見出し画像

アナザーラウンド見たのによくわかんなかった


絶賛するレビュー書こうおもって楽しみにしてたのに全然わかんなかったしこういう映画をよくわかんないっておもう自分にどうしようってむちゃくちゃ不安になってしまった.ごめん.


小島監督のツイート見てすごく楽しみにしてた.


アカデミー賞国際長編映画祭受賞のデンマーク映画で,他にもなんかいっぱい賞をとってるらしい.44 wins & 56 nominatis って書いてあった.映画に詳しくないからどれくらいすごいのかわかんない.日本だと大きな映画館でやるような映画じゃなかったし.幸い大阪にいたから映画館あったけど,田舎じゃもちろんなかった.そのせいでマッツファンが他県に遠征するしかないなって呟いてた.

公式の宣伝文句には「血中アルコール濃度を常に0.05%に保つと仕事もプライベートもうまくいく」とか書いてあって,マッツが酒を煽ってるシーンが切り取られてる.コメディってジャンルに括られてる.予告映像も見た.小島監督も傑作って言ってたしとにかくいい映画なのは間違いないし,お酒をたくさん飲むんだろうなって思って見に言った.

見終わったあとはよくわかんなかった.消化不良が否めなかった.ストーリーはわかったけどいまいち伝わってこなかった.笑ったり踊ったり怒ったりするシーンを感情的なBGMに乗せて見せるだけで背景が何もなかった.雰囲気はよかったけど雰囲気しかなかった.

最後のマッツが踊るシーンだけ誇張されて,それまでいろいろあったけどそれも含めて人生賛歌ですって言われて,とにかく人生は素晴らしいものですって無理やり納得させられて綺麗事にされたのを呆然と眺めてた.

こういう映画ってどう楽しめばいいんかなって思った.ごめん.マッツの演技もよかったし,映像は美しかったし,音楽もよかったし,けどセリフとストーリーは微妙だった.でもパンフレットはよかった.買うといい.


ストーリーについて.

マッツの演じる高校教師の主人公マーティンは非常に冴えなくて哀れなやつだった.仕事も家庭もうまくいってない.退屈そうにデタラメな授業をして生徒と保護者からクレームを受ける.家庭は冷え切っていて会話がない.

沈んだ気持ちを明るく保つための手段として酒を用意する.「血中アルコール濃度を常に0.05%に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」という理論を証明する実験に取り組む.すると楽しい授業ができる.家族との関係を立て直す,旅行に出かける.愛が再生する.

けれど酒があれば人生が全て上手くいくわけではない.飲みすぎて台無しになる.依存症になる.家庭が壊れる.離婚する.友達を失う.

映画のラストは,再び希望を得る.デンマークには特有のお祭りがあって,卒業生を街中で祝福する.それを背景に主人公が踊る.


なんの話.

主人公はどこにでもいるようなつまらない人間で,退屈に歳をとってしまっている.それでも愛と希望に満ちていた頃への憧れが手放せない.妻を愛したいと思っているし,仕事を愛したいと思っている.人生に活力を持って生きたいと願っている.それの立て直しがたまたまお酒だったっていう話.失敗や転落を恐れて何も踏み出せない今を変え,人生に小さな変化を起こすきっかけが例えば飲酒だったっていい.

けれどこの映画は酒を祝福する映画ではない.悪い面をもちろん描く.破滅を描く.

主人公を最後に救ったのは妻からの復縁を望むメールだった.酒に酔いしれる喜びより,結局一番大切だったものは人間関係だったり愛だったりする.それにやっと気づく.



つまらなかったの言語化.

1.全体を通して深みがない.主人公に物語がない.

ディテールが不足しすぎている.マッツ演じる主人公ですらどんな人間か最後までわからなかった.そのくせに,そんな主人公らにクローズアップした人生映画を見せられても彼らのストーリーに関心を持つ理由がない.

2.アイディアだけ

「血中アルコール濃度を常に0.05%に保つと仕事もプライベートもうまくいく」
酔っぱらって人生大逆転!? 4人の男たちが仮説の証明に挑む

映画全体をこのアイディアだけが先行して,キャラクター性とかストーリーが練ってないんじゃないか?ってくらい薄っぺらい.

ストーリーなんて始めからなくて,俳優に酒を飲ませて映画を撮ってみてどんなストーリーになるか実験しましたって言ってくれたほうがまだ納得できる.アイディアを補強するために,ヘミングウェイが毎日夜8時まで酒を飲みながら執筆活動をし数々の名作を残したとか偉人と酒のエピソードをあげるのはいいけど,キャラクターの過去をもっと補強しろ.

3.空っぽのセリフ

よく覚えてないから間違ってたらごめん.主人公と妻の会話に次のようなのがあった.

「あなたのことがわからないわ」
「僕も君のことがわからなない」

あまりに情報量のないやりとりで笑ってしまった.これをエピソードにして映像で伝える努力をしなければならないんじゃないのか?お互いがわからなくなってすれ違ってしまったことを映像にして描くんじゃないのか?マッツにこんな薄い台詞を言わせていいのか?俳優じゃないのか?

4.やっぱり主人公がわからない

主人公がどんな人生を送ってきたのか全くわかんなかった.ジャズバレエを習ってたから踊れるってのは冒頭で明かされたけど今は踊りたくないそぶりを見せる.昔は踊るのが好きだったのかもよくわかんなかった.今はなんで踊りたくないのか,ただそういう気分にならないから踊らないのか,もしくは単にもう歳だからなのかよくわかんなかった.

5.友情がない

主人公含めた四人でアルコールの実験を行う.彼らの間の会話が実験についてしかなくどれくらいの仲の良さかわからない.(このくらいの距離感が中年の友達の距離感ですって言われたらどうしようもない.)

6.過去がない

冷め切ってる現在から脱却して過去をもう一度愛し直すって落ちのくせに,過去は家族を愛していたのか教職を愛していたのか描写がない.沈んだ今に対して過去はどれだけ高いところから溺れたのか,過去をもう一度愛したらどこまで昇れるのか不明.

8.海に飛び込むラスト

人生賛歌を描きたいなら,主人公の自殺を仄めかすのはよくない.

8.結局酒とはなんだったのか

酒に飲まれてはいけないっていう今時小学生でも知ってる当たり前のメッセージしかない.飲酒についての他の回答を期待していたのに結局破滅を描かれてしまってがっかりする.


よかったとこ


1.パーミル

1‰ = 0.1%

勾配や角度や各種の計測値に利用されるらしい.
血中アルコール濃度の表示とか海水の塩分濃度.平均海水塩分濃度は35‰.

2.マッツ

マッツを見に行ったら画面にマッツがだいたい映ってた.

3.演技

冒頭のシーン.同僚との食事中に家庭はどう?妻とはどう?って聞かれたら言葉が出て来ず泣いてしまう.不仲や仕事のうまくいってなさを台詞抜きで俳優が表現してみせた.

4.音楽

音響がよかった.BGMが良すぎて感動を演出されてしまう.

5.人生はエンターテイメントではなくドキュメンタリー

まさにこれを描いた映画だった.劇的な誰かの人生に期待して映画を見にきて,実際にはつまらない人間の話だったことに失望すんな.

誰にも起こりうるような浮かない人生をそれはつまんないよねって言うと、現実はつまらないよって言うのと同義で現実を否定している気分になってしまう.

6.ラストシーン

教師であるマッツが踊ってそれを生徒が注目するっていうマッツ中心の絵ではなかったとこ.

7.哀愁

こういうのが中年に刺さるらしい.そうなるんかな.危うさが美しいとか不穏感が美しいとか哀愁が美しいとかいう価値観がわたしになかった.

8.シンプル

複雑なストーリーではありませんが、それがこの映画の良さでもあります

レビューのサイトに落ちてた感想.こういうレビューはわたしは書きたくない.


おわり

映画のレビューによくある「◯◯を観たいと思ったらどうぞお楽しみください,◯◯を観たいのであればこの作品はお勧めできません」っていう締め方しておきます.

アルコールじゃ人生は解決しないと破滅を知るマッツミケルセン演じる哀愁漂う男性を観たいと思ったらどうぞお楽しみください,コメディやライトな人間ドラマを観たいのであればこの作品はお勧めできません.