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パフォーマンスビルダー三浦の視点 #5~新体操:だるま×羽のパフォーマンス

こんにちは、パフォーマンスビルダーの三浦千紗子です。
今日は、新体操のお話です。
どんな競技にもそれぞれ魅力がありますが、クライミングと並んで私の中では印象深い競技の一つです。なぜなら、難しいから笑

「三浦、新体操の担当して~」
「?!?!?!?!」
15年ほど前でしょうか。当時勤めていた会社での上司との会話です。
会社に新体操の指導者の先生からサポートの依頼があり私が担当することになったのですが、その話を聞いた時に目をパチクリさせてしまいました。
なぜなら…
私自身は体硬いし、まともに新体操を見たことないし、なんか難しそうだし~。
今でこそ、新しいこととの出会いをポジティブに受け入れられるようになりましたが、まだまだ駆け出し同然で未知なるものとの出会いを楽しむ余裕がなかった頃のお話です。
私の役割は「怪我の予防とパフォーマンスの構築」で、そのために必要な体づくりを行いますが、
例えば

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こんなパフォーマンスをする方々の何を、どうトレーニングすれば良いというのでしょう?????笑
ということで私の頭の中は???だらけでスタートしました。
あれから早15年、本当にあっという間でしたが、新体操の先生やコーチ、選手の皆さんとの活動をパフォーマンスビルダーの視点からまとめてみたいと思います。


1、 美しさの源、足を守る

まず、新体操の場合一番念頭にあることは「足を守る」ことです。
足といっても、主に足首のことで、「捻挫癖をつけない」こと。
新体操に限らずクラシックバレエも同様ですが、パフォーマーたちは演
技中につま先立ちのような状態でいることが多く、その足首を支点とし、バランスを取ったり、回転したり、ジャンプしたりと様々な技を繰り広げていきます。
その土台となる足首の強度が落ちてしまうと、新体操のパフォーマンスを恐ろしく低下させることになります。(文書内「2、技に対応する体づくり:だるま落とし」参照)
捻挫は、骨と骨をつなぐ靭帯と言われる、筋(すじ)のようなものが伸びた状態を指しますが、この伸びた靭帯は手術をしない限り元に戻ることはありません。そのため一度捻挫をしてしまったら、足首を支える周囲の筋肉達を働かせて繰り返し捻挫をしないようにするのですが、この捻挫がとても厄介です。

捻挫を繰り返せば繰り返すほど、靭帯は伸びっぱなしのゴムのようになり、骨=足首を支える機能はどんどん無くなってしまうと言っても過言ではありません。簡単に捻挫をしやすくなる。それをどこかでかばって、また新たな怪我が起きる。

「体のトリセツ #5 ~怪我が起きる仕組み<その②>とだるま落としの関係」でも書きましたが、足首はだるま落としでいうところの最も土台となる重要な部分です。全てのパフォーマンスの土台になる足首を守ること、それが重要なミッションの一つです。


特に、新体操の場合はまずシューズによる固定がない状態で、様々な技が片足で行われることが多い。さらに、踵を上げた、つま先立ちの状態で行われるため、その重要度がより高いと考えています。
また新体操は、たくさんの「ジャンプ」を求められる競技です。その際に、足首はジャンプの土台となる場所で、跳び箱を跳ぶ際のロイター板のような機能も果たしています。そのため足首に捻挫癖がつき、常にぐらぐらしているということは、ロイター板のようなはずむ力を発揮できないということなので、その観点からもパフォーマンス低下に結びつくことが容易に想像できますね。


2、 技に対応する体づくり:だるま落とし

新体操は、驚くほど多くの技を求められます。
様々な技が可能となる体づくりとは~~。
私が大切にしているのはだるま落としのイメージです。

別途「体のトリセツ #5 ~怪我が起きる仕組み<その②>とだるま落とし」でも記載しましたが、あのだるま落としがきれいに並んでいる状態をつくることで、新体操で求められる多種多様な技を繰り出せるようになるのです。
「だるまがきれいに配列されている=軸が安定している」ということ。
この「軸」というキーワード、おそらく多く指導者の方々が使っていますよね!
そう私が考える軸の正体はここにあります。
軸は、全身の繋がりとだるまのバランスからできるもの。
あらゆるパフォーマンスの中でこの「軸」というワードは多用されていますが、特に「美しく魅せる」パフォーマンスには欠かせないキーワードではないでしょうか。
さてこのだるまの配列から考える軸が、実際にどのような影響をもたらしているのでしょうか?

1 、バランスを保つ
新体操では、片足で足をあげてバランスを保つことが多くありますが、だるまがきれいに配列されている状態であれば単純にバランスがとりやすくなります。

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画像引用:「イラストAC

こんな崩れただるまでは単純にバランスを保つだけでも一苦労。
さらにこれで片足を挙げたり、手具操作するなんで…、ああ大変。

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2 、回転する
新体操、そしてクラシックバレエには体を軸にくるくる回転するような技も多くあります。

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画像引用:「depositphotos

だるまがきれいに配列されているということはこの軸を中心に回転しやすくなります。
コマと同じ原理ですね。
だるまがきれいに配列されていないとコマの軸が崩れているのと同じなので、1回2回ときれいに回れた(ように見えても)、回転の回数が重なるとここに不具合が出てきます。
よく回転中に肩が上がってきてしまうことがあると思いますが、これはこの軸の傾きを肩で補っているから(代償しているから)と考えることができます。
「肩をあげないでー!」と指導したい時には、肩以外のところに改善のヒントがあること多数です。

3、 ジャンプ
そしてジャンプ。
これは新体操だけでなく、クラシックバレエやフィギュアスケート、もしくはハンドボール等の片足でジャンプする場面では共通して言えることですが、このだるまがきれいに配列されていると、上に持ち上げやすくないですか?すっと、持ち上げやすい。
もし配列が崩れていると、持ち上げようとしたらすぐに崩れてしまいそう…。
そうなんです、残酷ですがこれが現実。
これらの競技における片足ジャンプってとても難しいのです。
実際にジャンプ以外の技は上手にできてもジャンプだけは苦手、そんな選手にも出会いました。ジャンプにはこの後述べる「羽の力」も大きく関わっているのですが、ジャンプ以外の技は上手にできる、でもきっとそれは本来使うべき部分ではないパーツを使って動いていることが多いんです。だから苦手な技が出てくる。こう考えるとだるまの配列が良いということは、満遍なく様々な種類の技ができるということに繋がってきます。
どんな手具になっても対応できそうです。
ちなみに、このだるまの配列が崩れているのに無理にジャンプを繰り返していると、怪我をします。ほとんどの場合、重要な足首部分、つまりだるまの一番土台になるパーツに負担がかかってしまうのです。

4 、柔軟性
新体操と言えば、この柔軟性の印象が大きいですね。
柔軟性にも2パターンあると思います。

<1>後屈

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このような後屈の動きも新体操でたくさん出てきます。
だるまがキレイに配列されていたらきれいに反れる感じがしませんか??
だるまがきれいに配列されていると、どこの骨(背骨)にも無理なくきれいな後屈ができます。
しかし、だるまが偏っていると、どこか決まった箇所にストレスがかかりまする。これが新体操の敵、腰痛の正体です。

<2>股関節

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新体操…、なんと言ってもここではないでしょうか。
これです、このような股関節の柔軟性。
もうこのレベルまでくると、元々持っている体の柔軟性云々も関係ありますが、ここにもだるまが関係しています。股関節の周りには、足やお尻などの大きな筋肉がたくさんついていますが、これらの筋肉が硬くなることによって股関節の柔軟性が失われていきます。
ジャンプをする際に足の力ばかりを使って跳んでいると、ジャンプを繰り返すほど足の筋肉は硬くなり、関節の周りについている筋肉が硬くなれば、当然関わる関節も硬くなります。
股関節の柔軟性を高めるために様々なメニューがあると思いますが、それらのトレーニングをより効果的に活かすには、だるまの配列の一番土台となる足首や足の機能を高めてだるまの配列を良くすることです。


3、 羽の力

そして羽の力です。
だるまがきれいに配列されているとして、それを上へと引き上げる時に羽の力が活躍します。しかも新体操の場合「力をつける」とは言っても、柔軟性を落としては本末転倒ですので、柔軟性を維持しつつ羽の力を高める。羽の力とは腕や肩甲骨、背中の辺りの力のことです。
さらにこの羽の力はジャンプの時だけでなく、股関節の柔軟性にも大きく関係しています。
例えば、ちょっと猫背のような状態で足をあげようとすると、太ももの力を使ってしまいがちで足はキレイに上がりにくく、常に太ももを使っていることになるので、筋肉も硬くなります。ただ、上から羽が引き上げてくれているような状態だと本来足をあげる時に働く筋肉たちも働きやすくなり、足もあげやすくなります。よって羽が働くことによってますます股関節の柔軟性も高まりやすくなるという良い循環に入ることができます。


4、おわりに

このように「???」で始まった新体操との関わりですが、今となってはこの競技との出会いにとても感謝しています。
私にとっては、体の持つ「美しさ」に気づく機会となりました。
このように美しさを表現するパフォーマンスの場合、様々な美しさの観点があると思います。演技の構成や表現、衣装、音楽、技のキレや幅。
私はパフォーマンスビルダーとして、体がもつ機能を存分に使いこなし、本来人間が持っている体の強さや美しさを引き出す、発掘する役割を続けていきたいと思っています。


画像引用:新体操の写真「photoAC

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