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事のはじまり

申し分ない暮らしなのに、満たされないってどうしてだろう。

目を背けてきた問いだった。

私は愛情表現が苦手な女だったと思う。

愛情って口に出して言うごとに大きく育つんだよって元彼は言っていた。

愛してる。と元彼は自身の母国語で何度も、何度も優しく言ってくれた。夢のようだった。なんて綺麗な発音をするんだろう、心地よい声。

欠けていたピースを見つけるって陳腐な言い方だけれど、その通りだった。

愛情が深い分、失望も大きい。

終わりは、ただ怒りと失望で一杯で、二人で築いたと私が信じていたものが、一瞬にして消え去った。

胸の痛みに耐えられなくて、元彼からメールが来ないか待つ日が続いた。自分がこれほど愚かだとは知らなかった。涙より苦笑が漏れた。

彼に出会ったのは、元彼にもう二度と会わないと決意して間もない頃。新しい出会いで過去に蓋をしてしまおう。単純な考えだった。友達?セカンドパートナー?

彼を選んだのは私が先だった。

どうして俺なんですか?

その問いに、いろいろ言い訳したけれど、本心は元彼と正反対の性格だったから。でもそんな事言える訳がない。

彼は恐らく愛されることに飢えていたんだと思う。

そして私は愛することに飢えていた。

口数が少ないところも、愛情表現が下手なところも、正反対。

最初は彼か元彼のどちらに話しかけているのか分からなくなる事が多かった。

つい、愛してる、会いたい❤️などと書いておやすみを言いそうになったり、おはように💋を付けてしまいそうになったり、混乱しないように注意を払った。

癖というのは恐ろしい。私は多分気づかないうちに彼との距離を縮めてしまっていた。

向こうは私に気があると確信したに違いない。そして本当にその通りになった。

友達でなく、もっと深い関係になりたいという内容のメッセージが短い言葉で送られて来た。

好きだ。とも言われた。

気持ちが横滑りしないように、その気持ちに答えられるように、とにかく彼だけを見ようと決めた。

付き合いはじめて、癒されるのを感じた。そして、気がつくと本気で好きになっていた。連絡が入らないと胸が苦しい。

まだ言えていない、愛してるという言葉を言ってあげられる日をひたすら待ち続けている。

縁があるかどうかなんだと彼は言う。縁がある事を今では心から渇望している。

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