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すずめの戸締まり PCゲーム版の思い出

はじめに

この記事にはハチャメチャなネタバレが含まれているので、映画を見ていないひとは即バックしてね。







ついに公開!アニメ映画版「すずめの戸締まり」

2022年11月11日、2019年公開の「天気の子」以来約3年ぶりの新作アニメーション映画「すずめの戸締まり」が公開されました。公開初日がホリデーシーズンでもない平日の金曜日なので、腕組後方彼氏ヅラした新海誠のオタクくらいしかまだ見ていませんが、週明けにかけて続々と感想が書き込まれていくでしょう。

PCゲーム版の思い出

当時の評判

さて、この作品にも「天気の子」と同様にベースとなるゲーム版が存在します。男性向けキャラクターデザインで女性主人公視点というゲームはそれほど多くないので当時は注目を集めましたし、当時は発生してから日の浅い、大震災をテーマにしている点を発売直前まで隠していたことで批判を浴びました。しかしながら、PCゲームという市場の小ささから一般層にはその批判は波及せず大きな騒ぎにはならなかったこと、ストーリー・アートワークの出来が素晴らしいという評価が広まるにつれ、徐々に批判は鳴りを潜めていったことは記憶に確かです。

「天気の子」はPCから移植当時の現行ハードであるPS2に移植されましたが、PS4/XBOX ONEとゲームハードの世代が進んだ「すずめの戸締まり」ではコンシューマ機には移植されませんでした。理由は様々考えられると思いますが、震災がテーマに含まれる点がボトルネックになったのかもしれません。当時のアドベンチャーゲーム移植はPS Vitaが主戦場となっており、新海誠氏が描く壮大な世界を携帯ハードでは表現できないと判断されたのかもしれませんね。

話を戻しましょう。

ゲームシステムについて

PCゲーム版「すずめの戸締まり」のゲームシステムは一般的なアドベンチャーゲームに簡単なQuick Time Event(QTE)を挿入し、プレイヤーに対して時間制限のある判断を求めるようなものでした。本作品はアクションシーンが多く、主人公・すずめが「跳ぶ・跳ばない」「アイテムを使う・使わない」などといった選択をQTEでプレイヤーが判断しながら物語を進めていきます。実際には、このQTEでの選択はどのように選んでも良い場面も多く、一部の選択肢を除いてはどれを選んでも同じ結末にたどり着きます。
QTEの結果で物語が分岐するものとしては、神戸の観覧車内に現れた常世に入ってしまった場合や、東京での巨大ミミズ戦において要石を刺さなかった場合などがあるものの、いずれもすぐにバッドエンドに突入するため物語のフラグに関わるものはありません。
映画版ではバッドエンドの要素はほとんどオミットされていましたが(神戸の観覧車はかなり危なかった)、これらの内容は悲惨なものがほとんどなのでそれで正解でしょう。
のちの開発者インタビューでは、フラグにたいして影響しないQTEを用意した理由として、プレイヤーがすずめに同調して思考してもらうということを目的としていたと述べられています。

PC版のストーリー

「すずめの戸締まり」のストーリー構造も昔からよく使われている美少女ゲームのフォーマットに類似しており、一周目は真のエンディングに至ることができず、二周目以降で一周目とは違うルートを辿りながら真のエンディング(トゥルーエンド)を目指すことになります。
今回の映画化は共通ルートと二周目以降に入れるトゥルーエンドルートがベースになっています。余談ですが、ボーナスシナリオで描かれるキャンパス編から草太の悪友・芹沢が登場し、コメディリリーフを兼ねた重要な役割を果たす点はファンサービスとしては素晴らしい内容でした。

さて、PC版トゥルーエンドは映画を鑑賞した方はご存知の通り、「草太はダイジンから押し付けられた要石の呪いから解放され、主人公・すずめとともに常世から帰還する」というほぼ同様の内容です。
このように日本も草太も救うことに成功しますが、一周目のエンディングではそうなりません。

作品のループ構造について:椅子のある世界とない世界

PC版ではバッドエンドも含めて様々なルートが存在しますが、トゥルーエンドルート開放条件となるエンディングでは、次のような筋書きを描きます。

「草太を要石から解放できなかった主人公・すずめは、サダイジンの要石を使ってミミズを封印し、一人で常世から帰還する」

このルートでも日本は救われたので犠牲は悔しいがまずまずのエンドでは…?と思うかもしれませんがそれは違います。このルートでの最大の問題点は、草太が救えないことではなく「三本脚のいす」を回収できない点です。
トゥルーエンドルートの終盤で「三本脚のいす」は未来のすずめから、過去のすずめに手渡されたものであることが示唆されています。一周目のエンディングでは椅子に変えられてしまった草太を解放できないため、過去に「三本脚のいす」を受け継ぐことができなくなります。ここで「三本脚のいす」がある世界とない世界に分岐してしまいます。
一周目のエンディングでは「ない世界」の未来の一部が、帰還したすずめの夢として描かれます。筋書きはこうです。

「椅子のない世界」では草太が要石にならず、ダイジンも役目を拒否したまま。このため中盤の東京での戦いにおいてミミズを抑えることができず、甚大な被害が発生してしまう。瓦礫の山と化した東京を前に呆然と立ち尽くすなか、地震速報のアラームで現実に引き戻された主人公・すずめは、日本も草太も救うことを決意し、エンディングテーマ、タイトル画面へと戻る。

「すずめの戸締まり」の物語は閉じ師(の代行)として後ろ戸を閉じることに目が行きがちですが、椅子にまつわるループ構造も閉じなければなりません。

"最初の"椅子はどこから来たのか

アニメ映画版では常世にまつわる説明はほとんどなされないため、この世界における平行世界や時間の流れの説明ももちろんありません。そうなると、椅子はどこから来たのかという疑問が生じるのは当然と言えます。
映画版での椅子の所有権の移り変わりを整理すると

  1. 椅子はすずめの母がDIYして制作したものである(母→すずめ(過去))

  2. 椅子は3.11のときに失われた(すずめ(過去)→なし)

  3. 現代のすずめは椅子を持っていて、その椅子は未来から継承されたものである(すずめ(現代・未来)→すずめ(過去・現代))

これだけ見ると2と3の間が繋がってないのですよね。最初の一つの椅子がないのです。いくら常世がすべての時間が繋がっている世界とはいえ、無いものは渡せない。
この謎の答えはゲーム版をプレイするとすぐにわかるのですが、入手困難なのでほとんどの方は知らないでしょう。
ゲーム版では平行世界の存在が一周目エンディングによって明らかにされており、常世も時間と世界を同じくつなぐものとして扱われています。したがって「3.11で椅子が失われなかった世界」があっても良く、最初の椅子はそのような世界から受け継がれて来たものとして考えれば良いわけです。

二周目の世界であることを意識すると

「すずめの戸締まり」の物語冒頭は唐突に物語の風呂敷が展開され、すずめの行動もかなりダイナミックだと感じたと思います。しかし、二周目に入ったことでこの物語がループしているとわかると、それらが持つ意味合いが変わってきます。
どこかで会ったことのあるロン毛のイケメン、予感に突き動かされ廃墟へと走る、やったこともないのに戸締まりを手助けする…。ループ構造の物語ではよくある流れと認識できるはずです。
さらにここで一周目に経験したQTEが生きてきます、一度経験していることなのでプレイヤー=すずめ は即座に良い判断下せるようになっています。

映画版ではすずめはプレイヤーの分身ではないため、どうしてもこのあたりのニュアンスが伝わりにくくなっているのですが、すずめを死を厭わない女性として強く押し出すことで映画版なりの描写に成功しているように思います。

おわりに

唐突ですがこの記事は大体ここで終わりです。あの「すずめの戸締まり」の原作者本人が手掛けるアニメーション映画化ということで、取り留めもなく当時のことを思い出しながら書きたくなってしまいました。また何か書きたくなったら書くと思うし、恥ずかしくなって記事を取り下げることもあるでしょう。それでは。

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