この世は無常、失くすな愛情

タイトルでご機嫌に韻を踏んでいるが全然そんなテンションのお話ではない。
めちゃくちゃ死にたかった。並みの死にたさではない。
それはもう、死にたくて死にたくて震えるほどに。
そんな、去年の冬の話。

恋人と別れた。それだけだった。あまりにバカだ。
でも当時のわたしにとってはそれが世界の全てだった。
大学進学を機に地元から離れた上にご時世のこともあり、他のコミュニティはほとんど無かったのがこれに拍車をかけていた。
恋ってそんなもんじゃないだろうか。相手の一挙手一投足に心を振り回されて、それでも全部が愛おしくてたまらない。相手が世界の主役で、ステージの中心で。
バカバカしい話だが、恋は盲目。それまで生きる意味を見いだせず漠然と彷徨っていたわたしにとって人生を捧げるだけの価値があると言えるほどに大事なものだった。

別れるというのは不思議なもので、ただ恋人関係を破棄するだけなのに時に死別のように重たい。たった一人の特別な存在が有象無象の中へと溶け出し、それまで積み上げてきた愛情を全部全部投げ捨てる。そんな儀式だ。
個人をその人たらしめるのは何か分からないが、この元恋人が既に""わたしのことが好きな恋人""でないのならば、それはもう立派な別人じゃあないだろうか。別れた時にわたしの恋人だったその人は死んで、わたしとは関係のない他人へと生まれ変わってゆく。

ちなみに人は3ヶ月もあれば全身の細胞が入れ替わるらしい。3ヶ月会わなければそいつはもうわたしの知っているその人ではないかもしれないということで。
別れてしばらく経ったある日、駅でその人を見かけたがとてつもなく遠い人のように思えた。あれだけの時間を共有していたのに。二人でたくさん話して、あちこち出かけて、相手のためにあれほど心を尽くしていたのに。信じられないくらいに他人だった。
今は何にハマっていて、どんな友達がいるんだろう。わたしのことをどう思っているのだろう。前は全部全部、知ってたのに。それすらもわたしの思い上がりだったように思えてくる。

もう二度と関わらないであろう大切な他人へ、これからの人生がせめて健やかなものであるようにそっと祈り、待ち合わせへと急いだ。



恋、きれいだよね。




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