子供の手づくりカードゲームほど恐ろしいものはない、という話
とある夏の夜の出来事である。
5才のむすこのコトが不意に、「パパ! ママ! きいて! コトはね、すっごいおもしろいゲームしってるんだけど、やる!?」と、目をキラキラと輝かせながら聞いてきた。
断られることなど1ミリも想定していないその勢いに負け、僕と妻は「う、うん」と首をたてに振った。
すると、コトはすっくと立ち上がり、自分のおどうぐ箱から白い紙を何枚か、そして色鉛筆に筆ペン、ハサミなんかを取り出してきた。
「じゃあ、コトがじゅんびするから、パパとママはまっててくださいねー」
そう言って、コトはちょきちょきとハサミで紙を切り、小さなカードのようなものを作っていく。
「大丈夫? 手伝おうか?」
「だいじょーぶ! だってコトは、ねんちょうさんだもん!」
年長さん。
普段から1人でお出かけの準備が出来たり、歯磨きを上手にできるたびに「さすが年長さん! しっかりしてるねぇー!」とおだてているが故に、本人にそう言われると、何も言えなくなってしまう僕と妻である。
「じゃあ、任せるよ。指を切らないように気をつけてね」
そう言って、僕らはテレビをつける。と言っても、番組の内容なんて頭に入って来なくて、ただじーっとむすこの様子を2人で眺めることになるのだけれど。
むすこは、白い紙を小さく切って何枚ものカードを作ると、そこに鉛筆で、1から9までの数字と、何やら「あお」や「あか」、「みずいろ」や「みどり」といった文字を書き込み始めた。
「なんだろ、あれ」
「トランプ、かな……?」
なんていう僕と妻の会話が聞こえた訳ではないだろうが、コトがこんな風につぶやいた。
「えっとー、アイテムカードは、なしでいいよね。パパとママ、しょしんしゃだもんね」
あ、アイテムカード!?
っていうか、パパとママが初心者ってどういうこと!?
しかし、ここで突っ込んでしまうと、せっかく集中しているむすこの邪魔をしてしまうので、ぐっと我慢する。
「さて、こんなもんですねー!」
と、コトがぱっとこちらを振り返り、「おとなのみなさーん、できましたよー!」と朗らかに宣言した。
(余談であるが、コトは最近、パパとママをセットで呼ぶときには「おとなのみなさーん」と言う。たぶん、こども番組か何かのコンサートでの呼びかけのマネだと思うが、これがまたえらい可愛い。)
僕と妻がコトのそばに座ると、コトはニコニコと口を開いた。
「これはー、カードをくばって、じゅんばんにだしていくゲームです。いろとー、すうじがー、おなじだとオッケーなやつでーす」
「色と数字が同じだと出せるゲーム……?」
なんかこう……どこかで聞いたことがある気が……? と、僕と妻は顔を見合わせた。
「それでー、さいごの1まいになったら、こういいまーす」
「最後の1枚になったら、こう言う……?」
「そうでーす! おおきなこえでー、“ウノっ!“っていうんでーす」
「…………」
――UNOだったのか、これ!!!!!
な、懐かしい……!
そしてアイテムカードって、もしかして……
「ドローフォーとか、スキップは、むずかしいからナシねー?」
(今の子供は、ああいう英語のカードをアイテムカードって言うの……?)と、アイコンタクトで会話する僕と妻である。
***
と、まぁ、これで楽しく手作りUNOが楽しめたのならそれはそれで綺麗なお話だったのですが、現実はそう上手くいくはずもなく。
家族3人でむすこの手作りUNOをやってみたのですが、まぁ、フツーに難易度が高かったです(話すと長くなるので、ダイジェスト版でお送りいたします)。
***
「なんでぼくがもってるいろ、だしてくれないの!」と怒るコト。
「いや、待って……そもそもパパのところにもその色がないけど!?」と困惑する僕。
「っていうか、なんか色、多くない? UNOって、もっと色の数が少なくなかったっけ……?」と、何かに気づく妻。
「よっしゃ、1だね。2枚出せるぞ!」と僕。
「コトも1があるー! 3まいもあるー! いっきにだすぞー!」とコト。
「待って、私も1が3枚あるんだけどw」と妻。
と、まぁこんな感じで、30分経っても1時間が経っても、終わりの見えないむすこのお手製のUNOなのでした。
とはいえ。
これはこれでツッコミを入れながら和気あいあいでプレイができ、笑顔のあふれる家族だんらんの時間を過ごすことが出来ました――というのが、今回のお話。
***
余談ですが。
その後の休日、家の近くにあるショッピングセンターにあるおもちゃ売り場で、コトがUNOを発見して、
「えー!? これ、ほいくえんであそんでるやつだー! かう、かうー! これだと、ちゃんとアイテムカードがあるんだよ!!」
とテンションが爆上がりし、晴れて我が家にオフィシャルなUNOがやって来たのでした。
(ちなみに今のところ全く飽きる様子がなく、1日に3セットは対決を求められております。そして、コトが勝ち越さない限り満足してもらえないので、あえてむすこが持っていそうな色や数字を出したり、ドロー系のカードは温存しつづけたりと、やたらと接待プレイの腕が磨かれる僕と妻なのでした……)
***
むすこへ。
いつか君が大きくなって、誰かの親になる日が来たとして。こんな風に「お手製のカードゲーム」に振り回されるような日が来たら、パパとママは、きっとニヤニヤしながらこんなふうに言うと思うよ。
「その気持ち、めっちゃわかる!」と。
2022年8月 ぺんたぶ
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