息子には好きなだけ絵を描いて欲しいと思う、そんな親心の話
5才になった息子のコトは、絵を描くのが大好きだ。
特に最近、鉛筆をうまく握れるようになったからか、
「パパー! しろいかみ、くーださいっ!」
と、僕の書斎にやって来ては、コピー用紙を何枚か持って行くことが増えたように思う。
リビングの床にぺたりと座り、パウ・パトロールやトーマス、カーズといった、大好きなキャラクターたちのイラストを描くのが、最近のお気に入りである。
そして自分が納得のいくイラストが出来上がる度に、トテトテっといつもの足音を立てながら書斎に駆け込んできては、ポーズを決めてこう言うのだ。
「パパっ! しゃしんとってー!」と。
***
そんなある日の出来事である。コトは保育園から帰宅すると、「パパ、これ、じゅんびしてー」と、登園バッグを僕に渡してきた。
「ん? 準備?」
「そう。コトはね、えのぐで、おえかきしたいの。おうちでもできる?」
そう言って見せてくれたコトのバッグの中には、水彩絵の具のセットが入っていた。
保育園の先生からは、「コトくんは、絵の具を使ったお絵かきも好きなようです」、と聞いていたけれど、家でもやりたいと言ってきたのは初めてだった。
「えー? コトくん、上手にできるかなー?」
「コト、できるよ!」
「本当?」
「ほんと!」
正直に言って、僕はこのとき、まだ半信半疑であった。
特に水彩絵の具は、気をつけないと簡単に周りを汚してしまうし、家電なんかに水をこぼしたりしたら大惨事になりかねない。おうちでの水彩画は、なかなかリスキーである。
「コトはね、れんしゅうしたから、だいじょうぶだよ? だってコト、ねんちょうさんだもん!」
そう言って、コトは「えっへん」と胸を張った。
くそ、可愛い。コトくんの最近の必殺技である「年長さんだもん」が飛び出してしまった。そう言われると、マジで弱いパパである。
「よし! じゃあやってみようか」
と、僕は絵の具セットを取り出し、パレットと水を入れたバケツを準備した。コトが、にこにこと嬉しそうに絵筆を握る。
さて、お手並み拝見である。
***
「コト、なにをかこうかなー。パパ、きめていいよ!」
「えー。じゃあ、”木”を描いてみようか。むずかしいぞー」
「そんなのかんたんだよ。みててよ!」
コトは絵の具セットから緑色を取り出して、器用にフタを開けたかと思うと、パレットにぶちゅっと絵の具を出した。
そして、危なっかしい手つきで筆を水につける。ばちゃばちゃ。
……いつお水をこぼしてもいいように、使い古したタオルでも準備しておこうか。
「ちょっと待っててね。パパ、タオル取ってくるから」
そう言って、僕は洗面所に、古めのタオルを探しにいく。
しばらくして、いくつかのタオルを手にリビングに戻ると、
「パパ―、かけたよー!」と、コトが得意げに絵を見せてくれた。
…………!? え? フツーに上手くない?
僕は若干動揺した。
小さい子が描く木って、もっとこう、「まるっ! みどりっ!」って感じの絵になるもんじゃないの?
それが何? なんか、木の幹とか枝が、水墨画みたいになってません?(親バカ丸出し)
「うまくできたでしょ?」と、ドヤ顔でコトが言う。
「すごいよコトくん、これはめっちゃすごい!」
と、僕はコトの頭をわしゃわしゃと撫でた。
コトは「うわー、やめてよー」と言いながら、もっとくれ、もっと、というかのように、頭をこちらに差し出して来る。ははは、欲張りさんめ。
と、まぁ、そんなこんなで、すっかりお絵かきが楽しくなってしまった僕らは、2人でコトのお気に入りのミニカーの背景を描いて過ごしたのでした。
***
と、そこまで語って、僕は妻の方を見た。
「……以上が、今回のお話しになります」
目を合わせられない。一生の不覚である。amazonで注文した品を、ついついそのまま、リビングに置きっぱなしにしてしまったのだ。
「そう。それでパパは、ついついスケッチブックを買いたくなってしまった訳ね。わかる。気持ちはわかるけど――」
「――5冊まとめては、多くない? 」
「はい、すみません。つい、タイムセールだったもので。あと、コトくんがいっぱい描くかなーって」
ね? とコトに助けを求めると、
「コト、いっぱーい、かくよ!」
と見事な助け舟を出してくれた。
頑張って、これからいっぱいスケッチブックを使ってくれ、コトくん。
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