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遺跡の発掘調査

皆さん、発掘調査ってどんな事をすると思いますか?
刷毛で砂をサッサッサと掃いたり、プシュプシュと空気を吹き付けて砂を飛ばしたり、はたまた大きな岩をどけると手付かずの石棺が鎮座しいる、そんなイメージがありませんか。

テレビで観るエジプトやアメリカの恐竜の化石発掘はそんな感じですね。僕は学生時代に、アルバイトで国内の遺跡の発掘をやっていました。
まぁ、実際の作業は地味なもんです(笑)
今日は発掘がどんな感じなのか、当時を思い出して書いてみます。

まず、指示された現場に向かいます。この時点で、そこが何かはわかりません。現場に着くと、いつものバイト仲間や先生(市の職員)、最低でも一人の女性(お茶を入れたり掃除をしたりします)がいて、プレハブの現場事務所があります。
小さな現場は総勢10名程度、大きな現場だと100人近くの人がいます。小さな現場は学生が中心ですが、大きい現場になると、ベテランのお年寄り軍団が大半を占めます。

ここでは小さな現場を想定します。

最初に何の遺跡なのかの説明があります。例えば平安時代の役所の出先機関があった場所だとします。
現場にもよりますが、ブツが出て来るか出てこないかはこの時点ではわかりません。
第〇次発掘調査みたいな現場だと出るのはわかっていますが、初めての場所は掘ってみなければわかりません。

一通り説明を受けると、各自スコップを手に穴掘りです。と言っても、好き勝手に掘るのではありません。事前に測量して、掘る範囲に糸が張られていますので、その糸に沿ってトレンチという溝を掘ります。ここで地層をみて、目的の年代までどれぐらい掘ればいいのかを見極めるのです。

例えば50cmの深さに平安時代の地層があったとします。そうすると今度はトレンチの内側をすべて50cmまで掘ります。これが大変。なんたって、グラウンドみたいなところを掘るわけではありません、木が生えていたり、岩があったり、基本的には荒地や斜面を掘ります。人力で。
これをひたすら一週間ぐらい続けます。ようやく目的の地層に達すると、丁寧に皮をはぐように土を平らに削っていきます。

その頃になると、ようやく柱の跡が丸く別な色になっていたり、土器のかけらや瓦が土から顔を出したりし始めます。それを先生たちがスケッチに残したり写真を撮り、一人一人にお前はここの丸い変色してるところを掘れとか、一か所だけ更に30Cm掘れとか指示が出て、大きなスコップを園芸で使うような移植ベラに持ち替えて、しゃがんでチマチマ掘る作業に移ります。
なんとなく、いわゆる発掘調査っぽくなる瞬間です。

掘っている時に何か出てきても、慌てて掘り出してはいけません。すべての地面を平らになるように削っていくので、一か所だけ掘って取り出すと、年代がわからなくなるからです。なので「何か土器が出た!」と思っても、かけらが顔を出しているだけで、掘り出すと2Cm程度だったりする事もあります。

やがて、きれいに地面が平らになり、何かの建物があったと思しき跡(柱の丸い跡)や、あちこちから顔を出している木製の食器や瓦などの記録が終わると、現地説明会を開きます。
地元の住人や、考古学や歴史ファンなどが見に来ます。

これが終わると、ようやくブツの掘り出しです。小さくても大きくても全て集めます。全て掘り出したら、水洗いをします。このあたりで、模様や文字などが判別できるようになります。

これで終了になる現場もありますし、この後パズルのようにすべての破片を手で合わせてみて、つながるところはボンドでつなげていく気の遠くなるような作業をする事もあります。
大物の縄文土器なんかだと、そうやってつなげて、どうやっても埋まらないピースを紙粘土で埋めていって完成させます。よく博物館なんかに置いてあるアレです。

そしてひとつの現場が終わると、じゃぁ明日からはxxで発掘だから、そっちに集合な!と言われて、新たな現場が始まるのです。

というわけで、発掘調査の8割は、ただの土木作業で完全な肉体労働。鶴嘴を振るったり、スコップで穴を掘って猫車で土を捨てたり、のこぎりで木を切ったり・・・本当にワクワクできる時間は、ほんのわずかです。でも、今でも楽しかったなぁと思いだせるバイトです。

大抵はありきたりな土器や石器などが出るだけで終わるのですが、予想していたよりもすごいものが出てきたりすることもあります。僕が発掘していた現場も2か所ほどすごいものが出てきて、一つはまるごとミュージアムになって保存されています。
うちの子供もバイトをするような年齢になったら、勧めてみようかなあ、なんて思ってます。


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