あの頃
日々が消えるのは怖いから。
マーチのように爽やかなサウンドで幕を明ける9曲目。
<誰もがまともなふりをしている>
<誰もがくるったふりをしている>
それでも世を見つめる目はぶれない。濁らない。
多少の冷淡さを以て達観している。とも言えるが、何の事はない通常運転。
むしろ、People In The Boxらしさを14字にまとめて、まさに"自然体"。
くどくどと御託を並べた所で、結局言いたいのは「この歌詞が好き!」ってコト。
正常と狂気の間を行ったり来たり。
そのアンバランスさを肯定、むしろ自然な状態と話す。
そう思わせるのは、やはり音の力。
全体的に爽やかなサウンドが多いと感じる『Wall,Window』だが、その"爽やかさ"の引き出しが沢山あると、記事を書く事で気が付いた。
『馬』『もう大丈夫』で重低音のベースが印象に残っているが、"そこまで重くない"ベースが、「これ同じバンドかな?」と我が耳を一瞬疑う。
曲ごとに違う一面を見せるPeople In The Boxの通常運転と言えば通常運転で、ラスサビに向かう前のギター+歌パートはJ-POP的構成と感じる。
つまり『あの頃』は『Wall,Window』のJ-POP要素を担っているわけだ。
『馬』のインパクトが強すぎて、他曲が相対的にキャッチーに聴こえるというのもあるかもしれないが。
しかし『あの頃』というタイトルの割には、そこまで強い懐古は感じない。
例えば子供の頃の思い出のような。
歌詞の中には子供が出て来たり、<息を吹きかけて揺らせよ漂うヨット>など無垢な感性を感じるフレーズもあるが、クリティカルな懐古かと言えば、ピンとは来ない。
もちろん個人的な過去の情景描写なのかもしれないが、曲を受け取る側としては、そこまで昔とは限らない「頃」と考察する。
もしかしたら未来のことかもしれないし。
日々が消えるのは怖いから、誰もがまともな振りをしている。狂った振りをしている。
このフレーズが好きなのは、時代に流されない本質を描いているからだと思う。
いつの時代でもいつの「頃」でも、人は人である限り不安を抱く。
不安の無い人はいない。いるならめでたい。どうかそのままで。
だけど優しく聴こえるのは、同じように不安を抱く人が歌っているからだろうか。
そして、踊りたくなるような軽快な音が、その不安を忘れさせてくれる。
3分54秒の間。
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イラストの話。
<帰るよ>
<みて>
の伸びやかな声とドラムが合わさるサビの入りは、夏の空を見上げるような晴れ晴れしさ。
少し褪せた色合いにしたのは、梅雨明けぐらいの7月の空が自分にはこの色に見えているから。
サビ入~サビまでの解放感を、窓を開けた時に入って来る草いきれの匂いと湿気も一緒に表現したかったが、上手く行ってるだろうか?
梅雨が明けたら、また読みに来て欲しい。
『あの頃』を聴きながら。
2024.06.05