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予想:今後の理工系大学教員公募の方向性

 身の回りで見たり聞いたりした公募の結果を通じて、理工系大規模私大教員の公募の方向性の変化が見えてきた。これまで私立大学は難関大学を除いて研究よりも教育に力を入れてくれる人を採用していた。これは皆さんも感じたり、聞いたりしたことがあると思う。しかし、近年この傾向が変わってきているように思う。すなわち、教育力に多少難があっても研究力の高い人が採用されるケースが増えてきている(採用には分野の一致が大前提。その上で人柄等も加味された上での比較である)。またそれに伴って、理系私大の研究環境は劇的に改善されてきている。

 このように大規模私大が研究力の高い教員を採用しはじめているのは一体なぜなのか? その理由は少子高齢化、すなわち「18歳人口の減少」にある。私立大学の経営上、定員充足数の維持と入試を適正に実施できる志願者の確保が至上命題である。しかし少子化の進行にともなって定員の充足が十分にできない可能性も大きくなってくる。このような情勢のなか、大学経営を安定化させるためにはどうすればいいか?

 答えのひとつは「大学院の充実」である。前提として、大学院は私大にとって「儲かる」ということを指摘しておく。大学設置基準によって学部の定員に対する教員数は厳格に決められている。定められた教員数を超えて学生を入学させることは「基本的に」できない。しかも近年は定員厳格化の影響で定員を大きく超える入学者の確保が難しい状況である。しかし、大学院を充実させると学部定員に加えて大学院生を入学させることができる。その一方で、大学設置基準で規定されている学部の教員が大学院担当教員になるケースがほとんどなので、大学院専任の教員を新たに置く必要はない。すなわち、教員数を増やすことなく学生数を増やせる。教員に大学院手当や学位論文審査手当等を多少支払ったとしても、大学院生の払う授業料のほとんどは丸々大学の利益になる。大学にとって大学院生は学部生以上にコスパのよい存在である。当然、私大では大学院生も授業料以外に実習費や設備費を払うので、教員の研究費はそちらから捻出できる。教員にとっても大学院生の増加は自分の研究環境改善に繋がる。
(すでに地方国立大どころか地方旧帝大の研究費よりも、首都圏の大規模私大の研究費の方が多いところもある)

 このように大学院生は大学にとって金の卵であるが、すでに大学院進学率が頭打ちの状況であれば旨味は少ない。しかし、現時点で大学院進学率は10%程度である。大学進学率に比べればまだまだ大きく伸びる余地がある。これまで4年生で就職してしまった学生を大学院に入学させることができれば大学の経営を劇的に安定させられる。
(ちなみに4年生を大学院に進学する気にさせる方法はいくらでもある)

以上のような理由から、大学は積極的に大学院の定員を増やしたいと思っている。しかし、定員を増やす際に立ちはだかるのが文科省の「教員資格審査」である。結論からいうと、この教員資格審査に「マル合」で合格できる教員を揃えなければ大学院の定員を増やすことができない。教員資格審査は研究業績のみで決まることが多く、論文数が基準に達しない教員は大学院担当になれない。これが大規模私大の採用傾向が研究重視に変化している理由である。私大にこれまで多くいたであろう(現在でもいるであろう)、「教育や学内運営業務に力を入れるものの、研究は完全に諦め学会発表すらできない教員」では大学院担当になれず、そのような教員だらけでは大学院生の定員を増やすことができない。なので、論文が書ける(=研究ができる)教員を私立大も求め始めたのである。現在ではこの傾向は都市部の大規模私大に限られた傾向かと思う。しかし日本全国で私大の生き残りは激化しており、この傾向が地方の私大に波及するのは時間の問題と考えている。すなわち、今後はいわゆる地方のFラン私大でも経営のために研究ができる教員を集めることになっていくと予想する。


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