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二酸化炭素研究で、夢への道を切り拓く!後編[穂積 佑亮/江島 彩夢]

今回は「Space Seedlings」として、一般社団法人 炭素回収技術研究機構CRRA(シーラ)代表理事・機構長である村木風海さんに取材させていただきました。地球温暖化問題と火星移住を見据えて二酸化炭素研究に取り組んでいる、東京大学2年生の村木さん。連載後半となる2月号では、現在CRRAが持つ技術と村木さんの今後の展望について紹介します。

「ひやっしー」で変える地球と宇宙探査の未来

江島(Space Seedlings 以下S.S.):インタビュー前半では村木さんのバックグラウンドについて伺いました。ここからCRRAで研究されている技術について紹介していただいても良いでしょうか?

村木さん:はい!CRRAでは大気中から二酸化炭素を直接回収できる「ひやっしー」と呼ばれる装置を開発しています。「ひやっしー」の中にはアルカリ性の水溶液が入っていて、二酸化炭素を吸収してくれます。

二酸化炭素吸収後の溶液でスピルリナと呼ばれる藻を培養すると、いくつかのプロセスを経て我々の使用できる燃料(軽油やエタノール)を合成することができます。

千葉県に新設された工場では同手法で実際に燃料製造を始めているところです。ひやっしーの性能はバージョンにもよりますが、家庭用プランの場合は5.4g/h、おおよそ一人暮らしの部屋であれば部屋中に森や草原が広がっていた時と同じぐらいのCO2を回収することができます。

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「ひやっしー」の外見。上部には人工知能の搭載されたタッチパネルも。

S.S.江島:なるほど!この技術は地球温暖化の解決にどう貢献できるのですか?

村木さん:私は世界的に開発の進んでいる電気自動車や水素自動車が日本で普及するには当分時間がかかると考えています。またこの燃料となる電気や水素は実はあまりエコでない方法で製造されていると考えています。

対して「ひやっしー」で作られる燃料は大気中の二酸化炭素から合成できます。なので、既存の自動車に対してそのまま使えます。また、ひやっしーの燃料は『大気から燃料を製造→燃やす→また大気に戻る』というサイクルを繰り返すだけなので、二酸化炭素の新たな排出が無くなり、地球温暖化の解決に大きく貢献できます。

「ひやっしー」を製造するために必要な太陽光パネルは数年で二酸化炭素の収支が取れる予定で、本体の大部分を占めるプラスチックも「ひやっしー」で作った燃料から製造する予定です。「ひやっしー」の燃料で動く環境負荷の低い運送業も計画しています。

S.S. 江島:CRRAで運送業!面白いですね。

村木さん:CRRAで陸海空、そして宇宙を制覇したいと考えています!宇宙への第一歩として成層圏への宇宙飛行士、その名もstratonaut(成層圏飛行士)をCRRAから募集して、誰もが気軽に宇宙へ行ける職業を生み出したいです。成層圏探査機も現在開発中です。そうした活動を通して、各国の宇宙機関や企業と切磋琢磨し、CRRAも宇宙へ進出していきます。

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S.S. 江島:いま「宇宙」というキーワードが出てきましたが、村木さんが二酸化炭素回収の研究を始められた原点は「火星に住みたい!」という強い想いからでした。「ひやっしー」の開発はその目標にどう繋がっているのでしょうか?

村木さん:火星へ行くにはかなりの燃料を必要とします。より少ない燃料で火星へ行けたらロケットの打ち上げコストを大幅に削減できます。

火星の大気は大部分が二酸化炭素で構成されています。二酸化炭素から燃料を作れる「ひやっしー」の技術を火星に持っていけば、帰りの分の燃料は現地で製造できるため、火星へ行く片道分の燃料しか必要とせず、大幅なコストダウンに繋がり、火星への探査が現実的になります。

地球温暖化の解決と火星探査は同時に叶うのです。

NASAよりも効率的な二酸化炭素回収を

S.S. 江島:現在、NASAを中心に各国宇宙機関で二酸化炭素回収及び燃料製造に関する研究開発が行われています。

例えば昨年火星へと向かって打ち上がったNASAの火星探査ローバー『パーサヴィアランス』には二酸化炭素を回収して酸素へと還元する装置(MOXIE[1])が搭載されています。

また国際宇宙ステーション(ISS)にも宇宙飛行士の排出した二酸化炭素を回収する装置(CDRA[2], CAMRAS[3])や二酸化炭素からメタンと水を製造する装置(Sabatier Reactor[4])が運用されてきました。こうした装置と比較して「ひやっしー」の強みは何でしょうか?

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[1] MOXIEは火星大気からCO2を回収し、電気化学的に二酸化炭素分子を酸素と一酸化炭素に分解。生成された酸素は燃料や宇宙飛行士の呼吸用酸素に利用可能。
[2] Carbon Dioxide Removal Assembly (CDRA)はNASAが有するISSの二酸化炭素回収技術。ゼオライトを用いて二酸化炭素を回収する仕組み。二酸化炭素改修後のゼオライトを加熱することで、吸収された二酸化炭素をまとめて取り出し、船外に廃棄している。このサイクルを繰り返すことで、ゼオライトを再利用し、継続的に二酸化炭素を回収している。
[3]アミンを用いた二酸化炭素回収方法。CDRAと同じく再利用可能。現在は実験段階で、将来の有人宇宙船の二酸化炭素回収技術として期待されている。
[4]サバチエ反応は高温高圧に加熱された二酸化炭素と水素を触媒に通過させることで、メタンと水を生成することができる。メタンは燃料として、水は電気分解で酸素と水素に分解することで、サバチエ反応用水素、燃料、呼吸用酸素等に再利用することができる。
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火星探査ローバー『パーサヴィアランス』にMOXIEが搭載される様子 (画像:NASA)

村木さん:ISSで二酸化炭素吸着に用いるゼオライトと呼ばれる物質は回収した二酸化炭素を処理する際に高温に熱する必要があります( *MOXIEも二酸化炭素還元の仕組みは違いますが同様に高温に加熱する必要があります)。対して「ひやっしー」は熱処理を必要としません。

既述の通り、スピルリナと呼ばれる藻を二酸化炭素の回収された水溶液内に入れるだけで燃料を製造することができます。これは【熱を加える】という工程を必要としないため、余分なエネルギーを使いません。限られた電力や厳しい熱制御を必要とする宇宙機にとってこれは大きなメリットとなります。

燃料製造には2週間程かかりますが、一度燃料製造を始めたら継続的に燃料を生み出すことができます。また、燃料製造に使用するスピルリナは近年食用としても注目されています。燃料だけでなく、宇宙飛行士の食用としてもスピルリナを使用できれば、一石二鳥で効率的なミッションの実現に繋がります。

S.S. 江島:数あるアイディアを行動に移して実現させていて流石です。本トピックを終える前に同じ若手の研究者として質問させてください。『これまで研究に携わったことはないけど、挑戦してみたい!けど何をすれば良いか分からない…』という人は沢山いるのではないかと個人的に思っています。年齢や経験に関係なく、これまで研究を続けてこられた村木さんの視点からこうした方々へのアドバイスを伺いたいです。

村木さん:研究を始めるにあたって大切だと思うことが2つあります。一つ目は「思いついたら実行!」。僕はどんなに馬鹿げたアイディアでも取り敢えずやってみるのが大事だと考えています。もしダメだったら元に戻せば良いのです。思いついたことを「試す」のが研究なのではないでしょうか?

2つ目は「ググる力」。僕は分からないことがあればとりあえずググって解決してきました。勿論情報の良し悪しは大人から学ぶ必要があるかもしれませんが、それに慣れたらあとは自分で調べ続けるだけです。正直ネットがあれば学校へ行かなくとも勉強はできると思います。パソコン一台とアイディアの実行力さえあれば誰でも年齢に関わらず研究は始められます!

CRRA今後の展望

S.S. 江島:今回は村木さんからCRRAでの研究に関してお話を伺いました。最後に今後の展望を教えてください。

村木さん:現在CRRAには6つ部署があります。機構長室(戦略立案)、気候危機管理局(「ひやっしー」製造、気候変動の研究部署)、新都市交通局(電車と車)、海上運輸開発局(船の運行)、航空宇宙局(宇宙分野)、CRRA国際放送(インターネット放送局)。これから各部署に人員100人くらいは入れたいなと考えています。

他にも大学を作りたいです!その名もCRRA Institute of Technology (通称:CIT)。MITに因んで名付けました。私はこの大学を「高大一環」にすることで日本から大学受験を無くしたいと考えています。また、授業では実践的な学びを提供したいと考えています。

例えば授業で得た学びをCRRAの宇宙センターからロケットを打ち上げて実践してみるとか、ISSで授業をするとか。こうした活動を通して「学びは冒険」であることを体感できる場を作りたいです。

それと、博物館も作りたいです。これらはこの先2~3年で実現させていきたいと考えています。イーロン・マスクが真っ青になるくらいのスピード感で進めていきたいです。

S.S. 江島:イーロン・マスクといえば、最も優秀な二酸化炭素回収技術に対して彼が1億ドルの賞金を出す、というXPRIZEのコンペが先日発表されました。これには参加されますか?

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XPRIZEに関するイーロン・マスクのツイート (画像:Twitter @elonmusk)

村木さん:公的な研究資金などでは突拍子もない破壊的で革新的なアイディアはなかなか採択されにくいですが、このように民間からとてつもない規模の研究費支援があることに非常にワクワクします。僕たち温暖化を解決しようとする化学者の大きなモチベーションになりますし、僕もぜひこの募集に挑戦してみようと考えています。

S.S. 江島:いいですねー。目標とする人物はイーロン・マスクですか?

村木さん:はい、目標でありライバルです。どちらが先に火星に行くか、競争するくらいの気概です。それくらいした方が日本ももっと盛り上がるじゃないですか!「村木風海が日本のイーロン・マスク」ではなく「イーロン・マスクがアメリカの村木風海」と呼ばれるようなゲームチェンジャーになりたいと考えています。

最後に

地球のため、そして人類の生存圏拡大のために日々奮闘する村木さん。近いうちに火星に降り立つ姿が見られるかも...? 村木さんの活動に更に興味を持たれた方は以下の情報をご参照ください!

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CRRAホームページ:https://www.crra.jp/
村木風海さんTwitterアカウント:@Kazumi_Muraki


参考文献
[1] NASA, “MOXIE for Scientists”, https://mars.nasa.gov/mars2020/spacecraft/instruments/moxie/for-scientists/, 1/17/2021閲覧
[2][3] NASA, “Bed Scrubs for CO2”, https://www.nasa.gov/mission_pages/station/research/news/amine_swingbed.html, 1/23/2021閲覧
[4] JAXA, “CREST(水素・メタン製造関連技術の研究)”, https://www.kenkai.jaxa.jp/research/exploration/crest.html, 1/17/2021閲覧



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村木 風海(むらき かずみ)
一般社団法人 炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長。

2000年生まれの化学者兼発明家。専門はCO2直接空気回収(DAC)、CO2からの燃料・化成品合成。現在は東京大学に在籍する傍ら地球温暖化解決と火星移住を実現すべくCRRAで独立した研究開発を行っている。2021年1月より大手化粧品メーカー・ポーラオルビスグループ、ポーラ化成工業株式会社 フロンティアリサーチセンター 特別研究員を兼任。代表的な発明にCO2回収装置「ひやっしー」などがある。

一般社団法人 炭素回収技術研究機構(CRRA)
https://www.crra.jp/kazumi-muraki/


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江島 彩夢(えしま さむ)
米コロラド大学ボルダー校 宇宙生物学 博士課程2年

【専門・研究・興味】
環境制御/生命維持装置(ECLSS)の自律化に関する研究

有人宇宙しか分かりませんが、出来る限り分かりやすく面白い記事が書けるよう頑張ります!

【活動】
Homer Spaceflight Project
SGAC


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穂積 佑亮(ほづみ ゆうすけ)
東京理科大学理工学部・建築学科4年生

【専門・研究・興味】
伝統木造構法/木組みの応用に関する研究/生き物の仕組み

Space Seedlingsのコーナーを通して、学生の視点から宇宙分野のいまをお届けすると共に、自分自身も皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。よろしくお願いします!

【活動】
宇宙の学び舎seed
宇宙教育プログラム

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