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アメリカ

「神様 ぼくは愛してるよ
愚かで淫らなこの世界を」
すごく純粋な歌声だと思った。
世界は美しいと信じている少年が歌ってるみたいだなと。
でもその少年は、信じていた世界に裏切られたみたい。

「おはよう もうひとりのぼく
もう目を開けて眠らないで」
目を開けて眠ると言う逆転した言葉が、不安を煽る。
“僕”は死んでしまったのか?
幽体離脱した魂が、自身の肉体を見て哀れんでいる。
愚かで淫らな世界のせいで彼は死んでしまったのだろうか。

「ああ 朝の志願兵 まだ眠る街を背に                       歌う
血とか汗とか精液を 新しいシーツに隠して」
ほら不穏だ。
暴力を隠蔽する事への皮肉か。
隠したところで暴力を振るった者も振るわれた者も存在しているというのに。

「皆の衆、射撃用意だ 撃ち放せ!」
撃つのは志願兵の彼か、それとも無自覚で他人を傷つける群衆か。

「哲学は銃殺刑だ」
この歌詞めちゃくちゃ好きですね。
クール。
哲学は必要だと思うけど、それを語ろうとすると腫れ物扱いされてしまう。
ここから一連の歌詞は戦争の歴史を思わせる。
ボール(領土とか資源とか)を奪い合う争いは、いずれ必ず火を噴く。
「勝ち続けろって声に耳を貸すな」
誰もが勝とうとしなければ。
誰が言ってんだか知らないが、耳を貸さなければ、争いは起こらない。
(それでは護れない物もあるのだが。)
「紙幣の積み木」
結局全ては経済のためだ。
そんな物おもちゃみたいだという皮肉。命の前では。
「僕らが抜けたトンネルはいつだって
ただの銃口だから」
時の権力者達が悩みつつ進んで来た道には違いないが、その歴史は常に血の上に成り立っている。

「神様 ぼくは恨んでいるよ
本当はね
不思議なこの機械を」
この機械、銃だと思う。
人を傷つけるために(使い方で命を奪うこともできる)作られた機械。
そしてそれを1人1人が所持する事を許されている国。

「誰の子でも
いられない いられない」
人はみな、父なる神の子と言うけれど。
志願兵がいつか殺した/もしくはこれから殺す“敵”にも違う神があり、違う父がある。
“あなたと私は違う”たったそれだけのことで戦争は起きる。
父が“奴を殺せ”と言うのなら、従わなくてはいけないのか。
そんな父の子に生まれたくなどなかった。

内容を考えるとズンと重くなるが、反して歌声の軽やかさと、メロディアスな疾走感のある演奏が、歌詞の重さを思わせない。
本当に不思議な曲だ。

自分の好きな曲の傾向で、「歌詞はとんでもない事言ってるのに音楽はキャッチー」というのがある。(伝わる?)
『アメリカ』もそれに属する。
サビの気持ちよさ。
そして「撃ち放せ!」と号令がかかった後のギター、ベース、ドラムの暴れ具合。
音の銃の乱射みたい。

さて、『東京』記事で主人公を2つに分けてみました。
『アメリカ』の主人公は“人類”です。
続く『ベルリン』も“人類”に分類しています。
人類というFamilyについての『アメリカ』は重く暗い歴史(Record)でしたが、『ベルリン』のRecordは、何についてでしょうか。
それは来週のお楽しみ。


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『「こっち(わたし)はあっち(あなた)と違う」 この世の闘争の全てはそれが全てだ 人間がこの世に生まれてからな』

『HELLSING』の少佐のセリフを引用させて頂きました。