ある午後/夜
7時間の時差がある上、LINEだけでの彼との会話は時々反応に困る。お互いの出方を見ているというか、探りを入れてるという状態が続くと、言葉が途切れる。
私たちはお互いのことを知らない。だから少しずつ、彼を知ろうと近づいてみる。今日はそこにいて、ただ話をしている。もうすぐ、彼は眠らないといけない時間だし、私はそろそろ帰宅時間。ほんの少しの間、何気ない話をする。
私は最近私自身の写真メールをよく送る。理由などあまりないが、一度嬉しいと言われて以来、喜ぶのであればと、上手く撮れたものをLINEで送る。大抵は外出先で景色がよかったり、天気がいい日に撮る。
先日、会話の途中で、突然彼は会話の均衡を崩した。私は戸惑う。でも、今日は手を差し伸べてあげたいと思った。そばにいてあげられられない代わりに。彼は多くは求めなかった。ほんの少しガードを緩めればいいだけだった。
彼の想像する私について時々考えてみる。実際よりもきれいなのではないかと、とても心配になる。実際に会ってがっかりさせたくはない。最近痩せてしまって、色気などない自分の体を鏡で見ているので、そう思うのだ。
出会った頃、長身の彼は私が送った写真を見て小柄に見えると言った。私は日本人としては、中肉中背なので、特に大柄でも小柄でもない。
夫もかなり上背があるので、夫が私の写真を撮ると、私は実際よりも小柄に見える。ただそれだけだったけれど、説明ははぐらかした。彼の好みではないのかと少し悲しくなったが、そういう意図でコメントした訳でもなさそうだと後になって気づいた。
なんとなく、私たちのプラトニックな関係はすでに終わってしまっているような気持ちになる。
彼は私と知り合ってから何度、彼の描く私像と関係を持ったのか、私には知るよしもないけれど、そんなものだとは思っていた。今日はそれを私もはっきりと受け入れた。少し混乱はしたけれど、後悔はしていない。
私だけだろうか。実際に肉体関係を持つよりも、こういう関係の方が何倍も怖い。言葉は記憶に残りやすい。ものすごく暗い未知の世界に引きずり込まれる、そういう感覚。私は少し震えていたと思う。
彼の側も少し賭けに出たのかもしれない。このまま平行線では苦しいのだろう。以前の私だったら受け入れられていたかどうか、自分でも分からない。夫でない男性が、私の裸体を想像しながら快楽を得る。その事実を突きつけられて、私はそれを受け入れた。そして私はそれを嫌だと思わなかった。自分自身に驚く。
今日はいつもの通りの彼だ。言葉は少ないが、何かいいたそうで、何も言わない。
最後のおやすみのスタンプに既読がつかない。
眠ったようだ。私はそれでも幸福感に満たされる。