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波長

陽子さんは中学生の頃、楽しみにしていた番組があった。推しのタレントが出演する、週末のバラエティ。内容はオールジャンルで、時折取り上げる心霊写真のコーナーが目玉になっていた。陽子さん自身も怖いもの見たさではあるが、楽しんでいた。その感想を週明け、学校で仲の良い友人と話すことも楽しみだった。

けれどプロカメラマンである陽子さんの父は、よくそのコーナーを見て笑っていた。真剣に画面を見る陽子さんに対し、冷や水を浴びせる。
「なぁ陽子、こんな子供騙しの写真を見て面白いか?」
「いちいち水をささないで」
そんなやりとりする。もちろん彼女自身、信じてはいない。好きなタレントが驚き、叫ぶ姿を見るのが楽しいのだ。
陽子さんはどんどんムキになり、反論する。その度に父から事細かに、取り上げられた写真の説明を受ける。やれ光の加減だ、影だ、ヤラセだ。徹底的に論破される。

そんなある日、陽子さんは、放送されているバラエティ番組にかじりついていた。番組中盤に差し掛かり、心霊写真コーナーが始まった。釘付けになっていると、父がリビングへ入ってきた。
「本日のラスト、過去一番の恐怖写真を見てもらいます!ですがその前に!」と司会が話す。クライマックスの前座の心霊写真だ。いつも通り、父はその写真がインチキだと説明するのだろう。陽子さんはうんざりした表情でテレビから目を離す。タレント達のはしゃぎ騒ぐ声が聞こえてきた。気になり、顔をテレビに向けようとした瞬間、父が前のめりになりながらテレビを消した。
「何するのよ急に!見たいのに」
「テレビに映して良いもんじゃないあれは」
「いつも偽物だって馬鹿にしてる癖に」
「ごく稀にあるんだよ、見ちゃいけないやつが。波長が合ったら終わるぞ」そうボヤいた。テレビは消されたままだ。結局陽子さんは番組の続きを見ることを諦めた。
流れた前座の心霊写真がどのようなものかも分からない。
「来週友達に聞いてみよう」
週明け、教室の席に着く。けれど友人がいつまで経っても現れない。陽子さんは気になり担任に詳しく聞く。どうやら友人は週末、自宅で急に錯乱してしまい倒れたそうだ。原因は不明だが、楽しみにしていたバラエティ番組を見ての最中だった。結局友人は2度と学校に戻ることはなかった。陽子さんが見ることが出来なかった、あの心霊写真をきっと目にしたのだ。そして父が言うように、友人は「波長が合ってしまった」のかもしれない。

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