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関西文化が詰まった究極のエンターテイメント!佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021「メリー・ウィドウ」鑑賞記

兵庫県立芸術文化センターの夏の風物詩、佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ。劇場の開館した2005年から毎年様々な新制作オペラを上演してきたプロダクション。昨年はコロナ感染拡大防止の観点から無念の公演中止を余儀なくされたため、2年ぶりに夏の風物詩が戻ってきた形となった。
今年は2008年に同劇場で初演され大好評を博した、レハール作曲の喜歌劇「メリー・ウィドウ」をキャストを一新し改訂新制作として上演された。

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演出は13年前と同じく広渡勲が務めた(自身の母校昭和音大客員教授でもある)。
自分自身が学生時代、授業の中で前作の映像を見せていただき、オペラ(オペレッタ)の魅力を教えてもらいオペラを観るようになったきっかけになった思い出深い作品でもあり、発表になったときから今作は何としても観たいと思っていた。

期待の若手歌手を起用したキャスト

今回は日ごとに異なったダブルキャストで上演され、観劇した18日はプロデュースオペラ初登場のキャストで固められたキャスティングの回。
期待の若手である高野百合絵さんと黒田祐貴さんの2人が主役を務め、折江忠道さんらのベテラン歌手が脇を固めた。
特に高野さんは、良い意味で今まであまり聴いたことのない歌声でソプラノの突き刺すような高音ではなく、まろやかで深い音色が印象的で今後の活躍をさらに期待したい逸材と言える歌手でますますファンになってしまった。

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関西文化を創出した2人の立役者

このプロダクションに欠かせないのが関西らしさ溢れた演出である。
まず冒頭にオケピットから飛び出し、"いらっしゃ〜い"とお馴染みのセリフで落語家 桂文枝師匠が登場。狂言回し(ストーリーテラー)という配役で、小噺や佐渡さんとの掛け合い、時には歌唱まで披露し客席を大いに笑いの渦へと舞い込んだ。
そして中盤では、元宝塚歌劇団の香寿たつきさんが宝塚さながらの衣装で登場し客席がどよめいた。宝塚歌劇のテーマ曲"すみれの花咲く頃"をオーケストラの伴奏で歌い、客席はその美しさに酔いしれ拍手喝采となった。
このお二人だけでも必見の価値ある贅沢なひとときに。

宝塚歌劇風演出と豪華グランドフィナーレ!

このプロダクションは物語自体は原作に忠実な作りになっているが、見どころはそれ以外のところにもある。
関西ならびに兵庫を代表し、阪神間のエンターテイメント文化の大先輩でもある宝塚歌劇を尊重し演出に取り入れているというのが兵庫芸文ならではのオリジナリティに富んだ部分だ。
まずは他のオペラ(オペレッタ)公演には無い舞台機構である。宝塚歌劇ではお馴染みのオーケストラピットの前に掛かる橋、"銀橋"を増設し物語の随所でふんだんに活用されている。

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公演の一部分の舞台を形取った舞台模型↑
客席とオケピットの間に銀橋が掛かっていることが分かる。

"本編が終わった後も公演が終わらない"という宝塚歌劇のレビューのようなグランドフィナーレも見どころ。本編で登場したフレンチカンカンやアリア等のナンバーの良いとこどりな場面が次々と披露されて、少し前の感動を再びおかわりして味わうことができるというお得感がある。
そして、東京バレエ団のバレリーナを起用し、ワルツ「金と銀」の楽曲に合わせた舞踊シーンも大変に素晴らしかった!

佐渡芸術監督の音楽表現と広渡演出の醍醐味

全ての演奏を担った佐渡芸術監督と兵庫芸術文化センター管弦楽団が奏でるオペレッタのメリハリある楽しげな音楽や、たっぷりと聴かせる感情的なフレーズはフルオーケストラ演奏の醍醐味を充分に堪能できる素晴らしいものだった。また、おそらく13年前にはなかったであろうウィーン仕込みの佐渡監督の音楽作りも大いに演奏に活かされているように感じられたのも今回の重要な点かもしれない。

最後の最後までこだわり抜いた広渡先生の演出に感服するばかりの3時間半だった。コロナ禍のどんよりとした世の中に、とびきり楽しく笑える究極のエンターテイメントを観劇できたことは今夏最大の思い出の1ページとなった。
劇場という空間が非現実の世界観を創り出し、その時間を劇場空間で共有する舞台芸術の醍醐味というものを、こういう状況の今だからこそ改めて気付かされた舞台だったように感じられた。

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