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みんな春を売った

春。

青春。

売春。

意味深なタイトル。

ゆえに人と「『みんな春を売った』っていう曲、好きなんだよね。」とは話しづらいから。

だから、読む音楽で残す。

自分はこの曲が好きだ。


<ゆうべ からだを売ってみたんだ こころを切り離すために>

抽象的なイメージの話なのか、どこかの街に生きる誰かの話か。

どこかの街で生きるあの子はあの人は、心を切り離すために体を売ってるわけじゃないけれど。


<フラスコのなかで一生を過ごせたらいいな>

フラスコの中で育つ人間、思い浮かぶのはホムンクルスという錬金術師が生み出す架空の生物。

物質の対極にあるは生物。

そんな言葉遊びを思いつきながら。


<絶対にからだから逃げられないと知ったきみは>

<おかしくなってしまった>

<おかしくなってしまった>

「ねえ、どうして僕らのからだはこころより美しいの?」と問いかけた人の美学が映り込む。

体と心は乖離している。

そして自分の体からは、逃げられない。

たとえどんな罪を犯していたとしても。

その両手が全身が、血で濡れていたとしても。

フィジカルな物を否定する事は、できない。


<さよならさ>

後に待つ『さようなら、こんにちは』に繋がりそうな、印象的なさよならというフレーズ。

何とさよならするんだろう。

体?

心?

聞き分けのある子供から、聞き分けの無い大人へ?

世界を知れば、いつまでも子供のままじゃいられない。


<最後にこころから逃げてしまって さよならした>

<まともなひとたちはみな>

<戦争へ行ってしまった>

<さよならさ>

心と体は乖離している。

分かれたまま、まともなひとたちは心から"逃げて"、戦争へ行ってしまった。

この、分かるような分からないようなフレーズ。

何のメッセージ性も無いと言ったら嘘だと思う。

だけど思想的な物は無いと信じたい。

全てのメッセージに"誰かに共感して欲しい"という思いが込められている、とは思わないから。

共感も理解も同調もいらなくても、ただかつてそういう人がいたはずだという、想像。

その想像の歴史は、無表情に我々を見つめて来る。

問いかける事もなく、言葉を発する事も無い。

ただの、説明。

ただそういう事があったかもしれないという、架空の説明。

『一度だけ』で戦争の本を読んで取り憑かれてしまった人がいたけれど、まだ取り憑かれているのかもしれない。

いや、おそらく一生取り憑かれるんだ。

だけどそれを芸術に昇華している事が、凄いと思う。


<未来はまるで泥のように横たわる>

その泥に足を踏み入れて征く。

その未来は緩慢に過去と繋がっている。

知らずのうちに、過去と繋がっている未来に足を掬われ、もつれ、結局は過去に飲み込まれていく。


想像の歴史と架空の説明を自分は味わい、いい曲だなと思い、でもそこで感じた感想は、人に伝えづらいなぁと苦笑し、そっかじゃあこれは"一人で聴くべき音楽"なんだな、と感想を胸にしまう。


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歌詞や目につくワードが強烈だが、音楽は落ち着いていてよく眠れそうな感じ。

そのギャップが個人的に刺さる。

ドラムが作る緩急の緊張感が凄い。

ドラムのビートだけになる部分で<おかしくなってしまった>という歌詞にしたのが凄い。異質さが際立つ、確信犯なんだと思う。

ギターだと思うんだけど、一瞬ハープみたいにも聞こえるシャラシャラした弦の和音が美しい。

サビに向かって盛り上がって行く曲調はポップだが、ダウナーなコーラスが他に無い音楽だなぁと思う。


どうかスタイルを貫いて欲しいと思う。

面白い音楽、ポップな曲構成、ダウナーゆえに落ち着く歌声。

意味深なタイトル、表面を貫いて核心を突く言葉。


そのために傷つく事はたくさんあると思う。

でもこの人は心から逃げないだろう。

傷つく事を恐れて逃げる事はしないだろう。

そういう強さを感じる曲だ。