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旧市街

FamillyRecord_⑤旧市街_note


「朝食に毒を密かに盛れ ながい土曜日を終わらせる為に」
初っ端から聞いた事のない日本語が飛び出す。
おかしい。
単語の組み合わせを変えるだけで、こうも奇妙な現象になるのか。

自分がハマった頃、『旧市街』が彼らの代表曲だった。
PVの強烈さも印象深いからだと思う。
奇妙、だけど不快ではない。
格好いいサウンド、だけど普通じゃない。
アニメっぽい絵、だけど俗っぽくない。
当時は知ってる人がいても「ああ、あのPVが気持ち悪いバンドだよね?」と返されてしまった。
気持ち悪い…のは、分からなくない。
だけど、それだけじゃないんだっていうのを、その時は伝えられなかった。
言葉に出来なかったのだ。
言葉に出来なかったのは、受けた衝撃が、言葉で表現する事を超えていたからだと思う。
言葉に出さなければ、人に伝わらない。
だけど私は、中途半端に言葉にしてしまうのが嫌だった。
それに、「気持ち悪い」という友人の感想を、否定するのもなんか違う気がした。間違ってるわけじゃないから。
だから、分かり合わなくて良いと思った。
このバンドが好きな気持ちは1人でそっと抱えて行こうと決めた。
…のだが、最近、言葉にしないといけない理由が出来たので、こんな感想ブログ(感想note?)をやってみてるんですけどね。
言葉じゃ足りないから、絵も描いているのに、足りないのは画力でした。はい、オチです。

王様の入れ替えが繰り返される。
同じ格好の青年が来ては譲り、消え、青年は王様となり、また来ては譲り、消え、またなる。
誰が王となっても結局は一緒、という皮肉だろうか。
「時間だよ
ぼくから生まれたぼく自身に告ぐ
メメント モリ」
“死を想え”
僕が僕に死を告げる。
それは再生の合図。
同じ事の繰り返しから脱却する方法はいくつかあるが、破壊がその一つだ。

日常生活を送っていると、”また同じ日の繰り返しだ。”と感じる事は誰にでもあるだろう。
簡単に抜け出す事は難しい。
だから「生きながら死んでいるような感覚に陥った」王様は自分自身に死を告げて、繰り返す事をやめた。

そびえ立つ青い塔、これは王様の心だ。
「塔の門をくぐってからどのくらいの時間が経っただろうか
1時間?1日?1年?100年?
この階段はあまりに長くて 昇りながら下っているような感覚に陥った」
塔の頂上へは長く長く、王様は誰の侵入も許さない。
普通だったら諦める距離だ。
だけど大丈夫、青年は王様自身だから。

「青空 少しだけおかしくなったよ
ぼくの首に触れて 引きずり込んだ
青空 塔を抱いて眠りにつくのさ」
PVのラストは、納棺された王様の笑顔で終わるので、王様は繰り返しが終わる事に満足している。
“青空”は、外界の比喩だろうか。
内側の世界(塔)に君臨していた王様は、外界(青空が広がる場所)に無理矢理引きずり出されてしまったんだ。
些かグロテスクな言葉選びだな、とは思うが、それにしては晴れやかな、乾いたドラムの音。
新たな世界で生きていく決意表明のような弦の響き。
ネガティブだけではなく、グロテスクなだけでなく、気持ち悪いだけでないのは此処だ。

どうしてもイラストの印象が強いのだろう。
視覚情報は知覚の83%を補う。
PVを見て拒絶した友人を私は否定しない。
だけど、友人のセンスを否定せず、自分が好きだと感じた音楽を、そのまま好きでい続けた自分には、敬意を払う。
頭を下げたその先は、王冠を被った自分自身。なんだけどね。

Family Recordの1曲としての考察は、特に無いです。
強いて言うなら、“青年”の内省についてでしょうか。
だけどその程度。枠に収まることのない普遍的な曲だから、単体で何度も何度も聴きたい曲です。

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Youtubeで「10年近く前にこの曲作ってんのは天才すぎ、、圧倒的に時代が追いついてないでしょ」というコメントを見かけてニッコオォォ......って笑いましたね。
いや、本当に時代が関係無いというか…
10年以上経っても、全く新鮮ですもの。

https://youtu.be/S0TOzCdI2OQ

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『旧市街』がどこか知りたくて、調べ始めた8年前、偶然NHKでやっていた旅番組が、ガムラスタンというスウェーデンの旧市街を特集していた。
水の都らしい、その街は、古くて趣のある路地と、立ち並ぶ鮮やかな建物の対比が美しかった。
「こんな場所があるんだ」とすっかり見とれてしまった。
テレビより先に、“スウェーデンが『旧市街』のモデルだ”というブログを読んでいたのも後押しした。
そして、スウェーデンの首都が『ストックホルム』だと知っていたから、繋がりを感じてガムラスタンが『旧市街』の舞台だと信じ込んだ。

のちに、ヨーロッパには、無数の”旧市街”があるのを知りました。
それでも、自分にとっての『旧市街』はガムラスタンで良いと思ってます。
いつか行きたいな。

https://tori-dori.com/europe/2019/09/09/30902/