みにかかるのは早いんだ、と自らに言い聞かしているのが聞こえてくる様である。
さながら、新興宗教の布教活動かマルチ商法の勧誘の初手のように、誰もがわかる世間話、一般論などをニコニコ笑いながら、ひきずり混むタイミングを冷静に見極めている段階である。

私は松木安太郎氏のサッカー解説が長年好きではなかった。
野球ほどの歴はないものの、Jリーグ設立当初からサッカーを断続的に観てきた私のとってはあまりにぬるいのである。
戦術的な話であったり、選手のマッチアップの相性、オフザボールの動きについてじっくりご考察を賜りたい私にとっては、
「気合入った顔してますよー!」
「行けー!惜しい!」
「前を向いていきましょう!」
と言った内容は解説とは思えなかった。
が、今、プロ野球の惨状を見て振り返ると松木安太郎氏がこのような解説をする場合の多くは、地上波のゴールデンタイム、日本代表戦だったのである。

普段サッカーを観ない大多数の層の方に次の試合を観てもらうための解説とはなにか、を考えた時に松木安太郎氏の快活とした、専門用語や専門知識をひけらかす事のない、わかりやすい口調はこれで正しいのだと感じ始め、情けないことにその目線で観て、初めて、松木安太郎氏が選手の名前を言う時には必ずその選手の背番号を付け加える事に気付いたのである。
視聴者の全員が名前を言うだけで、顔、ポジションが頭に入ってる訳では無い、という事を氏は理解しているのである。

Jリーグができる前の不遇の時代を過ごし、礎を築き、一度も、誰からも日本が世界で一番凄いと言われた事も思ったことも無いサッカー解説者は今も尚、後輩のために、後進がスターになるために、スターであり続けるために、時に自らが批判にさらされながら、わかりやすい解説を心がけているのである。
彼は我々の時代の方が凄かった、などとは決して言わない。

イコール、スターだった頃の思い出を引きずり、今尚その幻想から抜け出せず、我々の時代はこうだった。今の子たちはこうだから。今の時代にやったら大変な事になりますよ。と笑いながら自虐風自慢をする昔スターだった人たちは今の選手たちを再びスターにしてあげたい、という気持ちがあるのだろうか、と疑問を感じるのである。

と、文句だけ一方的に言って終わるのは好きでない。
私は寂しいのである。
今、日本プロ野球の決勝戦とも言える、日本シリーズで、ヤクルトスワローズとオリックスバファローズがこんなにも素晴らしい戦いを繰り広げているのにも関わらず、あまりにも注目度が低いことが。
3試合すべてで解説をされてる松坂大輔氏も慣れてないせいかトーク自体は随所に辿々しさは見せつつも本当にわかりやすく、好感の持てる解説をしようと心がけてくれているにも関わらず、である。

野球のルールや選手をあまり知らなくとも、
例えば、ヤクルト村上選手(55番)のゲームにのめり込んだ鬼気迫る表情や、オリックス宗選手(6番)のなんでそんな体勢でそんな強い球投げれるんだ!身体能力どうなってんだよ!とか普段野球を観ない層にもわかりやく何か訴えてくる箇所があるように思えるのである。

腐ってもせっかくの地上波である。
なんとか、普段野球を観ることのない野球のルールや選手に詳しくない層の方にも、こんな見方をして観戦すれば、来年からもまた誰かを、どこかを応援するために、観てみようかな、と思ってくれる人を一人でも多く獲得できるチャンスがあるのではないかと思うのである。

一年の総決算である日本シリーズが、しかもこんな素晴らしいシリーズが盛り上がらないのであれば、プロ野球は何を目的に行われているのか、その存在意義すら怪しくなってしまうのではないかと思えてならないのである。

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