国家公務員の留学費用返還:消費者金融で1000万円借りますか?

最近、霞が関に勤務する官僚の労働環境についてのニュースを目にすることが多いような気がしますが、官僚の転職を阻害する(最大の)要因は何だと思いますか。私は「国家公務員の留学費用の償還に関する法律」であると思います。

留学費用返還制度の概要

この制度は、公費で海外留学した国家公務員が留学後5年以内に公務員を辞職した場合、留学費用の全額または一部を国庫に返還するというものであり、2006年に導入されました。法律の制定当時は、国家公務員が公費で留学しMBA等の学位を海外大学で取得した後にすぐに民間企業に転職するという事例が多く問題視されていたようです。それがきっかけとなりこのルールが導入されたようです。

制度概要:https://www.jinji.go.jp/kisya/2008/syoukanR1sanko2.pdf

田舎ペンギンの事例

私も海外留学する前に誓約書に署名をしました。その時は自分自身も留学後5年以内に辞職するとは想像しておらず、「まあサインしておくか」くらいの気持ちで署名しました。

そして、役所を辞職する際、人事課の担当者から「留学費用の一部を返還する義務があるのは知っているよね?」と言われ、辞職届と一緒に返還誓約書に署名をして人事課に提出しました。

その後、役所から辞職後約20日以内に留学費用を一括で国庫に返納しろと通知が届きました。しかも延滞金の金利はXX%だと。(具体的な数字は避けますが大手消費者金融で数百万借りるときの金利とほぼ同じです)

私の場合、留学後も数年間は霞が関で働いていましたので、返還費用は留学費用総額の半分以下でしたが、それでもちょっとしたレクサスの新車を購入できる金額でした。留学費用を返還して貯金がすっからかんになりました。汗

留学費用返還制度の運用を見直す必要はないのか

行政官の仕事に還元することを目的として公費で留学しているので留学後早期に辞職する場合には留学費用を返還するという考え方自体は全く自然なものだと思います。また納税者の立場から見ても全く当然のルールだと思います。一方で、その返還方法にはもう少し柔軟にできないものかと思います。

留学した後の公務員に対して、「役所辞めてもいいけどXXX万円を20日以内に振り込んでね。遅れたら金利XX%だからね。」は職業選択の自由という観点から見てもあまりにも厳しい条件のような気がします。せめて分割払いのような制度があっても良いのではないでしょうか。

一昔前は、海外MBAを取得した若手官僚が給料の高い外資系企業に転職し、転職先が留学費用返還の支援をするといったこともあったのかもしれません。しかし、現在、公務員の転職先は外資系企業、日本企業、ベンチャー企業、NPO法人など多様化していますし、転職先が留学費用の返還を支援してくれないことの方が多いでしょう。

税金から拠出された留学費用をしっかり返還することは大前提ですが、留学費用返還のルールの運用を見直しても良いのではないでしょうか。現行の制度は官民間の人材の流動性を低下させており、霞が関自体の人材確保という観点からもマイナスになっているのではないでしょうか。

実際に留学費用の返還が足かせとなり内定先への転職を断念した人もいます。このようなことは本人、役所、内定を出した企業の三者にとって何も嬉しいことはないように思います。

そして、皮肉なことに、少なくとも私の周りを見渡すと、留学費用の返還義務が消滅したタイミング(留学後5年後)で転職活動を開始している国家公務員が相当数います。この制度は単純に留学経験のある公務員の転職タイミングのスタートラインを揃えているに過ぎず、霞が関の人材確保という観点から何の役割も果たしていないと思います。

瑣末な論点なのかもしれませんが、今後、公務員全体の採用や人事のあり方を考える際には留学費用返還のルールも検討する必要はあるでしょう。日本の産業界において、新卒一括採用や終身雇用という考え方が崩れてきている中で、公務員の採用、人事、労働に関するルールはどんどん時代遅れになっているのではないでしょうか。

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