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マンスリーデルタV 2019.12月号

ジュノーの Go!

気が付けば 12 月、もう 2019 年も終わりですね。地球が一年で太陽の周りを一周する間に、木星は太陽の周りを約 30 度回りました。つまり、木星が太陽の周りを一周するのに 12 年ということです(30 度 x12=360 度)。僕はこの 12 月を去年の 11 月から待ち遠しく待っていました。クリスマスやお正月、それが理由ではありません。

何を待っていたかというと、”Solar Conjunction”を待っていたのです。
この Solar Conjunction、日本語では「合(ごう)」と言うらしいです。この合というのは、地球から目的の天体を見たときに太陽がちょうど間に入ることを言います。要するに、太陽を挟んで地球と天体が反対側にあるということです(一番お互いの距離が遠い)。

何故僕が 13 ヶ月も木星の合を待っていたのか?それはズバリ、「ジュノーの仕事をしなくて良いから」です! なんと不純な動機かと思う方もいるかもしれませんが、休みたいと思うのは人間ですからしょうがありません(笑)

何故仕事をしなくて良いかというと、データが来ない。つまり、衛星との通信が出来ないからです(正確に言うととっても通信がしづらい)。衛星との通信では電波を使いますが、合の時はこの電波が太陽のプラズマの影響を多大に受けます。言ってみれば、台風を横切ってながーい糸電話を仕掛けて会話をする、みたいな感じでしょうか。ただの糸電話でさえ聞こえづらいのに、台風が糸の上を横切っては会話が出来るわけがありません。

この合のときにはこちらから衛星にコミュニケーションが取れないのは勿論、衛星が取得したデータも地球に送れませんから、運用チームには色々な規制が課されます。例えば、コミュニケーションが取れないときに軌道変更して衛星を見失うリスクや、地球に送信できる科学データ容量の制限、などです。合というのは突発的な事象では無く連続的な現象ですから、段々と衛星とのコミュニケーションが取りづらくなります。それを予期して何ヶ月も前からプランニングするのは運用チームの腕の見せ所でしょうか。

ここで話を戻して、先ほど木星が 1 年で太陽の周りを 30 度回る、という点に戻りたいと思います。というのも、合は必ず同じ場所で起こるのではありません。一年後に地球はまたほぼ同じ場所に戻ってきますが、その間に木星は太陽の周りを 30 度進んでいます。なので、合になるためには地球はもう 30 度進む必要がある。地球は太陽の周りを約 1 度進みますから(365 日で 360 度)、つまり 1 年と約 30 日=約 13 ヶ月後にまた合が起こることになります。この周期を”Synodic Period(会合周期)”と呼びます。合がまた会
うその周期ですから、とてもすっきりした表現な気がします。

2019-12月号-デルタⅤ高橋さん1

今回の木星の合は丁度クリスマスに当たります。連休と重なって、最高のタイミングなのでとても待ち遠しくしていました。人生初、本物のクリスマスツリーを買って、装飾こそ大層なものはしませんが休暇の準備は万端です。そして次回の合は 2021 年の 1 月から 2 月にかけて。日本行きのチケットは 1 月が安いと友人から伝え聞いたので、次は日本に帰ろうかなぁなんて早くも計画を立て始めています(笑)


高橋さん

高橋雄宇

JPLで働くナビゲーションエンジニア。Dawn, Juno, OSIRIS-RExの軌道決定 ・Radio Scienceに関わる。専門は小惑星周りの軌道決定・重力場のモデリング。エンジニアは仮の姿で、本当は自家製ビールの向上に日々汗を流している。

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