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記憶の中の鮮やかさを共有する(落選歌でも宝物)

落選歌の記事が少し読まれていて驚きました。
私の記事のアクセスなど一日に片手でおつりがくる程しかないはずなのに、なぜかその何倍ものビューがあって、「まぁ記事をコピペして学習するための巡回ロボットの機械的なアクセスだろう」くらいに思っていました。
けれども選者や選歌の物差しとして落選歌ほど明確なものはないのではないかとも感じていました。「選ばれる」「選ばれない」の線引きがどのようにされているのか全く明確な指針のない中では、世に出ることのない落選歌の方が逆説的に明確な指針になるとも思ったわけです。

落選歌といえどもある程度時間をかけて推敲して創作したものには、誰しも少しの愛着があると思います。短歌の世界の何たるかも知らない未熟で愚かな選者に合わせるのは本当に疲れますし、ミルクさんに至っては
「選者の嗜好や気分に向けてわざわざ歌をデチューンしなければならないなんて滑稽の極み」とまでおっしゃっています。
何でも比較することが大好きな現代人ですが、こと短歌について言えば
(入選歌)と(落選歌)を並べて比較する機会がなかなかありません。
とにかく「何をもって良いとする」根拠が全く不明確なものですから、手当たり次第に並べて比較するしか手段はないのかもしれません。

本当に学ぶべきことはどのような事なのか、その事を考える上で一首の読みにどれだけ深く食い込めるのか、選を託された人はじっくりと取り組まなければならないでしょう。

歌壇の対極にあるミルクさんを傚って作っている私の落選短歌シリーズをもう少し挙げていきたいと思います。

・丁寧に解体されて針千本 ゴンドラは嘘を閉じ込めたまま

 (NHK全国短歌大会 題詠 千)

「嘘ついたら・・・」の針千本という耳馴染みの強い言葉を使っていたことや、上句下句で音が途切れてしまうのでダメだったのだろうと思いますが、自分は結構気に入っています。
架空の光景を作ったように思われるのですが、実景です。あまりにも解体部材が丁寧に積み上げられていくので調べてみると、海外へ運ばれてまた組み立てられるのだそうです。
現実世界ではなかなか見ることが叶わない“針千本”が具現化したような光景にしばし心が奪われたものです。

この歌はミルクさんのアドバイスをもとに、ちょっと攻めた構成になっています。

針千本と嘘で作ったビギナーの歌のように作って、少し考えなければ本意に辿りつけない形にしています。当然ながらコンテストなどでは一首が数秒で判断されるため、このような歌はどこにも引っかかることはないと思われます。
 普通は鉄骨造が解体される時はぐしゃぐしゃでバラバラに解体され、無雑作に積み上げられると思います。(基本はこのイメージでしょう)だから敢えて”丁寧に”から入っています。丁寧に解体される理由まで思慮が及ばなければ、この歌は全く理解できません。
”閉じ込めたまま”の先に何処へ続くのか、そこまで考えることができて初めて歌の持つ意味に近づけるのです。
無意識に(針千本)→(無雑作に解体された鉄骨の山)と思考してしまえば、もう”丁寧に”まで戻って意味を辿ることなどしないでしょう。
読んだ人の中にはこの歌が観覧車の歌だと解らなかったという人もいました。(笑)
まぁ、作っているときからそんなことは折り込み済みです。

解体された鉄骨がまるで針千本のような状態になる構造物で、ゴンドラがあるものといえば観覧車かジェットコースターくらいのものですが、閉じ込めた・・でゴンドラはクローズドだと解るので観覧車のことだと解ります。
それを踏まえた上での“丁寧に”が理解できれば、針千本からイメージされる景色ががらりと変わります。

現実世界ではまず「針千本」なんて景色には遭遇しません。
絵本や創作物にさえ、登場することは珍しいでしょう。つまりは頭の中で景色を想像することしかできません。想像のきっかけをつくりその先までの道程をきちんと照らすことが作歌の中で求められていると思います。
爪楊枝や割り箸をぶちまけても針千本のような光景は演出できますが、いかにもという感じは否めず、深い考察には及びません。

鮮やかな記憶を読者の頭の中に呼び起こす仕掛けの大切さを大切にすれば、数回読むうちにあぶりだしのように実景が浮かんでくる歌が詠めるのだと思います。

とは言うものの、
短歌を作っている人なら、入選したい、選ばれたいと思うのが正直な所でしょう。
私やミルクさんとは真逆の、自分自身に張り付いた、自分自身や経験した人しか解らない、
「自分勝手」な歌を作ることが入選への近道です。
まずは選ばれやすいジャンルの歌を作って投稿することをお勧めします。

・出産の歌
・育児の歌
・父親になる歌
・リハビリの歌
・故人の歌

これらは最も選者に選ばれやすいものだと思います。
現在の歌壇はこれらの歌が延々とレーンを廻る回転寿司店のようなものです。
奇しくも回転寿司店のメニューはもはや何でもありの様相を呈しています。
目指すべきものを見失っては、本末転倒となることの現れかもしれませんね。

ミルクさん 短歌のリズムで  https://rhythm57577.blog.shinobi.jp/