見出し画像

2022年将棋棋士豊島将之九段の活躍を10大ニュースで振り返り・後編(第5位〜第1位)

2022年は新生・豊島九段の快進撃の一年

前編(第10位〜第6位)はこちら↓

続いて後編(第5位〜第1位)を発表するにあたり、一年を通して強く印象に残ったのは豊島先生が昨年までとは戦術も進化し、新しい強さを身につけておられると感じた事だ。
豊島先生といえば序中盤で着実なリードを奪い、正確な終盤で相手に挽回の余地を与えずに寄せ切るといった横綱将棋のイメージが強かった。今年は途中で形勢不利となっても決め手を与えずに巧みに指し回して勝利を掴むといった場面も見られた。
これまでの経験と実績にプラスして、新たに戦い方の幅を広げておられることにより、豊島先生の強さにさらに磨きがかかった事を感じる一年だった。

第5位 王将リーグ2位残留決定

第72期王将戦挑戦者決定リーグは今年も精鋭7名による挑戦者争いから目が離せなかった。将棋界で最も過酷なリーグと呼ばれる王将リーグは、7名中1名挑戦、3名がリーグ陥落と、挑戦ももちろんだが残留を決める事も非常に困難なリーグといえる。
昨年、リーグ陥落した豊島先生は王位戦挑戦の最中に王将戦の予選を勝ち抜き、途切れる事なくリーグに復帰された。プロデビューから15年目でリーグ在籍が通算13期は驚くべき実績だ。
豊島先生が初めて挑戦したタイトル戦が王将戦であり、王将戦とは相性の良さのようなものを感じていると以前にインタビューで仰っておられた。
豊島ファンとしては何とか三度目の正直で王将位に挑戦してもらいたかったが、羽生善治先生が6戦全勝でリーグを終えられたため、挑戦者にはなれなかった。
しかし、4勝2敗で単独2位残留を決め、来期は挑戦に近い位置からスタートできることは素晴らしい成果だ。
王将戦は勝者の罰ゲーム⁈があったりスポプリが発行されたりとファンサービスが手厚い棋戦でもある。勝者の罰ゲームに戦々恐々と挑む豊島先生の楽しげな表情を捉えて頂けたら、ファンとしても本懐が果たせる。

第4位 千日手局と指し直し局の総手数は277手!浮月楼A級順位戦

午前3時18分。3月3日のひな祭りに菅井先生と繰り広げた千日手差し直し局の終局時間だ。私はこの瞬間、浮月楼の大盤解説会場にいた。興奮で眠気は無いものの、こんな真夜中には弱小棋力の私は頭がまるで働かない。解説の先生方の説明になかなかついていけずに、最後はただ祈るように戦局を見つめた。そして豊島先生の勝利。こんなにも嬉しかった夜は無かった。
午前9時の対局開始から18時間18分の戦いは、執念とか、根性とか、単純な言葉では言い尽くせなかった。何より一番驚いたのが午前3時にもかかわらず、朝と変わらずキラキラした眼差しで終局後インタビューに答える豊島先生の姿だった。

夜通しの仕事終わりは、私なら確実にビジュアル9割ダウンくらいにはひどいことになるが、豊島先生は誇張でも何でもなく、対局開始の時とまるで変わらないのだ。あー、きっとこのかたは本当に将棋が大好きでたまらないのだと心から思った。綺麗な緑色のサテン地のネクタイを締めた姿はまさにピーターパン(永遠の少年)かのように私には見えた。

第3位 チーム豊島TMF 第5回ABEMAトーナメント本戦へ

ドラフト会議後に今年も誕生したチーム豊島アカウントTwitterで、ゆるふわなチーム紹介動画が流れてきてあまりのユルさと愛らしさに悶絶したが、今年のチーム編成にあたり豊島先生は「ベテランの先生方から学びたい」と仰り、年齢が20歳近く離れた丸山先生、深浦先生をご指名された。
豊島先生ご自身も、結果的に指名した期待のはるかに上を行く素晴らしいチームだったと感じておられることだろう。

得意の一手損角換わりで後手番任せておけの頼もしさ抜群の丸山先生、闘志を全面に押し出して闘魂注入とばかりにご自身の頬を張りながら盤に向かう深浦先生。そして初進出となった本戦トーナメント1回戦では破竹の3連勝を遂げた豊島先生。
豊島先生を必ず本戦へお連れする、こんな所で終わるかたではないと繰り返し熱弁してくださった深浦先生には何度も涙した。ファンとしては全てが最高の思い出だった。本当にありがとうチーム豊島TMF、再結成を願わずにはいられない。(ここだけを読むと何やら活動休止したアーティストのようだが、れっきとした将棋棋士のチーム名である)

第2位 王座奪取ならずも今年2つ目のタイトル挑戦

昨年11月に無冠となられてから、なかなか復調の兆しがみえないように素人目には感じてしまいヤキモキしていたが、豊島先生は騒々しい外野に振り回されることなく、着実に実力を蓄えておられた。
王座戦挑戦者決定戦では昨年のABEMAトーナメントのチームメイトである大橋六段との対戦となった。
藤井竜王を倒してトーナメントを駆け上がってきた登り調子の元チームメイトに対し、元リーダーとしてしっかりと受けて立ち、終わってみれば会心譜で王座挑戦を決めた。
タイトル戦では1勝3敗で奪取ならずも、新高輪プリンスホテルで行われた第一局は後手ながら盤石の指し回しで、私はこの時はこのシリーズ、豊島先生が勝つと確信するほど強く、圧巻の将棋だった。
五番勝負は七番勝負よりも短期決戦のため、シリーズの流れ、調子の波という目に見えない敵との戦いでもある。豊島先生が第二局で優勢からの千日手指し直しとなり痛い黒星を喫し、そこから僅かに調子を損ねた事が惜しまれる。
来期は永瀬王座にとって5連覇と名誉王座がかかっており、さらに厳しい戦いが予想されるが、ぜひ豊島先生に再び挑戦者となって王座奪取を果たしてもらいたい。

第1位 王位戦 2期連続挑戦者に

やはりどうしてもこれを1位に挙げたい。
豊島先生がタイトルを全て失った後、新たな取り組みを試行錯誤しながら進めておられる道の途中、結果がすぐにはついてこないことは、これまでも長い下積みを黙々と努力し続けてきた先生ご自身が一番よくわかっておられたと思う。
「結果自然成」豊島先生が焦らず確実にとの決意を込めて選んだ言葉は、ファンにも勇気を与えてくれた。
新進気鋭の若手からベテランまで今をときめく才能がひしめく王位リーグで揺るぎない強さと存在感を示して勝ち上がり、再び挑戦者となって戻って来られた。
前期の徳島・渭水苑で奪取叶わずシリーズを終えた際、インタビュアーを務めた新聞三社連合の森本孝高記者が、またこの舞台へお戻りくださいと温かな声がけをしてくださったことが1年後に現実となった。
そして迎えた第一局、振り駒で後手となるも豊島将棋の真髄ともいえる果敢な攻撃が炸裂し、鮮やかな先勝を挙げた。竜王戦以来7ヶ月ぶりの美しい和服姿には胸が震えた。豊島先生がこの舞台へ戻るために重ねてこられた努力と生まれ変わる覚悟が結実した瞬間でもあった。
シリーズは残念ながら前期と同じ星取りとなったが、前期とはまるで意味が違った。五冠を制覇し加速度的に強さを増していく藤井王位に対し、力負けしない堂々たる豊島将棋を披露した。
彼(藤井先生)の全盛期に対等で戦える自分でいたい、以前にそうインタビューに答えた通り、豊島先生は着実に実力を上げておられる。来年もトップランナーの独走に待ったをかける最有力候補であることは間違いない。

次の世代へと引き継ぐステージへ

お伝えしてきた10大ニュースには含めなかったが、豊島先生にとって20年以上の長きにわたり見守ってくださった桐山清澄九段の現役引退は、今年何よりも特別な感慨をもって受け止められたに違いない。
11月に高槻市内で開催された引退慰労会には谷川浩司十七世名人をはじめ錚々たる棋士・女流棋士が駆けつけた。

桐山師匠への謝辞の中で豊島先生は、師匠も初めてタイトルを獲得したのが30代で、自分も焦らずに努力しよう、師匠の「堪忍果決」という言葉が励みになったと述べられた。
ちょうど入れ替わるかのようにご自身も師匠となり、師匠からのバトンを託された豊島先生。
2022年、永遠の少年のように将棋に対する強い志を持ちながらも、次の新しいステージへと踏み出す1年を過ごされた豊島先生には、2023年もきっと希望と明るい光に満ちた世界が広がっていくと信じている。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?