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2024年夏。読書感想文。

きみは覚えているだろうか。子供だったあのころ、突き抜けるような空の下で友達と走り回った夏休みを。

きみは覚えているだろうか。子供だったあのころ、夏休みの最終日に読書感想文を残して頭を抱えていた自分を。


大人になった私は、この8月31日に向けて、あのころのリベンジとして読書感想文に挑んでいた。ただし、今回の読書感想文は本が決められている。横溝正史『獄門島』に加え、アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』。この、ミステリの中でも名作と呼ばれる2作品が、私の前に立ちはだかっていた。

これは、一人の大人が読書を通して過去と向き合う過程の記録である。

嘘ですごめんなさい

※ネタバレあります


■獄門島

2013年に『犬神家の一族』を読んで以来2作目、11年ぶりの横溝正史。一言で言うと、とてもよくできている。特に、ミステリ的にも物語的にも、着地の見事さがとても好印象だった。
個々のトリックに関して事細かに言及するつもりはないし、実のところそこまでのこだわりはない。私の興味はむしろ、物語として見たときになぜその人がそれをしなければならなかったのか、といういわゆるホワイダニットにある。以前はそうでもなかったかもしれないけど、まあ私の興味の変遷は置いといて。
本書では、戦争とそれによる家の跡継ぎ問題、という時代背景が色濃くあって、まずこの構造がすっと頭に入ってきた。直系男子>直系女子(の婿)>傍系男子、という一般的な跡継ぎの優先度に対して、直系男子は死亡確定、傍系男子は復員予定、そして狂い咲きの直系女子たち、という状況。戦争の間に後見人として直系女子たちを見ていて「これが跡継ぎになったら……」という和尚の気持ち。ご隠居の意向も含めて考えると、「自分がそうしなければならぬ」となったことにも納得がいく。
一方で、それぞれの殺人に仕掛けがなされていたことについては、読み進めている間は引っかかっていた。複数犯による連続殺人というだけでもそれなりに複雑で見破られにくいのに、加えてトリックを用いる必要性や、そのアイデアがどこから出てきたのかという点が気になっていた。ただ、これについてもご隠居というキャラクターを使って、多少強引ではあるものの理解できる範疇に収まっていたと感じた。
これらふたつ、話の構造とキャラクターによって私の興味のある部分に対して良い着地だったので、なかなか面白かった。ラストの復員詐欺のくだりについては、好みなので意見が分かれるところかなとは思うが、私は話が締まってよかったんではないかと感じている。人を殺して満足じゃ、と言っている犯人で終わるより、わしは何のために、と泡を吹いて倒れる犯人で終わる方が面白いね。

■そして誰もいなくなった

いつ読んだか忘れてしまったけど、再読。既読のクリスティ作品は、他に『三幕の殺人』『オリエント急行の殺人』『春にして君を離れ』で計4作。のはず。
※『獄門島』とは違い、ライブ形式でお送りいたします。
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・さて読むかと本を開いたところで巻頭のクリスティ孫による「ばあちゃんすごいんやで」ポエムによる先制パンチを浴び、そういえばこんなんあったなと初読の思い出が蘇る。
・開幕の登場人物全部紹介で脳のキャパシティを越える。人間は3以上はたくさんとしか認識できないので、順番に登場させてほしい。
・U・N・オーエン……。昔ニコニコ動画であったような……?
・人間の数、まあ読んでれば気にならなくなってきた。
・クローズドサークルで事件が起き、そのうち何人かが手を組んで犯人を探し始める。あまりにも定番だが、この定番はこの本から来ているのである。つまりこの本を読んでこれが定番だと思うのはおかしいのである。おかしなことが起こっていて、とてもおもしろい。
・A→B→C→……っていうのはないだろうな。初対面だし(オチを完全に忘れた人間の思考)
・と思ったら関わりありそうな記述が出てきた。おや?
・最後の人は最初の人の仕掛けた罠にかかって死ぬ流れか……?(思い出してきたような気がする)
・全体の仕掛け人が謎だな……。いや、こんだけの人数の犯罪歴を入手できるの判事のおっさんしかおらんやろ。
・おしまい。お気持ちを瓶に詰めて海に流すのも、もしかしてこの本から来てる……?
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全然思い出せてなくて笑った。あー面白かった。あとがきの、「一気読みできる長さ」は確かに共感できるかも。複雑性が一定のラインを超えると読む方としてはしんどくなってくる。ミステリじゃなければ、長くても一気読みできるものはあるんだけど。

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