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眠りにつくまで

元彼は常に私が恋しいと、今すぐ会えたらいいのにと言った。

僕は君がここにいると想像しながら眠るんだと。髪の匂いとか肌の感触とか考えると気持ちが落ち着いて眠れるから。

それは私も同じだった。ベッドに横になり頭の中の元彼の声に耳を傾ける。そうすると不思議なくらい落ち着いた。

昨日はおはようの挨拶があっただけで、一日中音信不通だった彼から真夜中におやすみとメッセージが入った。

彼にとっては土曜日の朝。まだベッドの中にいるらしく、眠っても疲れが取れない様子。いつものように淡々とした短いメッセージ。でも少しだけ甘えたい様子が窺える。

彼は寝つきは悪い方だとLINEのやり取りから知った。仕事や家庭でのストレスがあるのだろうか。

まだ会ったこともないけれど、彼も元彼と同じように私を抱きしめながら眠るのだろうか。そこに安らぎを見出しているのだそうか。もちろん怖くて聞けはしない。

私は違う。元彼と別れてから今の彼とつきあうようになっても、ベッドの中では一人だ。

最近、特に寝つきが悪い。そうするとつい携帯に手を伸ばしてLINEを開けてしまう。

そこに彼がいて、早く寝なさいと、いつものように短い優しい言葉で言ってくれるとやっと安心できる。

元彼の声や手の感触を振り払いながら眠らなくて済む暮らしは少し甘美で、それでいて物悲しい。

おやすみを言える相手がいる幸福を噛みしめる。

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