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マンスリーデルタV 2019.2月号

NASAビール王者決定戦

今年もあの季節が近づいて来ました。
NASAの研究所が各々のプライドをかけて勝負する、あの戦いが。
勝者のみが勝ち取る称号。それを人はGallopingnautと呼び、NASAで働く人間はこれを勝ち取るために日々努力をしていると言っても過言ではありません。

皆さんももうお気づきでしょう。そう、それはInter-center Competition。
略してICCが4月に近づいて来ました!

ここまで読んで何じゃそりゃ?と思った方もいるかもしれませんが、このICCについてじっくり説明したいと思います。

人間が一番能力を発揮する時。それはオタクになった時です。
みなさんの周りにもいるかもしれませんが、僕はオタクの中でも一番手強いオタクは工学者や科学者がオタクになった時だと思っています。まずは理論武装をし、人目も時間も気にせず改良に改良を重ね、完全なる自己満足の世界にどっぷり陶酔します。完璧が無い世界の中で自分の限界に常に挑戦していく、そしてそれを乗り越えていくプロセスが楽しいのだと思います。

そしてそのオタクがもしビールというベクトルに向いたらどうなるか…
そう、ICCが誕生するのです!

ご存知の方も多いかもしれませんが、僕は家でビールを作ります。
そして驚くことなかれ、JPLには自家製ビールクラブ(homebrew club)が存在し、勿論同じように他のNASAの研究所にもビールクラブは存在しています。その自家製ビールクラブの頂点に立つ者、それを決めるのがICCです。
個人でビールを作る人もいますし、数人で集まってビールを作るケースもあります。

ルールは簡単。毎年決められたお題を元に、一番美味しいビールを作る。それだけです。お題とはビールのカテゴリーで、毎年変わります。例えば去年はEuropean Lager (BCJP4)とGerman Wheat (BJCP 10)でした。カテゴリーが複数ある場合はそれぞれのスタイルの1番を決め、そのうちの1つがNASAの頂点に立つことになります。

* ビールのカテゴリーはBJCPの2015年版を基準にしています。https://www.bjcp.org/docs/2015_Guidelines_Beer.pdf

ここで大事なのは「とりあえず美味しいビールを作る」のでは無くて、「決められたスタイルの中で美味しいビールを作る」ことです。普段作らないスタイルのビールもお題になりますし、熟成時間が必要な物など、色々な要素を考えてビールを作らなければいけません。色やアロマ、そして味、泡の持ち具合等様々な要素が点数になります(50点満点: https://www.bjcp.org/docs/SCP_BeerScoreSheet.pdf)似ているけど間違ったスタイルのビールを作ってしまい、美味しいけどカテゴリー違い、なんてこともあります。

今年のお題はStrong Beerで、4つのカテゴリーがあります。
BJCP 9: Strong European
BJCP 17: Strong British
BJCP 22: Strong American
BJCP 25: Strong Belgian

僕は今年はStrong BritishとStrong Belgianで勝負しようと思っています。理由は簡単で、普段作らないビールだからです。こういう時に新しいスタイルのビールを作ってビール造りの感覚を養っています。

ここまでICCの概要についてお話しました。
しかし何十人ものビールを飲み比べするのも大変ですし、そもそもそれぞれの研究所は州さえ違いますから、1箇所に集まる訳にもいきません。
そこでどうするかというと、まずは研究所ごとに行われる予選(downselect)を勝ち抜かなければなりません。それぞれの研究所からカテゴリーごとに2本(2エントリー)のビールを選び、それをホスト研究所に郵送します。この予選会は各ビールクラブのメンバーが行うのですが、最後の品評会には必ず最低一人はビール検定の資格を持った審判が呼ばれることになっています。去年はラガーとドイツ小麦ビールと全く違う2つのスタイルがお題だったので、二人の資格を持った審判が呼ばれました。

* 去年はJPLがホスト研究所だったので僕も品評会を覗きにいきました。
* 僕は過去3度ICCに挑戦していますが全てJPLの予選会は通過しています。本戦では不覚にも全敗です。

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ということで、このICCがどれだけ大事な大会かご理解いただけたと思います。お酒が無いところに人間は行きませんので、人間が宇宙での活動範囲を広げる上でもビール造りは大変重要なことだと思います。いつかは僕たちの活動にも予算がついてnasa.gov/homebrewなんていうサイトがオープンすれば良いなと思っています。アメリカの在住の皆さんは是非ご在住の州議員に働きかけてみてください!
ボーナスとして昨日作ったStrong Belgian の製造過程をビデオにまとめました。50分近くと長いですが、実際には丸一日掛かりますので、これでもかなりコンパクトにまとめられています。興味のある方は見てみてください!

内容はBelgian Tripelを5ガロン作る工程です。酵母を入れた後は1週間〜2週間発酵させ、1週間コンディショニングをして、そのあと瓶詰め・樽詰めをします。
準備: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ
* 大きい方の鍋は5ガロンと言ってますが8ガロンほど入ります。

* 重力使って…と解説している道具はサイフォンです。すぐに単語が出て来ませんでし
た。

発酵中のビール: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=229
Mashing 1: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=459
Mashing 2: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=666
Sparging 1: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=729
Sparging 2: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=977
Sparging 3: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=1126
Boiling 1: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=1250
Boiling 2: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=1330
Boiling 3 (ホップ投入): https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=1398
Irish moss and yeast nutrient: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=1596
Belgian candi: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=1807
Aroma hop : https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=1911
Wort chiller 1: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=1948
Wort chiller 2: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=2137
● 摂氏:華氏の比は2.2ではなく1.8でした。
Wort transfer (carboy): https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=2292
Yeast投入: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=2569
完成: https://youtu.be/KTNdcXfAjBQ?t=2860

高橋さん

高橋雄宇
《プロフィール》
JPLで働くナビゲーションエンジニア。Dawn, Juno, OSIRIS-RExの軌道決定 ・Radio Scienceに関わる。専門は小惑星周りの軌道決定・重力場のモデリング。エンジニアは仮の姿で、本当は自家製ビールの向上に日々汗を流している。

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