生体肝移植という選択肢(入院45日目)
入院生活も45日となり、いい加減一時帰宅をさせてくれと医師に相談したところ、あっさり許可が出た。じゃあどうせならというので1泊して来ていいか?と聞いてみたところ、「……まあ、家族が良いと言うのであればOKです」との返事。
なぜ家族の許可が要るのか。どうにも腑に落ちなかったので聞いてみたら、「こいつアル中だから1泊中も飲まない様にちゃんとご家族が見張っていてね。見張れるならOKだよ」(要約)とこういう理由だと。ハッキリ言わないのは気遣いなのか何なのか。
腑に落ちるという言葉、おれの周りだけかも知れないけど腹に落ちる、腹落ちするって言い方のが最近よく聞きませんか? 聞かない。そうですか。すみません。
正直飲もうと思えば病院だろうが自宅だろうが何時でも飲めるし、なんなら病院の方が監視緩いから「何を今更……呆笑」の顔になってしまうのだが、世間的におかしいのはおれの方で呆れ笑いは先生や家族がする側なんですよね。すぐに家族に電話連絡で確認が入り、外泊許可が下りた。「あいつらおれが隠れて酒飲むと疑ってやがるんだよ、笑っちゃうよなあ!」「何言ってんだよ、当たり前じゃねえか。オメーの信用なんてねえよ」「なんだとこの野郎! アッタマ来た。シアナマイドでも何でも飲んで証明してやらあ!」「バカ言ってんじゃないよ全く、そンならそんな入院するまで飲まないで欲しいもんだよ 呆」(1敗)
基本世の中ナメて生きてるからいや本当……ありがとうな!😉 実はこの会話の日の昼も病院を抜け出してラーメン食って帰って来てた。期間限定のバターチキンカレーつけ麺ですって。初めて行く店で看板じゃないラーメン食うのはもう来ないかもしんないから。ラーメンて睡眠薬よりよっぽど眠くなりませんか。って調べたらまた糖尿病の疑いとか何とか出て来たけど数値上は問題ないからこの話は広げません。
(つけ麺てどこで食っても80点くらいの味するよね)
戻ります。「ご家族の確認も取れましたので外泊OKです」「ところで」「生体肝移植ってご存知ですか」「エッ」生体肝移植の話が急に来たので驚いてしまった。アルコール起因の肝不全は適用外と以前に説明を受けていたからだ。先生ェ、騙しましたね。では肝移植を受ける条件はどうなっているのか。
肝移植の適用疾患は?
基本的には、他に治療法のないあらゆる肝疾患の末期肝不全の方が肝移植の適応となります。しかし、最近肝がんの患者さんの増加が著しく、肝硬変のみならず治療不能ながんも一挙に根治する肝移植の有用性が注目され、良好な成績が報告されています。また肝機能がある程度良くても、肝がんに対して他に有効な治療法が望めない場合、肝移植の適応となることがあります。
(中略)
アルコール性肝硬変や原因不明の肝硬変も肝移植の適応となります。アルコール性肝硬変の場合、禁酒後6ヶ月以上経過し、しかも肝移植後飲酒を再開するおそれがないという条件で肝移植の適応となります。
http://www.tokugeka.com/surg1/group/isyoku/page5/page5.html
…… 誰が判断するんだよ再開する恐れがない事ってのは。反省文でも書くのか。(追記:これこの後の参考文献から察するに不問ぽいが)とにかく、冒頭の家族に飲まない事を見張らせるのはこのアル中禁酒6ヶ月の条件があるからだ。飲んだらリセットされちゃうからね。1杯くらいだと飲んだかどうかなんか分かんないと思うんだけど。それよりこんな話が出て来るくらい状況が悪いと言うのがイマイチ理解が追いついていない。治療方針の説明になかったな。次回ハッキリさせておこう。(※厚労省基準があるが、ざっくり上記の認識で話を進める。詳しい条件は下の方に書く)
脳死肝移植の条件は更に厳しく、18カ月禁酒が条件。アル中テストのスコア(HRARスコア)は不問との事。
(7)アルコール多飲者への対応 アルコール多飲者による非代償性肝不全例に対する肝移植医療の基本的スタンスは肝移植後に再飲酒しないことを絶対条件としていた.そのために精神科のカ ンセリングと禁酒期間を 6 カ月とした基準が設けられ てきた16)~18).さらに欧米の肝移植適応基準として High- risk alcohol relapse score(HRAR)スコア19)による追加 基準とともにわが国ではアルコール性肝不全に対する 厳格な登録基準を作成した経緯がある.しかしながら, この 6 カ月禁酒に医学的エビデンスがなく,あらため てわが国におけるアルコール多飲者の肝移植症例を全 国調査し,肝移植後の再飲酒とHRARスコア,禁酒期間との関連性を検討した.
その結果,HRAR スコアの多寡にかかわらず肝移植 後の再飲酒が認められた.唯一,有意差をもって再飲 酒が低率であったのが肝移植前の 18 カ月禁酒期間とい う事実が判明した20).
この結果,精神科コンサルトや HRAR スコアなどは 不要で,医療機関が確実に18カ月禁酒を把握した症例に関して非代償性肝硬変として登録申請することができるようになった.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/56/3/56_79/_pdf
国立成育医療研究センターにおける肝移植500例の成績
【目的】国立成育医療研究センターでの肝移植の経験を振り返り、その結果を報告します。
【対象と方法】国立成育医療研究センターでは、2005年11月から2018年3月までに500件の肝移植を扱ってきました。肝移植の適応と免疫学的転帰を含む変数がレビューされました。
【結果】研究期間中、469人の生体肝移植、27人の死亡者、4人のドミノ肝移植があった。肝移植の適応症は、胆汁うっ滞性肝疾患が48.0%、続いて代謝性肝疾患が22.0%、急性肝不全が12.6%でした。レシピエントの平均年齢は4.0±5.5歳であり、体重は14.9±13.3kgであった。免疫抑制は、タクロリムスと低用量ステロイドで構成されていました。急性細胞拒絶反応の発生率は42.0%でした。 10年の患者の生存率は90.2%でした。
【結論】国立成育医療研究センターの肝移植プログラムで満足のいく結果が得られました。死亡したドナー肝移植、急性肝不全および再移植の患者は、患者の生存率が著しく低いことを示しています。肝移植は、適切な適応症と優れた管理戦略とともに、安全で効果的な治療法であると結論付けています。生存に影響を与える重要な要因は、近年発生した技術的および免疫学的改良によって克服される可能性があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jst/53/2-3/53_197/_article/-char/ja/
肝移植後10年の生存率は90.2%とかなり高い。成る程ね。成る程成る程。
じゃあ提供者って誰なのよ
さて。じゃあ誰から肝臓を貰おうか。お前らの肝臓、待ってるぜ!
(こいつ確かO型だった気がするんだよなあ…… ゴリラのくせに(おれはAB型なので適合はA、B、AB、Oの4面待ちです))
生体肝移植ドナー(肝臓を提供する人)の条件(どのような人がドナーになれるのか)
ドナーとしての妥当性の条件は以下のようなものがあります。
(1)自発性
強制されたのではなく、移植に関する正確な情報を提供された上で自身の意志として肝臓の一部提供を申し出た方。
(2)続柄
日本移植学会では、民法上の親族の範囲である、6親等以内の血族、3親等以内の姻族(配偶者ならびに配偶者の3親等以内)の範囲内で選択することを倫理指針として原則としています。なお、2007年7月から、臓器移植法の運用指針が改正され、ドナーとなる方の、レシピエントとの親族関係を戸籍などの書類で確認する義務が医療機関に課せられております。このため、保険証などで確認できる範囲外の方がドナー候補となっておられる場合には、戸籍抄本などのコピーを熊本大学の倫理委員会へ提出する必要がありますので、ご留意ください。
(3)年齢
原則として成人であり、65歳程度までの方。ちなみに、国内では70歳までのドナーはおられ、例外的に熊本大学でも65歳以上のドナーが数名おられます。高齢のかたは、若いかたより、さらに綿密な検査を経る必要があります。
(4)からだの状態
原則として投薬などを必要とせず肝臓を含め健康な方であり、肝炎のウイルスなど感染源がなく、また最近の悪性腫瘍の既往も無い方。
(5)肝臓の大きさと働き
予測される移植肝の大きさがレシピエント体重の0.7%程度以上で、かつドナーに残る肝臓がその摘出前の大きさの3割以上となるような方。この大きさは、CTを用いて推定することができます。
当然、生体肝移植ドナーとなられるかたは、その肝臓の働きは正常でなくてはなりません。ある程度以上の脂肪肝など、日常生活上特に異常を感じておられなくても検査で異常が確認されれば、その時点ではドナーとはなれません。
(6)血液型
血液型は、輸血できる組み合わせ(図4)が望ましいです。ただ、輸血出来ない組み合わせ(血液型不適合)のドナー候補しかおられないときには、レシピエント側にいろいろな処置を行うことによる拒絶反応の予防手段が開発されてきており、血液型適合移植ほどの成績はまだ期待できませんが、かなり成功率は高くなってきておりますので(後の「移植成績の一覧」でご覧ください)、最初から不適合移植をあきらめずにお考えいただければと思います。
(7)ドナーとなるのに不適当な状態
全身性活動性感染症
HIV 抗体、HBs 抗原が陽性
悪性腫瘍(治癒したと考えられるものを除く)
肝機能異常
https://www2.kuh.kumamoto-u.ac.jp/transplant/patient/liver_transplant/05.html
はい。生体肝移植は親戚縁者からしか受けられません。(6親等以内の血族、3親等以内の姻族(配偶者ならびに配偶者の3親等以内)の範囲内)
……しかしなあ、「おい、飲み過ぎて死にそうだからお前の肝臓ちょっとくれよ。良くなったらまた酒飲もうぜ!」とは言えんでしょう…… しかも一生頭上がらんぜ。今までも十分もう上がらない事してるんだけどさ。兄弟に頼むのもなあ……
という訳で生体肝移植は本当に死にかけた時の保険の選択肢です。成る程ね〜。あとは脳死肝移植だが、状況は以下にこんな感じ。かなり件数的に厳しい。単純計算で約6年は順番待ちだ。(2021年7月末希望登録者数332名、2020年脳死肝移植実績58件)
臓器移植希望登録者の現況(2021年7月末時点)
https://www.jotnw.or.jp/data/offer.php
臓器移植に関する提供件数と移植件数(2020年実績)
https://www.jotnw.or.jp/data/liver.php
ちょっと思ったのって、これ脳死肝移植の待ちが国内で332人なワケでしょ。で、その内アル中が何人いるんだろ? 調べれば分かるけど、あれ? もしかして酒で肝臓ぶっ壊してここまで来るのってあるあるじゃなくてレアケースなんじゃないの。……まあいっか…… というよりアル中は入院前に死んでる人が多いんだよ。自覚症状なかったり治す気なかったり。データばっかで疲れるからざっくり書いとくけど毎年アルコールで死ぬのは3万5千人です。
数字も少しずつ改善してるし肝移植はまだいっかの話 おわり。
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