宇宙とは何か vol.09「宇宙の構造」松原隆彦
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所(KEK素核研)で宇宙論の研究にあたる松原隆彦教授による、「宇宙とは何か」の講義をお届けします。今回は第9回(全10回予定)。宇宙はどういう構造をしているのか、そしてそれは、どの程度確からしいのか……?
※この原稿は、2024年1月7日発売の『宇宙とは何か』(松原隆彦/SB新書)を元に抜粋しています。
星の欠片でできている
恒星は核融合で光っているわけですが、いずれ燃料を使い果たします。
まず、水素がなくなってヘリウムばかりになります。すると今度はヘリウムが核融合を起こす。そうやって炭素や酸素などの重い元素を作り出し、最終的に鉄までいきます。鉄は核融合を起こしても、エネルギーを出してくれません。鉄から先は核融合できず、終わりになります。ただ、燃料が尽き果てて核融合ができなくなっても温度が高いので、残り火のようなものでしばらくは光っています。さらに温度が下がっていくと、真っ黒い塊になります。
質量の重い星は鉄までいきますが、軽い星は途中で核融合を停止します。エネルギーを放出しないけれどもボヤーっと光っている、終末期の天体。白色矮星と呼ばれていますね。太陽も比較的軽い星なので、将来は白色矮星になるでしょう。
質量の重い星は、最終的につぶれてしまいます。みずからの重力に耐えられなくなり、爆発します。超新星爆発です。
爆発すると、鉄や炭素を放出します。爆発時のエネルギーが巨大なので、鉄より先の貴金属も一緒に作ってくれます。超新星爆発によって、さまざまな元素が宇宙空間に充満するんです。
地球があるのは、超新星爆発があったおかげですね。太陽よりずっと重い星が最後に爆発を起こし、炭素などの元素をばらまいてくれたおかげで、それがもう一度集まって地球ができたのです。
私たちの体の中にも炭素がありますが、これはかつてどこかの星の中にあったはずです。そうでなければ宇宙空間に炭素はないですから。
「私たちは星の欠片でできている」という言葉がありますが、実際、そうなんです。この体の中の炭素が「何百億年前は、どこどこの星の中にいた」と覚えていたら、と考えると面白いですね。
宇宙の大規模構造
数億光年のスケールでこの宇宙を見ると、銀河が集まっているところとそうでないところが確認できます。「宇宙の大規模構造」です。
この図は、私も参加した国際プロジェクト「スローン・ディジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)」によって得られた宇宙の大規模構造です。中心が私たちの天の川銀河で、外に行くほど遠い宇宙です。
図で縦方向に入っている切れ込みのように明らかに黒い部分は、天の川銀河自身の影になってしまうなどの理由で観測されていない部分です。また、遠方ほど暗くなっていますが、これは遠方の暗い銀河が観測されてないからです。
実際は、天の川銀河周辺と同様の構造がずっと先まで広がっていると考えられます。
宇宙は有限か無限か?
宇宙マイクロ波背景放射の温度ゆらぎの話(vol.07、vol.8)から、ゆらぎによって生まれてきた宇宙の構造の話をしてきました。
一方で、10万分の1K程度のゆらぎしかないということは、大きなスケールで考えると宇宙はどこも同じような姿をしているということでもあります。観測範囲は「ホライズン」(vol.06)より内側に限られているものの、その範囲の先にも私たちと同じような構造の宇宙が続いていると予想することができるわけです。
ただしそれはあくまで予想や推測であって、確かなことではありません。
ものすごく広い運動場かなんかのグラウンドに、半径1mしか見えない子どもがいたとします。今の人類って、その子どもなんですよ。半径1m、どこもかしこもグラウンドだから、見えてないところもグラウンドが続いているのだろうと推測しているだけという、そういうレベルです。
もしかしたら目の前の1mのすぐ先でグラウンドが終わっていて、今度は大きな校舎があるかもしれません。あるいは、グラウンドはグラウンドなんだけど、遊具が置いてあるかもしれません。つまり、私たちの推測に反して、宇宙の構造がホライズンの外では変わっているという可能性もあるんです。
グラウンドは、半径2mの有限かもしれないし、無限に続いているかもしれない。観測限界のホライズンがある以上、宇宙が無限か有限か、確かなことはいえないということです。
目に見える世界を一般化してしまうというのは、人間の性なのかもしれません。
《続きは次回、vol.10をお待ちください》
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松原隆彦
1966年、長野県生まれ。高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所(KEK素核研)教授。博士(理学)。京都大学理学部卒業。広島大学大学院博士課程修了。東京大学、ジョンズホプキンス大学、名古屋大学などを経て現職。専門は宇宙論。日本天文学会第17回林忠四郎賞受賞。著書多数。
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