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想いを留める役割を忘れない。(落選歌でも宝物)

 師匠の凄い歌ばかりでは疲れてしまうかもしれませんので、凡人である私の短歌でお茶を濁すこともお許しいただきたいと思います。

たまたま見かけたその年のNHK全国短歌大会のお題が「平」だったので、少し前に作ってあった短歌を応募してみました。選ばれるとか選ばれないとか、そのようなレベルのチャレンジではなくて、ただ入選歌集が欲しかったので適当な歌を選んで出しました。

ちなみに一応出す前に、師匠には見て頂かないと・・・と思い相談しておりまして、「たぶん選には選ばれないと思いますが、及第点の歌です。」と言っていただきました。
そしてその予言のとおり、当たり前ですが落選歌となりました。

題の「平」の字を見たときに、なぜか真っ先に高張り提灯の絵が浮かびました。
よくできた象形文字のように、私にはそれから平の時が高張り提灯にしか見えなくなりました。
ちょうどその頃に、友人と高円寺の阿波踊りの話をしていたので、映像が頭に残っていたのかもしれません。
高張り提灯を入れることは決めていたのですが、師匠の真似をして説明っぽくしてみようと思いまして、おこがましくも頭をひねってみました。
制限が取り払われて、多くの観客と多くの踊り手が無数の灯りの中で祭を謳歌している同じ空のしたで、今このときも爆撃に怯えている民衆がいることの皮肉さを詠えないかと考えました。

賑やかに灯りを掲げて踊る ← → 灯りも点すことができず戦禍の中でじっとしている

平和の平の字に似た高張り提灯 ← → 何もかもが破壊され平原となった街並み

これらの対比を軸に願って踊ることしかできないもどかしさを表現しようと推敲を重ねました。初めは「提灯」を入れようと思っていたのですが、
「高張り」はほぼ「提灯」にしか繋がらないので割愛することにしました。※師匠の「選ばれない」根拠はこの点にあるそうです。ほんの数秒で判断される選歌において「高張り」だけでは解りづらいだろうというご指摘でした。
それでも私の中では選よりも詠いたいテーマを詠うことの方が大事なので、提灯は省いたままで構成することに決めました。そもそもミルクさんを師匠と仰いでいるのは、ただただ己の心に残り続ける短歌を作りたいという一心からのことですから、選ばれるとか選ばれないとかよりも、師匠に褒めてもらえるのか、認めてもらえるのかの方か私にとっては何倍も大事です。
無事に及第点と言って頂いたので、この短歌にはとても満足しています。

ミルクさんはおっしゃいます。
短歌にもし想いを留める版画のような役割があるのならば、その版は丁寧に彫られなければなりません。丁寧に彫られて刷り上がった版画が、鑑賞という行為によって評されるならば、それは数秒でできる芸当ではありません。緻密に彫られたものであればあるほど、ある程度の時間がなければ、その表現の神髄に辿り着くことはできないでしょう。
今の短歌を取り巻く環境は、すべてがその逆で間違った方向へ突き進んでいます。
誰も間違いを指摘せず、方向転換もせず、自浄も働かず、消滅への坂を下り続けているのです。時間を掛けて鑑賞し、時間を掛けて読み解いていく、当たり前のことですがその事を蔑ろにしては、読むことも、また詠むこともままならないでしょう。

・平の字を掲げて踊る高張りの彼方の暗き戦禍を憂い

ミルクさん 短歌のリズムで  https://rhythm57577.blog.shinobi.jp/