<未来を失う未来も 来ることを忘れないでね>
大好きな歌詞だ。
人によっては「暗い」と言うだろう。
でも、上っ面だけでポジティブなメッセージを押し付けられるよりよっぽど信頼できる。安心できる。
温かみのあるピアノのフレーズではじまる。
じぃん、ともびぃん、ともつかない打鍵音が心地よい。
前奏の終わりに鳴らされるシンバルによって、スパイスのようにピリッとしたアクセントが加わる。
全体的に音が高めというか、『花』というタイトルに相応しく、可愛い感じ。
ピアノが率いたフレーズが木琴(? もしかしたら、ピアノかキーボードのままかもしれないが。)に交代すると、可愛らしさが助長していく。
ここで使う可愛らしさとは、マンションの駐車場で無邪気に遊ぶ子供を眺めるような、そういう時の気持ちだ。
これまでの曲では、あまり聴かなかった音だと思う。
そのせいか、歌声の低さに少しはっとする。
ピアノ(木琴)フレーズは違わぬリズムで繰り返される。
ハッキリと、くっきりと、聴こえるが飽きないのは、ドラムやベースが違う表情で音を差し込んでくるからだ。
<青年がつばを吐き 老人は腰を曲げ>
<女は占いに夢中 黄昏は金色に>
<風鈴がひとつ鳴る>
メインフレーズに合わせて言葉(歌詞)が紡がれる、音の気持ち良さについ聞き流してしまうけれど、中身はなかなか難解だ。
曲の終盤の描写は、自分は"文明が栄える前の草原の民の夕暮れ"をイメージする。
(合唱曲『流浪の民』に似ている歌詞があるからか、ジブリ(宮崎駿)が描く架空の文明に生きる遊牧民だとか、そういう人々の暮らしを想像してしまう。何故だろう。)
穏やかな時間のなかで、悠久に思える自然の流れの真ん中に立ち、ぬくもりを僅かに残して花とともに沈んでゆく大陸の夕日。
<涙のなかからならみえる>
この歌詞も凄いと思う。
口語で、「〇〇の中、から、なら、見える」という文章はまず生まれない。
何故なら言いにくいから。
音に乗る歌詞"だからこそ"書ける文章だし、そしてドキッとする意味も含んでいる。
何が涙の中から見えるのか?
何故、涙の中から、しか、見えないのか?
<未来を失う未来も 来ることを忘れないでね>
そして最後のワンフレーズ。
誰にとっても当たり前で、そして出来れば目を逸らしたい真実。
我々の未来は有限で、その終わりはいつ来るか分からない。
その寂寞から目を逸らさず、涙の中から失う未来を見よう。
全てが明るくて、眩しいだけの未来なんて信じない。
夕暮れの薄闇のなか、夜空の濃紺と輝く茜空を同時に見つめて立っている。
そういう生き方も、いいじゃないか。
終わりの言葉に合わせて、何度も繰り返されたフレーズも終わりを迎える。
花が散るように。
とても綺麗だ。