見出し画像

「東京の悪意」はぎわら水雨子


評論家:平岡公威役・・・はぎわら水雨子


評論家って一体なんだろう。
何かを評して論じる人。
ニュースを観ていると必ずと言っていいほど何かの評論家に出会う。
評論家だなあ、と思う。
そして、評論家たちが喋る言葉に耳を傾けているかというと、そうではないなあと思う。
評論家って何をもって評論家なんだろう。たぶん特に資格がいるわけではないだろう。
わからなさすぎて、中身が進まないまま7行目に突入してしまった。

この劇に出てくる平岡公威(ひらおか・きみたけ)という男は、評論家である。
そしてある意味一番ブレないというか、世界に迎合し、迎合されている人間だなと思う。
誰かの世界にいとも容易く介入し、評論という名目で色々なことを好き勝手に質問したり、知識を披露したりする。そのおかげで十和田という繊細な監督は憔悴してしまう。

以前、演技ワークショップの講師にこう言われたことがある。
「自分だけは役の味方でいるんだよ」とても同意である。
どんなに周囲から嫌われていても、自分だけは自分の役の味方でいる。弁護人でいる。
私もいつもそう思っているのだが、平岡は唯一そういった受け取り方をする役ではなさそうだなと今のところ思っている。
ただ、実はネガティブな意味ではなくて、平岡のことを登場人物として嫌いとか演じたくないなどとは思っていない。むしろわくわくしていると言ってもいい。
なんでかというと、自分の悪意的な行動、無自覚に見えて自覚的な悪意、それも一見硬質で清潔な、正しいように見せかけられている悪意ーー露悪を発揮できそうだからである。

私は最近悪意のことを考える。
この『斗起夫』の稽古で何度か演出の大和さんから「どうしてこういう言い方をしてしまうんだろう、というようなコミュニケーション」というキーワードが出てきている。
私はそれがすごくわかるし、それこそまさに人に眠る悪意と呼べるものなのではないかと思う。
誰も、相手を傷つけようとして傷つけるわけではない。
人の気持ちが分かり、『優しい』『正しい』とは何かをよく理解している人なら尚更である。
しかし、そういう人こそ、自分の中に眠る悪意がふいに顔を出し、相手にぶつけてしまった時に、衝撃と悔恨でたまらなくなるのだ。

「限界」である人が、この世にはーー日本にはいっぱいいると思う。
何かのゲージが、頭の近くまでたぷたぷなのだ。そんなイメージ。
たぷたぷと水がたまったグラス、表面張力で天面の膨らんだグラスが、人とのコミュニケーションで少しだけ揺れる。ほんの少し、水が溢れる。その水が人にかかってしまう。
そんなイメージ。

東京に上京してから、他人の『悪意』に触れる機会が多くなったなと思う。
すれ違いざまに、ふとその悪意をぶつけられたりすることがたまにある。
上京前ももちろんたまにそういうことはあったけど、東京の悪意というのは、鋭く、相手にぶつけられる前は無色透明なので気づけないので厄介だ。

そして冒頭でも言った通り、私にも悪意がある。
それもふいに、意図せず誰かに鋭いものを押し付けてしまう時があるし、いつでもその可能性を秘めている。
悪意をどう飼い慣らすか、コントロールするか、ということは、普段の生活以上に創作において非常に重要なテーマである、と思う。
悪意は時にエッセンスになるし、うまく扱えば作品を面白くする要素になり得る。うまく扱えば。

…と、ここまで色々書いたけれど、平岡という人物はなんというか鼻持ちならない人間というか、私自身一番苦手とする人かもしれない。
平岡は、「自身の悪意をうまく隠匿しコントロールし、かつクールに露悪的でいられる人間」だと思う。
しかし、自分が苦手…ということは、つまりは私にもその要素があるということだ。

そんな事実をうーむと見つめながら、この油断ならぬ平岡という人間をどう演じるか、自分の善意や悪意とにらめっこしながら、最後まで考え抜いてみようと思う。

・・・前回記事「斗起夫くんについて」新堀隼弥はこちら

はぎわら水雨子(食む派)


1993年生まれ。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科在学中に舞台の活動を始める。 
近年は主に俳優として活動する傍ら脚本を執筆したり、大学で学んだデザインを生かしながら舞台専門 の宣伝美術家としても活動している。 また、2022年1月に演劇ユニット 食む派を立ち上げ。脚本・演出・宣伝美術を担当し、すでに2回の公演を行い、第28回 劇作家協会新人戯曲賞 一次審査通過、若手演出家コンクール2022 一次審査通過など、独特の言語感覚と生活や食に焦点を当てた作品づくりが注目を浴びている。
(「はぎさん」と呼びたくなってしまう。はぎさんだけがもつ世界の見方がある、稽古場でひとりツボに入っている時があるから。編集:石塚より)

俳優としての主な出演作
チーム夜営 vol.4『衛星の兄弟』於・横浜のげシャーレ 脚本:大竹竜平 演出:小林弘樹 
舞台芸術集団 地下空港『花園 HANAZONO』於・座 高円寺1  脚本・演出:伊藤靖朗 
Q『バッコスの信女−ホルスタインの雌』於・愛知県芸術劇場 小スタジオ、城崎国際アートセンター、 神奈川芸術劇場 大スタジオ 脚本・演出:市原佐都子 ※第64回岸田國士戯曲賞受賞作品
ほろびて『ポロポロ、に』於・北千住 BUoY 作・演出 細川洋平
など。 

【次回情報】
2023年3月15日(水)〜21日(火・祝) 視点『SHARE’S』参加作品 食む派『冷やし中華いななき』@座・高円寺1 脚本・演出

2024年1月下旬 こまばアゴラ劇場 2023年度 [秋冬]ラインナップ 主催プログラム 食む派『ファミリーレストランの肖像』@こまばアゴラ劇場 脚本・演出

【お仕事依頼】
はぎわら個人... grillchicken123@gmail.com / 食む派... 8ham6uha8@gmail.com

食む派とは? 
はぎわら水雨子が主宰する演劇ユニット。
2022 年 1 月立ち上げ。読み方は「はむは(hamuha)」。 
はぎわら水雨子個人のひとりユニット。 ユニット名は、食を中心に生活を考える気持ちと、柔らかくもどこかシュールで少しグロテスクな響き から由来して名付けました。 生活や暮らしの身近なモチーフを、コミック的表現を用いてしれっと風変わりに取り上げ、 最終的に「そう言われたらそうかもしれない」と妙な納得感をもたらす作風が特徴です。 

【公演歴】
2022年
4月 佐藤佐吉演劇祭2022関連企画「見本市」参加作品『パへ』@北とぴあカナリアホール
10月 新作本公演『ウインナ売り』@三鷹SCOOL

WEBサイト= https://hamuha.themedia.jp
Twitter=食む派@868hamuha868 / はぎわら個人@bintorochan

『斗起夫 —2031年、東京、都市についての物語—』

世界を、広く、大きなものにしていく——

世界を主体的に生き抜くために、行動を起こし続けることを選択した斗起夫は、父が死んだ日に「運命の人」とめぐり逢う。ぎこちない不自然なコミュニケーションが、人間同士の溝を深め、やがて過去のトラウマを喚び起こす。そして、彼はあることを決意するだろう……。オリジナル小説から産み落とされた精確な筆致、言葉の数々。ぺぺぺの会、渾身の傑作長編。


【作・演出】

宮澤大和(ぺぺぺの会)

【公演日時】

12/28(水) 12:00 / 18:00

12/29(木) 12:00 / 18:00

12/30(金) 12:00 ★

★:年越しトークイベントを開催いたします。

上演時間は3時間を予定しております。(途中休憩込み)


【場所】

北千住BUoY

【予約(クレジット前払・当日精算)】
Peatix:クレジット前払・当日精算(ログインが必要です)
カルテット:当日精算のみ

【ぺぺぺの会HP】

https://pepepepepe.amebaownd.com/

【ぺぺぺの会Twitter】
https://twitter.com/pepepe_no_kai

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?